第44話 汚物は消毒…いや消滅よねぇ
パニック状態のミィちゃんを抱きしめ頭を撫でていると、遠くから「急げっ!進めぇ!!」と沢山の掛け声と馬の蹄の音が聞こえてきた。
そして外門があったところから大勢の騎士達が突入してきた。先頭は若き領主、レオン。更にギルマスが率いる多数の冒険者までもがその後に続いていた。あの可愛いリオナにエルナ、二人の乙女もいた。
騎士と冒険者は裂帛の気合を迸りながら中庭へと駆け込んできたが、敷地が白く染まったこの空間と、地獄のような現場を見て唖然とした表情で息を呑み、傍まで来ると行進が止まった。
「……エ、エリュシェル殿、い、一体、これは……!?」
悲鳴を上げながら苦悶の表情でじわじわと凍りゆくゴロツキ共の姿に言葉を失い、レオンが声を震わせた。
「魔法で全員凍らせたの。中に入らないで、あなたたちも凍るわよ」
私はそっけなく答え、視線を奥の人物に向ける。悪徳商人バルガスと、ついでに馬車の影に隠れた護衛らしき黒衣の男が二人いる。あの豚野郎にはまだまだ罰が足らない。
「まだ処理すべき者が三人が残ってるわ」
そう告げると、ミィちゃんをもう一度ぎゅっと抱きしめ頭を撫でた。そして「彼女に指一本でも触れたら許さん」と脅しながらレオンと騎士らにミィちゃんを大事そうに預ける。私は白の聖域に足を踏み入れ、豚野郎の元へとゆっくり歩き始めた。
間近で見るバルガスは膝まで凍り腕までも凍り付く中で、「ぎゃあああぁあ!痛い!痛いい!」と大絶叫を上げながらも必死に身動きを堪え、体が砕けるのを防いでいた。全身を襲う冷たさと痛みで失禁したのか股の部分までもがカチコチに凍っている。その様子を呆れたようにしばらく眺めた。
「お前、私の可愛いミィちゃんに手を出してただで済むと思ったの?」
「ひいいぃいい!ゆ、許してえええ!助けてえええ!!」
「ねぇ?ミィちゃんに何をしようとしていたの?」
発狂したように泣き叫ぶ豚野郎に静かに怒りをぶつける。
「わる~い下衆な豚野郎には、オシオキしなきゃねぇ?そう思わない?」
「いっ、いやっ!?まっまさか!いやっ、やっ、やめてええぇえ!!お助けええええ!!!」
「汚物は消毒…いや消滅よねぇ」と呟きながら私が右足で地面をトントンと叩き蹴りの姿勢に入る中、私が見つめる視線上にあるモノに気付いたバルガスが涙を流しながら悲鳴を上げた。私はそんな豚野郎ににっこりと微笑む。
「えいっ♡」
「ッギャアアアアアァ!!!?」
パッリィイイイーン!
私は無慈悲にも足をかるーく下から上へと蹴り上げた。その股間へと。
バルガスの股に直撃した私の蹴りは、凍り付いた男の象徴を粉々に粉砕した。バルガスはその衝撃でぐるんと白目を向き泡を吹きながら気を失い、体が傾くと凍り付いた両足が砕け重たい胴体が地に落ち、その落下の衝撃で両腕までもが砕けた。達磨さんの完成である。
そこでバルガスの凍結の進行は止めてやった。この状態では生きてることの方が地獄よね。生かされることが罰なのだ。生きている限り、この絶望は終わらない。
「そろそろ出てきたらどうかしら?どうせ私からは逃げられないわよ」
「……」
私は倒れ伏したバルガスから視線を外すと、悲鳴の大合唱が響く中で馬車の影を見ながら声を投げた。しかし黒衣の男共は出てこない。神眼に捉えた二人は影の中で武装したまま全く動かず、豚野郎を助けにも出てこなかった。
少し待ったが奴らは沈黙を守ったまま微動だにしない。はぁ面倒くさい、じゃあ。
「断魔」
「うっ、うおおおぉ!?」
小さくため息を吐きながら馬車の影を指さし魔法を強制解除した瞬間、馬車の影に張り付いていた違和感が剥がれ落ちた。魔法による隠蔽が強制的に破壊され、馬車の影の中から押し出されるように黒衣の男二人が転がり出てくる。一人は商店街で襲ってきた暗殺者にそっくりで、もう一人は顔の半分を仮面で覆い、纏う気配から一段上の格を感じられた。黒衣共のリーダーだろう。
「おっ、お前ェ!ほ、本当に何者だァ!!?」
「エリュシェル・フォールン、只の冒険者よ」
「ふざけるなッ!只の冒険者がこんなバカげた真似出る訳ねぇだろうがあッ!!」
吐き捨てるように叫ぶと黒衣の暗殺者は焦燥した表情で舌打ちし、二人は両手に短剣を構え左右に散ると私の周囲を円を描くように駆け回り始めた。私の両面から攻める構えだ。この二人はゴロツキとは違い、体中に全力で魔力の膜を張り巡らせ、足をなるだけ地につけないことでどうにか凍結を防いでいる。歩法も洗練され無駄がない。やっぱり並みの奴らではなさそうだ。
「でもね、この聖域はそんなに温くないのよ?」
「ぐっ、ぐうぅ……!」
全身に纏う魔力の膜を貫通し全身を苛む冷気に、黒衣の二人は歯を食いしばり必死に抗うも、苦悶の表情で徐々に動きが遅くなっていった。苦しそうねえ。
「エリュシェル殿、その二名は黒冠の構成員です!危険ですので、助力を!!」
「必要無いわ、邪魔だから引っ込んでーー」
背後からのレオンの焦った声に「どこに助力が必要なのよ」と、うんざりとした様子で後ろを軽く振り返った、そんな時だった。
目に入ったのは、涙が零れる大きな瞳で私を見つめ、心配そうに両手を編み祈る可愛いミィちゃんがいた……。心配で怖くても私を信じて待っている、そんな表情で。そして紅潮した頬で尊敬と羨望の眼差しを注ぐ、リオナとエルナが……。更に視線を巡らせれば、この場の騎士と冒険者の中にも少なくはない乙女たちがいて、同じように全員が心配と期待を込めて私を見つめていた。
ピッシャァアアン!と脳内に雷が落ちふらりと体が傾く。
こっ、これはぁ……!まさに、この舞台はぁ……!!
……乙女たちにカッコいいとこ魅せつける、最っ高のシチュエーションではなかろうかぁ……!!?
心の奥から悪い虫がむくりと頭をもたげる。妄想に脳内が薔薇色に染まる私であった。
「……ウフフフッ」
私は口元に笑みを浮かべ、黒衣の二人へと向き直った。凍てつく聖域の中で、私の笑みだけがやけに楽しげに浮かび上がる。二人の黒衣の暗殺者の顔は青ざめ引き攣った。
さぁ、観客も揃ったことだし――少し派手に、やってやりましょうかぁ!!!
乙女たちの視線を背に受けながら、私は氷の女王さながらに舞台の中央に立った。
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