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堕天使ちゃんは逃げ惑う  作者: 霞灯里
第2章 カリオン王国

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第49話 《閑話》ルリミィアの独白(1)

私は――生まれて初めて、恋をしています。


胸の奥がふわふわして、でも時々きゅっと苦しくなるような、不思議な気持ち。こんな感情を自分が抱く日が来るなんて、想像もしていませんでした。


そして、そのお相手は……男の人ではありません。


冒険者のエリュシェルさん。美しくて、凛としていて、自由で、眩しくて――気がつけば私は、彼女の姿をいつも探してしまうようになっていました。


同性の人をこんなにも好きになるなんて……最初は戸惑いました。


でも、好きという気持ちは理屈では止められません。心が勝手に彼女を追いかけてしまうんです。声を聞くだけで嬉しくなって、名前を呼ばれるだけで胸が跳ねる。こんな自分に驚きながらも、その変化がどこか幸せで、私はそっとこの想いを大事に抱きしめています。


エリュシェルさんとの出会いは、まさに絵本の物語みたいに突然でした。


あの日、私の前に現れた彼女は、まるで本当に女神さまが降り立ったかのように眩しくて……小心者の私は、その衝撃に耐えきれずにその場で意識を手放してしまいました。


――あの瞬間から、私の心はきっと、彼女に惹かれ始めていたのだと思います。


私や母を悩ませていた大きな問題を、彼女はまるで散歩のついでみたいな顔で、あっさり解決してしまいました。そして、私が攫われたあの恐ろしい出来事のときには、本当に物語の王子様みたいに助けに来てくれて……しかも、悪い人たちを軽々とやっつけてしまうんですから。かっこよすぎました。


怖かったはずなのに、助けに来てくれた彼女の姿を見た瞬間、安心のあまり涙が出てしまいました。同時に、胸がどくどくと鳴って、息がうまくできなくて――ああ、これがきっと「恋」っていうものなんだ、と理解したんです。


私は十三歳のころ、病気で父を亡くしました。


お父さんはとても頼りがいがあって、優しくて、何かあればすぐに助けてくれる人でした。私はそんなお父さんに甘えっぱなしで、困ったことがあればすぐ縋りついてしまう、甘えて依存しすぎる情けない娘だったと思います。


だから、お父さんが病に倒れたとき自分を責めました。「私は悪い子だ」「私が頼りすぎたからだ」なんて、暗い感情に囚われて長い間ふさぎ込んでしまったんです。当時はそれしか考えられませんでした。


そして――そんなお父さんの面影が、エリュシェルさんと重なるんです。


自分の手に負えないような大きい問題でも、どんな時も手を差し伸べてあっさり解決してくれるところ。見返りなんて何も求めず、当然のように助けてくれるところ。そんな背中の頼もしさが、あまりにもお父さん似ていて……気づくとまた、私は寄りかかりたくなってしまうんです。


そんな彼女は、英雄の称号まで得てしまいました。それなのに全然偉ぶらなくて「ミィちゃんとお茶する方が嬉しいわ~」なんて言って笑うんです。そんなところもずるいくらい素敵で……私はまた胸がときめいてしまいました。


そして今、私は英雄になった彼女の専属受付嬢として働いています。


最初に聞いたときは、夢じゃないかと思いました。お給料の額があまりにも大きくて、返そうとしたくらいです。だって、以前より仕事量はずっと減っているのに、収入は比べものにならないほど増えてしまっていて……正直、まだ現実味がありません。


「ミィちゃんは働きすぎよ!お金はね、お店の従業員を雇ったり、自分のために使えばいいのよ~!」

「ええっ!」


そんなふうに言われて、私は目を丸くしてしまいました。


「ほら、時間に余裕ができたらデートにも行けるじゃない!私はミィちゃんとお出かけしたいわぁ」


その言葉に、胸がどきんと跳ねました。“デート”なんていつも軽く言いますけど、私にとってはとても特別な響きで……顔が熱くなるのを隠すのに必死でした。


結局、彼女に背中を押されてお店の従業員も雇い、時間さえもかなり余裕ができました。それなのに貯金はどんどん増えてますし、いつもエリュシェルさんが居るから、実家の食堂は「英雄が訪れる店」として国でも評判になって、更に賑わうようになっちゃいました。


まるで本当に幸運の女神さまみたいです。――いえ、私にとっては、もう女神さまそのものかもしれません。


だけど、私は自分が怖くなることもあります。油断すると、また甘えて依存しきってしまいそうで。お父さんにしてしまったように、全部を預けてしまいそうで。


だから、思い切って彼女に伝えました。


「私は依存しすぎちゃうんです……だから、あまり甘やかせすぎないでください……」


するとエリュシェルさんは、なぜか物凄く目をきらきら輝かせて、私の手をぎゅっと包み込んだんです。


「いいのよ、思いっきり依存しなさい!何でもしてあげるわ!私なしでは生きられなくなるのよ!」

「えっ、ええっ!?」


あまりに前のめりの勢いのある返事に、私はぽかんとしてしまいました。


えっ……い、依存していいんですかぁ……?

ほんとに……私、あなたがいないと生きていけなくなっちゃいますよ……?


