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堕天使ちゃんは逃げ惑う  作者: 霞灯里
第2章 カリオン王国

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第46話 世界の窓辺から(上)

カリオン王国にて、世界最悪とまで謳われる闇ギルド――黒冠(ブラッククラウン)。その一角を担っていた幹部の十葬(ナイトレイス)の一人が捕縛される。


この速報は事件からたった数日のうちに、カリオン王国と冒険者ギルドを通じ一気に世界中を駆け巡った。それは興奮と歓喜となり、やがて抑えきれぬ熱狂となって、人間世界の隅々にまで雪崩のように広がっていった。世界中の人々は声を上げ、叫び、沸き立った。


なぜなら――それは誰も成し遂げたことのない偉業、一度たりとも記されたことのない、前人未到の大事件だったからだ。


黒冠は影であり、呪いであり、災厄そのものだった。国家を裏から操り、王を殺し、貴族を暗殺し、街を内側から腐らせ、そして証拠一つ残さず消える。その構成員は死を選ぶことすら任務の一部とされ、ゆえに黒冠の実態は常に霧の中にあった。


それを――生きたまま、無力化し、拘束し、引き渡した。


最初は噂として、次に半信半疑の報として、そして最後には疑いようのない事実として。やがてその活劇の中心にあった名が、世界中の人の耳に焼き付くことになる。


――エリュシェル・フォールン


前歴なし、冒険者登録からわずか一か月。彗星のように現れたその新米冒険者の名は嵐のように世界を席巻した。






――カリオン王国、王城の謁見の間にて。


荘厳な石造りの広間には、王国中枢を担う貴族と騎士たちが居並び、重苦しさと高揚が入り混じった空気が満ちていた。その中央、玉座の前にて、レオン・ヴァルクは片膝をつき、騎士の礼を取っている。


老王は静かに彼を見下ろし、やがて深く、噛みしめるように言葉を紡いだ。


「レオンよ……我が騎士よ……。よくぞ、よくぞ、成し遂げた。この王国の長き歴史において、これほどの功績を挙げた騎士はおらぬ」

「はっ……。しかしながら、この栄誉は私のものではございません。黒冠を捕縛したのは、すべてエリュシェル殿お一人のお力によるもの。私はそれに居合わせたに過ぎません」


王はしばし沈黙し、やがて穏やかな笑みを浮かべた。


「それでもじゃ。黒冠を追いつめ、逃がさず、機を繋いだ。それはお主が成し遂げたことじゃ」

「……はっ」

「運命のように全てが噛み合った奇跡。その歯車の一つに、お主がいた。胸を張るがよい」

「はっ!そのお言葉、有難く頂戴致します」


王は「ほっほっほっ」と上機嫌そうに笑った後、その表情にわずかな寂しさが滲んだ。


「それにしても……エリュシェル殿には是非、この場に立ち会ってほしかったものよ……」

「何度もお声がけいたしましたが、すべて固辞されまして。名誉や地位には、全く興味がないご様子です」

「……清廉、という言葉が、これほど似合う者もおらぬな」


老王はゆっくりと立ち上がり、宣言する。


「我が国は、エリュシェル殿を正式に英雄として讃えようぞ。カリオン王国の歴史において、初めて名を刻まれる英雄として――盛大にな」

「はっ!……つきましては併せてお願いをさせて頂いた件について…」

「ほっほっ、もちろん分かっておる。儂みずから冒険者ギルド本部に掛け合うぞい」


冒険者とは根無し草。世界中を旅する者。しかし、その英雄の誕生した国としてこの上なき誉れを授かったと、老王は心が震えるほど感激していた。






――ルヴァニア王国、冒険者ギルド本部にて。


巨大な城塞を思わせるギルド本部、その最奥に位置する執務室では、グランドマスターのカイン・アイゼンが、突然の大きすぎる吉報に地獄を見ていた。地獄の正体は、世界各国の王や重鎮達による各種問い合わせである。黒冠が捕縛された日より、ギルド本部はてんてこ舞いの大忙しだ。


各国王侯からの祝辞、謝礼金の申し出。捕縛された黒冠に関する問い合わせ。情報共有の要請。共同調査の提案。等々。机の上に積み上げられた書類は山のようで、床にまで溢れ返っている。


「……ヒュー……ヒュー……」


嫌な呼吸音を漏らしながら、カインは椅子に深く腰を沈めた。黒冠の捕縛など、冒険者ギルドどころか世界中の国々においても、一度たりとも成功例の無い偉業。それを成し遂げたのが我が冒険者ギルドの一員だという事実は誉れ高き栄誉で鼻が伸びると同時に、途轍もない激務が圧し掛かり男の精神を擦り切らせていた。


そんな地獄の執務室にノックの音が響き、眼鏡をかけ長い髪をきっちりと分けた美人秘書、リーシェが入室してくる。彼女は手に持った書類を見つめながら言葉を流した。


「マスター、交易都市フィオルのギルドマスターと、現地調査団からの第一報を纏めました」

「……ほう、読め」


「冒険者エリュシェル・フォールン。冒険者登録から僅か約一か月。全くの無名で前歴は何もありません。フィオルに突如現れ、女神の如き美貌で一躍有名になったとのことです」

「どこから湧いてきたんだ……そんな奴……。念のため各国に尋ねてみろ」


分かりましたと眼鏡を上げ、秘書は続けた。


「カリオン王国では既に英雄として讃えられてます。国は正式に英雄の称号を彼女に与えました」

「……で、どうなんだ?」

「どう、とは?」


カインは額を押さえ、彼にとって何より最も恐れていた質問をぶつけた。ずっと嫌な予感がしているのだ。


()()()()()()なのかと聞いているのだ!今度こそ、従順で使える奴だろうなァ!?」


リーシェは一瞬だけ言葉を選び、淡々と告げる。


「……エリュシェル・フォールンは既に二つ名で呼ばれ始めています。《女神の現身》《光の舞姫》《氷の女王》など数多の呼ばれ方をしているようですが、一番多く呼ばれる名は《白百合》です」

「……嫌な予感しかしねぇ」

「彼女は同性愛者(レズビアン)です。所構わず女性を口説き、黒冠を捕縛した場でさえもナンパしていたそうです」

「はあぁ?」

「恋人関係の受付嬢が攫われた際には、鬼神の如く怒り狂ったそうです。その結果が、五十人以上の構成員が手足を失い重症、黒冠が拠点にしていた大きな敷地が屋敷ごと全壊、とも言えるようです」

「ッ……!」

「女性には女神のように慈愛と慈悲に溢れ、男性は虫を見るような氷の目で蔑むそうですね」


「従順かと問われれば、答えは否です」と秘書は締めくくった。カインは言葉を失い呆然とした後、天を仰ぎ叫んだ。


「どっ、どうしてェ!強えー奴はァ!!バカと変態とキチガイしかァ!!!いねえんですかああァ!!!?」


震えながら発狂したように叫ぶグランドマスターに秘書は、「そう言われても」と溜息をついた。冒険者ギルドが抱える一癖二癖もある問題児どもにいつも振り回され、カインは禿げ散らかすのであった。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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