第51話 アダマンタイトへの昇格
「クラン設立には、最低四人のメンバーが必要なんです」
「うんうん」
「百人を超える大規模なクランもあるんです」
「へぇ~、すごいわねぇ」
「強豪だったり信頼のあるクランは国や貴族から直接依頼が来たり、専用の拠点や特権が与えられたりもして――」
「ふぅ~ん?」
「も、もう~!エリュさん、聞いてますかぁ?」
「聞いてる、聞いてる」
「エリュさんが質問したんですよぉ!」
いつものように、一生懸命に健気に説明してくれるミィちゃんが可愛すぎて、クランの話はどうでもよくなった私は、彼女をほっこりしながらじっと見つめてた。にこにこと幸せそうな顔で見つめる私の視線に、ミィちゃんの頬がじわじわと赤く染まっていく。
ここはミィちゃんのカフェの奥、私に半ば占領されているリビング。柔らかなソファに並んで座っていたはずなのに――気づけば身を寄せ合ってた。
ぷくっと頬を膨らませる仕草すら愛おしくて、私は思わず手を伸ばしてしまう。
「だってぇ、ミィちゃんが可愛いんだもん」
「きゃっ……!」
ひょい、と軽く持ち上げれば華奢な体は驚くほど素直に腕の中へ収まる。そのまま膝の上に座らせ、後ろからそっと抱き寄せると、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐって、胸の奥まで蕩けそうになる。
「も、もう~、もう~!説明の途中なんですからぁ……」
「はいはい、続けてどうぞ?」
言いながらも、頬をすり寄せて撫でてしまうのは止められない。ぴくり、と肩を震わせるミィちゃんが可愛すぎて、つい悪戯心がむくむくと顔を出す。
「ひゃ……っ、ちょ、エリュさん……」
優しく撫でて触れるたびに彼女の体が小さく跳ねる。その反応がいちいち愛らしくて、つい指先が離れなくなる。そのまま指は体をなぞり彼女の大きな果実を包み込む。
「もっ、もう~!ほんとに、もう~!」
「あらあら、牛さんになってるわよ?」
抗議しているはずなのに、どこか甘く崩れた声になってしまっているのがまた罪深い。腕の中で身を捩るその様子に私はご満悦だった。
――そんな中、テーブルの上に置かれていた新しいプレートが、きらりと光を反射する。
先ほどギルドへのお使いから帰ってきたミィちゃんから渡された、漆黒の金属に角度によって虹色の輝きが走るそれはアダマンタイトの証。どうやら私はまた昇格してしまったらしい。
……でも、今さらなのよねぇ。
かつて夢見た「俺ツエー!スゲー!カッケー!」的なやつは、達成してしまった。偶然悪党をぶっとばして英雄の称号を貰って、もはや人々の私を見る目が尊敬と羨望に溢れてる。街の乙女たちに黄色い歓声を浴びてるし、そんな欲は充分満たされているのだ。
となると私のこれからの目標は、異世界の観光と冒険。そして何より世界中の美女に会いに行き百合の花園を創ることだ。
「……あっ、そこ……だめぇ……」
「ふふ、柔らかぁい」
ミィちゃんのおっきな胸をふにふにと揉みながら考える。ちょっと抵抗しながら身を捩り、頬を赤く染めながらどこか嬉しそうなその様子が、どうしようもなく愛おしい。
クランについては百合の花園の器になるかもと思って聞いてみたのだ。でも、彼女の可愛らしさにすぐにどうでも良くなっちゃった。てへぺろっ。
現状が居心地良すぎるの。ミィちゃんのカフェもあるし、フィオルの皆はちやほやしてくれるし、貰った大きな屋敷もあるし、カリオン王国は私を祀ってくれる。
何といっても純粋無垢で常に瑞々《みずみず》しいミィちゃんが可愛すぎてメロメロな私は、世界中の美女を探しに行くまでもなく現状に満足しているのだ。百合の花園を作るのは魅力的だけど、少なくとも今はわざわざ旅に出る気がしない。ニートな堕天使に逆戻りだ。
