第48話 亜麻色の恋人
あの悪徳商人の豚野郎を成敗してから、気が付けばもう一か月が過ぎていた。
私としては降りかかってきた火の粉を振り払っただけ――本当にその程度の感覚だったのだけれど、どうやら世間的には大事件だったらしい。
改めて領主や騎士団、ミィちゃんや冒険者ギルドから話を聞かされるにつれ、「そんな大事だったの?」と何度も首を傾げる羽目になった。
どうやらあの豚野郎とその背後にいた連中は、世界各地で暗躍していた極めて危険な闇組織――黒冠なる闇ギルドだったらしく、世界中の国々が長年手を焼いていた存在だったらしい。そんな連中を壊滅させ、しかも幹部ごと全員を捕縛した事で世界中が大騒ぎになったようだ。
まずカリオン王国から支払われた謝礼金の額が、もう意味が分からないレベルだった。大量の金貨や宝石の詰まった箱がいくつも送られてきて、「カリオン王国としての謝礼です」とレオンに頭を下げられたときには、さすがの私もぽかんとしてしまった。ちょろまかした五つの黒箱なんて、ゴミのように霞む程だった。桁が違う。
そして、カリオン王国から正式に“英雄”の称号まで授けられた。ドラゴンが宝石を抱いたような金の勲章を頂いて、時折胸元に付けることにした。
これモテるぅ?モテるでしょ?絶対モテるよねぇ??
実際、街を歩くだけで乙女たちから黄色い歓声を浴びている。「エリュシェル様すてきー!」「女神様ぁ!」「氷の女王さまー!」と声を掛けられ大変ご満悦である。笑顔も三割増しになるわよね。
領主のレオンは特に熱烈で、頻繁に現れると「どうかこれからもカリオン王国に、フィオルに居てください!」などと何度も何度も口説きに来て、宝石やら貴金属やら花束をどっさりと贈られ、ついには北側の貴族街にある巨大な屋敷まで贈られてしまった。
その屋敷ときたら、あの豚野郎の屋敷より二回り以上は大きく、庭もあまりに広い。とりあえずその庭の片隅に神聖なる我が城――あの鏡の聖域をどーんと設置した。庭を豪奢な神殿が飾り、なんだか意味不明な豪邸になった。まあ住みやすいからいいけど。
更にそれだけで終わらなかった。
冒険者ギルド本部から正式な褒賞が届き、世界各国の王侯貴族や大商会からも感謝の印と称した贈り物や謝礼金が次々に送られてきたのである。高級ワイン、調度品、宝石細工、魔導具、絹織物、何に使うのか分からない謎の骨董品まであり、空間収納が宝物庫みたいになってきた。
とりあえず「これで一生食べ歩き出来るわね」という、極めて現実的かつ素晴らしい結論に至る。
そんな贈り物に溢れ返る中、冒険者ギルドのギルマスが「ワシの権限ではこれが上限じゃあ!一旦これで我慢してくれい!」と差し出してきたのは、金色に輝くライセンスプレートだった。
――ゴールドランク昇格。その瞬間、私の頭の中に浮かんだのはただ一つ。
「ゴールドランクということはァ!専属受付嬢ォ!!!」
当然のように私はミィちゃんを指名した。可愛いミィちゃんを私の専属にできるとか最高か!素晴らしい店だわ!!
お金よりも英雄よりも、これが一番嬉しくてテンション爆上がりの報酬だった。それだけでなく、どうやらギルドから後日何か話があるらしい。
そんな中、ふと思うこともあった。
そもそも大事件に発展したのって、あの黒箱をちょろっとパクって、それで借金問題を片付けた辺りからよねぇ。もちろん悪党に同情の余地は無い。理不尽な借金背負わせミィちゃんを追い詰め、偽金貨をばら撒いてるような連中が悪いに決まってる。でも、パクった偽金貨で目を付けられて、ミィちゃんが攫われて、事態があそこまで膨れ上がったのも事実である。
うーん……そう考えると、ちょっとだけ私のせいもあったのかも?ほんのちょっとね?
ミィちゃんは無事だったし、世界は平和になったっぽいし、私はお金持ちで英雄でモテモテだし、結果オーライということよね?私はしみじみそんなことを思い返し、次の瞬間にはどうでもいいことのように忘れた。
ちょっと、順調すぎない?私の人生。
なんだか人生の幸運ポイントを一気に使い切った気がするんだけど。私、このあと突然死んだりしないよね?ちょっと怖いんだけど。私、死ぬ?死ぬの??
