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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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第15話 悪は滅びるのだ!

 カエデを背負い、俺は必死の思いでダンジョンの外へと這い出した。


 出口の光を浴びた瞬間、聞き慣れた声が俺の耳に飛び込んでくる。


「マオくん!」


 ヒナタさんだ。その後ろには、レイカとイチカの姿もある。

 三人は、俺が背負っているカエデを見て顔を強張らせた。


「大変だ、カエデが……っ!」


「ええ! すぐにギルドへ戻りましょう!」


 レイカの鋭い指示に弾かれるように、俺たちはギルドへと急いだ。


 リビングのソファにカエデを横にした。

 

 カエデは荒い呼吸を繰り返し、顔は土気色だ。

 俺は震える手で、懐から一枚のカードを取り出し、皆に見せた。


「これが落ちてたんです……」


 それを見た瞬間、レイカの表情が凍りつき、直後に激しい怒りへと変わっていた。


「【呪殺】……!? これを人に向けて放ったというのですか……!?」


「カエデは……変な男にこれを撃たれてから、ずっとこんな状態なんだ! レイカ、どうにか治せないか!?」


 俺の叫びに、レイカが冷静さを取り戻して答えた。


「この【呪殺】は……確かに強力ですが、あくまで下級の魔法です。【解呪】のカードさえあれば、すぐに解くことが可能です」


「ほ、本当か!?」


「ええ。【解呪】は汎用的なスキルです。カードショップへ行けば、安価でいくらでも手に入るはず。すぐに向かいましょう!」


 カエデの看病をヒナタさんに託し、俺とレイカ、イチカは手分けして街中のスキルカードショップへと走った。


 だが……現実は残酷だった。


「……売り切れ? 一枚も無いのか!?」


 どこの店を回っても、返ってくるのは同じ答えだった。

 店員の話しでは、つい先日まで在庫は腐るほどあったのに、突然すべて売れてしまったのだという。

 

「いったい、どういうことだ……?」


 苦しそうなカエデの顔が脳裏をよぎる。

 焦燥感で心臓が早く鼓動する中、俺たちがギルドに戻ると、ヒナタさんが険しい顔で立ち上がった。


「そうだったんだ……なるほどね。……ちょっと私、心当たりがあるから、カエデちゃんをお願いできるかな?」


「え……? あ、はい。わかりました……」


 ヒナタさんを見送り、俺たちはカエデの側に付き添った。

 流れる汗を拭き、ただカエデの名前を呼び続けることしかできない。


「大丈夫かぁ? カエデぇ……」


 コロモチが今にも泣き出しそうな顔でカエデの顔を覗き込む。

 イチカも、レイカも、そして俺も。

 無力感に苛まれながら、ただ時間が過ぎていった。


 どれくらい経ったろうか。

 玄関の扉が開き、肩で息をしながらヒナタさんが戻ってきた。


「あ……カエデさん」

 

 ヒナタさんが無言でカエデの前に立った。

 

 ヒナタさんの手には、一枚の【解呪】のカードが握られていた。

 

「あ……それ、あったんですね! 良かったです!」


「……うん。マオくんの探索者カードは使えないんだったね」


 ヒナタさんの声には、いつもの明るさが欠片もなかった。

 どこか遠くを見ているような、生気のない目。

 

「私が使用いたします」


 レイカが速やかにカードを受け取り、自分の探索者カードへセットした。


「【解呪】!」


 レイカが呪文を唱えると、カエデの体をキラキラとした光の粒子が包み込む。

 澱んでいた空気が晴れ、カエデの肌に赤みが戻っていく。

 

「あ……あれ……? ここは、ギルドか……?」


「カエデ!」

「カエデちゃん!」


 目を開けたカエデの姿に、俺たちは思わず歓喜の声を上げた。


「みんな……どうしたんだ? 何があったんだ?」

 

 状況が飲み込めず困惑するカエデに、俺は事の顛末を説明した。

 ダンジョンで何者かに【呪殺】を撃たれたこと。

 そして、ヒナタさんが【解呪】を見つけてきてくれたことを。


 カエデは黙ってその話を聞いていたが、やがて悔しそうに拳を握りしめた。

 

「そうか……そんなことが……あたしとしたことが……しかし、あいつは誰だったんだ? なんで、あたしを……?」

 

 その疑問に答えるかのように、ギルドの入り口から耳障りな声が響いた。


「邪魔するぜぇ、貧乏人ども!」


 ――ドクアーク商会のジョロキアだ。

 

 奴はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、ギルドに踏み込んできた。


「『アンバーローズ』の皆さんに、忘れ物を届けに来てやったんだ。ひひ……感謝してほしいねぇ」


「忘れ物だと……?」


 俺が睨みつけると、ジョロキアは一枚の紙をヒラヒラと見せびらかした。


「それは……借用書? なんの借用書だよ!?」


 その紙に書かれていた名義は……ヒナタさんだった。


 そして、そこに記された金額を見た瞬間、俺の視界がぐにゃりと揺れた。


 その額。


 1億円。


「なっ……!? おい、これ……どういうことだよ!?」

「え!? 一億!?」

「なんだよそれ!?」


 驚愕する俺たちの前で、ヒナタさんはただ無言でうつむいていた。

 そんな俺たちの様子を、ジョロキアは楽しそうに眺めている。


「まったく、感謝してほしいもんだぜ。俺の優しい人助けをなぁ?」

 

 ジョロキアはそう言うと「ひひひ……!」と笑っていた。


 どういうことだ……?


 ……もしかして!?