そんな百合の花園を創る私の目標は、ミィちゃんに全部話してる。ちょっとヤキモチ焼いてたけど彼女はそれを予想してたみたい。
「私の事もちゃんと愛して下さいね?」って可愛く言うもんだから「もっと愛していいのね?」と返すと、「や、やっぱり手加減を……」などとごにょごにょ言いながら後ずさりし始めたので、ずりずりとお部屋にお持ち帰りして、しこたま愛でてあげた。
「それとですね……あっ……ギルド本部から連絡が……」
「ん~?」
「アダマンタイト冒険者が……二人カリオンに……んっ……向かってるみたいなんですぅ……」
「へぇ?それが何かあるの?」
相変わらず離さない私に、一生懸命ミィちゃんは話を続ける。
「エリュさん目当ての可能性があるって……ひゃっ……ね、念のため気を付けるようにって……」
「へ~?何かな?ファンかしら?」
心当たりが全く無い私は、首を傾げた。
「どうやら一人はぁ、あっ……この前の大事件で、因縁があるみたいです……」
「因縁??」
……よく分からんけど、まぁいっか。そんなことよりも腕の中の温もりと柔らかさの方が大事だった。
「んっ……もぉう!お話ちゃんと聞いてくださいぃ……!」
「聞いてるってば~、ほら、続けて?」
「も~うぅ!」
弄り倒されてるミィちゃんはやがて観念したように力を抜いた。そのまま可愛く預けられる体の温もりに、私はキスをして上機嫌に体を重ねた。
――嵐が近づいていることなど、まるで知らないまま。
その頃――
カリオン王国の王都へと続く街道を、一台の豪奢な馬車が進んでいた。
窓際に腰掛ける美女は、ゆったりと脚を組みながら退屈そうに外を眺めている。
長く艶やかな黒髪は、夜を溶かしたように深く、毛先にかけてわずかに赤みを帯びて揺れていた。瞳は灼けるような紅。炎の芯を閉じ込めたかのように、静かに燃えている。
身に纏うのは、魔女を象徴する三角帽子と、暗紅色のローブ。
だがそれは単なる衣ではない。身体の線を強調するように仕立てられており、豊満な胸元とくびれた腰、しなやかな脚線が、隠すどころかむしろ際立っていた。
成熟した色香と、圧倒的な存在感。“魔女”という言葉が、これほど似合う女もいない。
彼女の名は――焔嵐の魔女。
炎と風を融合させた異端の魔法を操り、戦場を災厄へと変える存在。その魔法は、燃やすだけでは終わらない。嵐となって広がり、逃げ場を奪い、すべてを巻き込み焼き尽くす。
そして何より――性格が最悪だった。
傲慢、高慢、身勝手、意地悪、尊大、性悪、横柄、不遜、自分本位。
気に入らなければ焼く。面白そうなら壊す。
まさに、歩く災害。そして本人は、それを一切悪いと思っていない。
「ここがカリオン王国……ふぅん?」
窓の外に広がる穏やかな農地を見て、つまらなそうに鼻で笑う。
「田舎臭いわね、畑しかないじゃない」
その妖艶な唇は次の瞬間、ゆっくりと吊り上がった。
「待ってなさい、田舎の英雄」
視線の奥に浮かぶのは、たった一人の存在。世界を騒がせた新星、黒冠を潰した女、英雄となった女。そんな存在が魔女の勘に触ったのだ。
「身の程を教えて、分からせてあげる」
指先で髪を弄びながら、愉しげに笑う。それは獲物を見つけた獣のようであり、舞台を前にした道化のようでもあった。
「そして私の奴隷になりなさい、飼ってあげるわ」
くすり、と喉を鳴らした。その笑みは、とても美しく――そして、ひどく危険だった。
焔嵐の魔女、カリオン王国へ――到着。
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