そんな依存心さえも、彼女に注がれる優しさに上書きされて、温かく胸の奥で静かに揺れ安心に変わりました。




時間に余裕ができた私を、エリュシェルさんはデートへ連れ出してくれました。


自宅で手料理を食べてくれたり、静かな図書館で肩を寄せ合って本を読んだり、甘い香りの漂うケーキ屋さんで他愛もないお話をしたり――彼女と過ごすだけで世界が少し輝いて見えるのです。


買い物に行けば「ミィちゃんにはこれが似合うわ」と次々に服やアクセサリーを選んでくれて、プレゼントしてくれて。そのたびに恐縮しちゃうけど、嬉しくて胸がいっぱいになる。夢のような時間という言葉が、こんなに現実味を持つ日が来るなんて思いませんでした。


そして夜――


広大な草原に寝転び、満天の星を見上げていた時でした。そっと肩を抱き寄せられた瞬間、胸の奥に溜め込んでいた想いが一気に溢れ出しました。胸がきゅっと締めつけられるほど嬉しくて、どうしようもなくドキドキしてしまいました。


美しい彼女に見つめられるだけで体温が上がり、触れられるたびに鼓動が跳ねる。頬に触れる指先はいつも優しくて、まるで壊れ物を扱うみたいに丁寧で。髪をそっとかれたり、優しく体を撫でられると、心臓が跳ね上がって、息が浅くなってしまう。とろけそうになって、思わず声が漏れてしまって……。


でも、でも、あと少し、ほんの少し近づけば、もっと深く繋がれるというとこで……エリュシェルさんは、いつも決して一線を越えないんです。


その優しさが愛おしいのに、同時に切なくて苦しくて。


もっと触れてほしい、もっと求めてほしい、もっと欲しい。


もっともっと――愛されたい。


胸の奥に閉じ込めていた「悪い子の鎖」が、少しずつ外れていくのを感じていました。


だから、ついに私は覚悟を決めたのです。


エリュシェルさんを、誘ってみせるって!


私はオオカミさんになるのです!





ぎこちない声で自室へお昼のお誘いをしたとき、彼女は一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに頷いたのを見て、胸の奥が熱くなりました。


プレゼントしてくれた服の中でも、ネグリジェのようで一番大胆な、薄手のタイトなワンピースを選びました。ちょっとえっちで恥ずかしくて仕方ないのに、「可愛いって思わせたい」という気持ちのほうが勝ってました。


もじもじしながら部屋で軽食をとっていると、彼女がふっと意味深に微笑んだのです。


「ついにこの日が来たのね……ずっと待ってたわ」

「えっ??」


驚いて顔を上げると、彼女はいたずらっ子のような瞳でこちらを見ていました。


「ミィちゃんが、その可愛い服で私を誘いに来てくれるのを……」

「……?……えっ、ええぇっ!?」


言葉の意味を理解した瞬間、顔が一気に熱くなりました。恥ずかしさと嬉しさと、少しの悔しさが混ざって胸が大騒ぎする。


か、彼女は、私を焦らして待ってたんだ……我慢できなくなるくらい!


恥じらいに身を捩じる私をお姫様のように抱き上げられた時には、心臓の音が自分でもうるさいほど響いていました。


「ねぇ、ミィちゃん……どうして、このえっちな服で私を自室に誘ったの?」

「ひっ、ひゃぁん!」


耳元で囁かれるだけで、体の奥が震え彼女を求めます。優しく頬を撫でられ、髪をかれ、抱きしめられ……体が歓喜の悲鳴を上げるようで、身動きが取れません。


「私に、どうして欲しかったの?」

「……愛して欲しい……ですぅ……」


彼女の胸に顔を埋め、観念した私の口から少しだけねた声が出てしまいました。


やっぱり彼女こそオオカミさんでした。私は美味しく食べて貰うために自分で飾りを付けた羊です……!


エリュシェルさんは、ぎゅっとまた抱きしめてくれた。優しいのに、どこか熱を帯びた触れ方で、体の奥がじんわりと甘く痺れていきました。


「じ、焦らしてたんですね……」

「大切だからよ。ミィちゃんが、本当に望むまでちゃんと待ちたかったの」

「いじわるです……」


そう言われると、嬉しくて幸せで、拗ねられなくなっちゃう。


「……私、エリュシェルさんに愛されたいです、もっともっと、近くで……」

「フフッ、いっぱい愛してあげるわ」




優しく唇を重ねられて、思考がふわりと溶けていきます。シーツに沈みながら、胸の鼓動と彼女の体温だけが確かな現実になっていきました。私はただただ、彼女の名前を小さく呼びながら、その腕の中に身を委ねました。


意識は、甘くとろける快感に、溶けていったのです。







チュン、チュンチュン――


朝……?

えっ、朝!?


がばっと、身を起こしました。


………………な、何度、意識を失っちゃったんだろう……!?


も、もう数えられない……!


「ミィちゃん………目が覚めたのねぇ」

「ふえぇっ!」


びしょびしょになったベッドの上で、全裸の彼女がにゅるんと肌を(こす)り付けながら重ねてきて、唇を合わせました。


「ミィちゃん……♡」

「あっ、あのぉ!も、もう、無理ですぅ!愛されすぎて、溺れそうなんですぅ!」

「まぁだぁ、愛し足りないのぉ~、ほら、こんなになっちゃって……ミィちゃんったら~」

「ひゃっ、ひゃぁあん」


か、彼女はやっぱり、オオカミさんでした!


「夜はこれからよ~?」

「もう朝なんですぅ!!」

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

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