 繋がった。

 最悪な形で、すべてのパズルのピースが。

 

「ヒナタさん……まさか、ドクアーク商会から【解呪】のカードを買ったんですか……?」


 俺の問いに、ヒナタさんの肩がビクッと跳ねた。

 力なく笑おうとするヒナタさんの顔は、今にも崩れ落ちそうだった。


「……うん。あそこになら、あるかなと思ってさ……」


 ――確信した。


 カエデを襲ったのは、ドクアーク商会の差し金だ。

 奴らは街中の【解呪】のカードを買い占め、俺たちが困り果ててあいつらの元へ泣きついてくるのを見越しての罠。


 そして足元を見て、【解呪】のカードを1億円で売りつけたんだ。

 

 ヒナタさんは……それを分かっていて、それでもカエデを救うためにドクアーク商会に行ったんだ。

 

 ドン!と机を叩く音がした。

 ジョロキアが借用書をテーブルに叩きつけたのだ。


「これで、借金は合計2億だ。今月中に支払ってくれるんだったんだよなぁ? ……ひっひひ、楽しみにしてるぜぇ!?」

 

 ジョロキアは満足げに背を向け、ギルドを出ていった。

 静まり返ったリビングに、絶望だけが残る。


 終わった。

 2億もの金を、払う事なんて出来ない。

 これが、ジョロキアのやり方なのか。


 するとカエデが、震える足で立ち上がった。

 

「……あ、あたしのせいで……ごめんなさい……ご、ごめんなさい……!」


 真っ青な顔をしたカエデの、悲痛な叫び。

 俺はたまらず、カエデの両肩を強く掴んだ。

 

「カエデ! お前のせいなんかじゃない! お前は何も悪くない! 悪いのは全部、あいつらなんだ!」

「そうだよ、カエデちゃん! 責任を感じないで。これは、ギルドの不始末を解決できなかった、私の責任なの……」


 ヒナタさんはそう言って、カエデを優しく抱きしめながら、さらにカエデに伝えた。

 

「カエデちゃん、私のせいで危ない目をあわせてしまって本当にごめんね……」


 カエデはヒナタさんの腕の中で、子供のように声を上げて泣き崩れていた。


 ジョロキア……ドクアーク商会……

 どす黒い怒りが、俺の腹の底でふつふつと煮えくり返る。

 今すぐ、あいつらを殺してやろうか――そんな感情が爆発しそうになった時だ。


 ふと、リビングでつけっぱなしになっていたテレビの音が耳に入った。


『……さて、本日突如として始まった下級トレジャーダンジョンのフィーバータイム。探索者の皆さんの間でも大きな話題となっていますね』

『ええ、実に一年三ヶ月ぶりです。未だ目玉である魔道具の出現報告はありませんが……』

 

 俺はなんとなく、画面を凝視した。

 コメンテーターの言葉が続く。

 

『このダンジョンの有用なお宝は何でしょうか?』

『大当たりは何といっても二つ。実用的な【速度向上】のスキルカード。これ一枚で1億円は下りません。そして、それ以上に希少で、2億円以上の価値がつくとされる幻の逸品が……』


 テレビの中の人物が、フリップを指差して言った。

 

『それは……この【魔法無効のガントレット】です。見た目はただのボロボロな左手の小手ですので、知識のない探索者がゴミとして捨ててしまうことも有るそうですよ』


 画面に映し出された、錆びついて薄汚れたガントレット。


 俺は、自分の左手にはめられたガントレットと、画面の画像を何度も見比べた。

 

「同じやつ、じゃん……?」


 さっき、確か2億って言ってたよな?


 俺は慌てて、言葉にならない声を上げながら、皆にテレビを指差して説明した。


 そして、ポカンと口を開けて固まる一同。


「……あー、これで解決、だよな? なんていうか、ギルドの借金も長い間、俺たちの中でずっと大変だったけど、解決する時はあっけないもんなんだな?」


 俺が努めて明るく言うが、みんなのフリーズは解けない。

 誰も何も答えない。


 静まり返ったリビングに、テレビのバラエティ番組の笑い声だけが響く。


「お、おい。みんな、生きてるか? おーい?」


 みんなのほっぺをつついたりしたら、突然。


「す、すごい! マオくん、こんなことって……!」

「嘘だろ!? そのボロボロみたいなのが2億!? 2億なのか!?」

「マオさん……やはりあなたは、運命に愛されているのですね」

「面白い話だのう、マオよ!」


 一気に騒がしくなるギルド。


 カエデがよろよろと俺の元へ歩み寄り、その大きな瞳からポロポロと大粒の涙をこぼした。


「ほ、本当に……あたしのせいでギルドが潰れたり、しないのか……?」

 

「ああ。解決だ。だからもう、自分を責める必要なんて少しも無いよ」


「う……うああぁぁ!!」


 カエデが俺の胸に飛び込んできて、大声で泣きじゃくった。

 張り詰めていた緊張の糸が切れたんだろう。

 

 隣ではコロモチが腕を組み「うむうむ!」と自分のことのように偉そうに頷いている。


 ――これでドクアーク商会への借金はなくなる。

 このギルドを長年縛り続けてきた呪いは、ようやく解けるんだ。


 だが、俺の胸の中には、それだけで終わらせたくないという思いがあった。


「……みんな。ちょっと聞いてほしい事があるんだ」


 俺はみんなに思いついた計画を話し始めた。

 ただ借金を返すだけじゃ面白くない。


 あいつらに、最高の復讐を。


「……なるほど。マオさん。さすがです!」


 レイカが感心したように、どこか楽しげに微笑む。

 

 そしてコロモチが身を乗り出して、大きな声で言った。


「マオよ。面白い作戦だな! あの不敬な(やから)どもを、我の前に(ひざまず)かせてくれるわ! くくく……悪は滅びるのだ!」


 魔王が、嬉々として「悪は滅びる」なんて言っている。

 矛盾した光景に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

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