「ねぇ、ミィちゃん、私死ぬのかな?」
「ええっ!?どっ、どうして……ですかぁ……?」
窓から差し込む柔らかな午後の光が、淡くカーテン越しに部屋を照らしていた。ぬいぐるみや可愛い雑貨に飾られた部屋は、まるで乙女の匂いを閉じ込めたかのように甘く香り、愛らしさに溢れている。
ここはとっても女の子らしい、ミィちゃんのお部屋。小さなテーブルには食べかけの手作りのサンドイッチと果物ジュースが並んでいた。あの事件を経て彼女との距離は一層縮まり、もはやゼロ距離である。
「だってぇ……、こんなに幸せなんだもん」
「そっ、そんなぁ……!」
私たちはべッドの中央で乙女座りに向き合い、見つめ合っていた。清楚な薄手のワンピースで豊満な体のラインを強調したミィちゃんが、全身を真っ赤に染めながら翡翠色の潤んだ大きな瞳を恥ずかしそうに泳がせている。
私の指先が彼女の頬に触れると、「ひゃぅんっ!」と大きく跳ねた。その声の可愛らしさに微笑みながら、指先で彼女の亜麻色の髪をそっと撫でる。指の間を滑るシルクのような柔らかさと温もりに、心がひどく昂ぶっていく。
私はそっと彼女の手を取り、自分の胸に沿わせた。小さく震える手のひらに私の胸の高鳴りが伝わり、二人の荒い息遣いがひとつの旋律のように奏でる。体中に熱が籠り、心の奥底から情欲が波のように押し寄せた。
「ミィちゃん……、愛してるわ」
「エリュシェルさん……わ、私も……大好きです……!愛して、ます……」
まるで世界が二人だけのために存在しているかのように感じられた。彼女の柔らかな体を抱き寄せ、桃色の唇にそっと口づけをする。初めての感触に彼女の体がびくんと跳ね、小さな震えが手に伝わる。初心で純粋無垢な彼女を怖がらせないように、優しく柔らかく、唇を合わせ続ける。
「んっ……んっ、んんっ……!」
ひとつ、またひとつ、甘く切ない吐息が漏れる。指先で彼女を撫でる度に、体が敏感に反応しそれが直接伝わってくる。小さな嗚咽が幾つも零れ、私たちは互いに体を抱き寄せ合った。
「あっ、んっ……!んっ~…!」
長く重ねた唇は互いの呼吸を感じ取りながら、ゆっくりと深く結ばれていく。ゆっくりとくすぐるように、唇を舐めてから侵入した。彼女は何度も体を小さく跳ねさせながらも遠慮がちに触れてきて、やがて結ばれるかのように深く絡み合った。
飢えたように夢中に貪り合いながら、手は自然に彼女の体を滑り、指先が柔らかな布地の下に触れる。ミィちゃんは幸せそうに身を預け、甘い吐息を漏らしながら私を引き寄せた。
可愛らしい部屋に不釣り合いな、甘く乱れた吐息の揺らぎと、蜜が滴るような水音が零れゆく。悠久に続くかの時間の中でゆっくりと顔を離すと、名残惜しそうにとろんと恍惚の表情を浮かべるミィちゃんがいた。その扇情的な姿に猛烈に情欲を猛らせた私は、彼女をそっとベットに押し倒す。
「あぁっ……!エリュしゃん……、そ、その、私、初めてで……!」
羞恥に塗れたように全身を更に真っ赤に染め、震えながら大きな胸を揺らすミィちゃん。にっこりと微笑みながら間近で目を合せる。
「ミィちゃん……わかっているわ。ゆっくり優しく、大事に大事に愛してあげる。私に全部任せなさい」
「……はっ、はぁい……♡」
ミィちゃんの信頼に満ち安心しきった嬉しそうな表情と、潤んだ瞳が「愛しています」と叫ぶように訴えていた。耳元で囁く愛の言葉に彼女は甘い吐息を漏らし、身をくねらせた。
「あぁっ……」
宝物を扱うように優しく触れ指先を滑らせる。象牙のように白く滑らかな肌の感触に、心が蕩けるような幸福感が広がる。互いの素肌が重なり合い、熱がより増していく。私たちは再び唇を合わせ深く絡み合わせるのであった。
ここから先は二人だけの秘密。
この日、私はミィちゃんと身も心も結ばれた。愛情と信頼が重なり合った、祝福すべき記念日となった。
第二章 完
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