第43話 天罰のお時間よぉ!
大泣きしているミィちゃんを片腕で胸に抱き寄せながら、私は中庭の奥に立つバルガスを睨みつけた。
「お、お、お前ェ!こっ、こぉの人数が見えねぇのか…!?こいつらは元冒険者と傭兵だぞぉ!!」
震える声で必死に意味不明な虚勢を張るバルガスの様子は滑稽に映った。人質を失い言葉の力はとうに失せ、その目には焦燥と恐怖しか残っていない。
「ハエは何匹集まっても払うだけよ」
「なっ…!?」
私の冷ややかな声に、バルガスの顔がみるみる真っ赤に染まり上がる。語彙が無く怒鳴るしか能がない情けない男の面白さを私は楽しんだ。
「お、お前らぁ!あの女を捕り押さえろ!痛めつけて構わん!!」
「は、はい、ボスッ!」
恐怖に歪んだ表情のまま、ゴロツキたちは武器を抜き、剣や槍、弓や魔法の構えを取る。竦んだ足に「おらあぁああ!」と気合を入れ直すと半数が私の元へと駆けてきた。
「ふっ、ふあぁあぁ!?ひやあぁああ!?え、え、えりゅしぇるしゃあん……にげりゅっ……!」
ミィちゃんはひどく狼狽し恐怖の表情でガタガタと体を震わせ、まともに言葉を発することさえ出来ない様子だ。それがまぁた可愛くてしょうがないわぁ!どこまで私を誘惑するのぉこの娘わぁ!!
私は潤んだミィちゃんの目を見つめて微笑むと、左腕でぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫よ、ミィちゃんは私が守るわ」
ぎゅっとミィちゃんを抱きしめる私の声は温かく優しい――けれど、迫ってくるゴロツキ共に向ける視線は氷のように冷たかった。しばし、奴らを眺めてみる。
あー、でもどうすっかなぁ。一掃は簡単なんだけれど…。
そう、一掃は簡単だ。指を動かせば全員を一瞬で肉塊に変えられる。でも、この純粋無垢でか弱いミィちゃんの目の前で切ったり燃やしたりのグッチャグチャな血の海の惨劇を作り出しちゃったら絶対ドン引き……どころじゃないわ、トラウマになって引きこもりになるわね。絶対嫌われる…。
とはいえ、こいつらはマジで許さん。私のミィちゃんを借金苦に追い詰め、手籠めにし嫁にしようと画策、更には人質として攫った。この罪深きゴロツキ共は、地獄の苦痛にもがき苦しませ絶望と恐怖に突き落とし精神をズタズタに破壊してやりたいわぁ~、などと物騒なことを考える。
「ふむ」と私は頷きながら策を練った。
よ~しぃ~、じゃあ~!
血を垂れ流さずぅ~、でもひどく痛くて苦しむようにぃ~、ゆっくりぃ~、じっくりぃ~、じわじわとぉ~、凍らせよう~!
私は愛しいミィちゃんを心身共に守りながら、罪深き者たちに与えられるマイルドな天罰を閃いたのだ。えらい?
私はゴロツキ共に、にこりと微笑んだ。その冷笑に何かを感じ取り引き攣るゴロツキ共。そんな迫る奴らの前で魔力を練り高めると、中庭に圧倒的な力が満ちていった。途方もない圧に奴らが足を竦める中、私は格好をつけて右手と指を指揮者のように振るいながら、歌うように唱える必要もない詠唱を唱え始めた。
「命は温もりに縋る――ならばそれを剥ぎ取ろう――」
「…ふえっ??」
ミィちゃんがびっくりして私を見上げる中、敷地内に絶対的な力の奔流が満ちる。その魔力にゴロツキたちは完全に足を止めた。体中を震わせ、冷や汗を流し、逃れられぬ圧力に顔を歪める。
「白き死よ――静かに満ちよ――熱を奪え――息を奪え――」
「ヒッ、ヒイイィイイ!!!」
ゴロツキ共から恐怖の悲鳴が一斉に上がった。
「――この地を嘆きの絶望へと――堕とせ――」
人差し指で天を刺し、この場にいる全ての人間が震えながらその指先を見たその時、指をパッチンと鳴らし、死の宣告を告げた。
「凍哭聖域」
パキンッ!ビキキキキィ!!
その瞬間、空間を裂くような鋭い響きと共に、私たちのいる数歩前から庭も屋敷も敷地内の目に映るすべてが白く染まった。地面が凍り付き、空気までもが凍り始める。氷の聖域の中でゴロツキ共は全員、足が地面に張り付きその足元からゆっくりじわじわと生きたまま凍り始めていった。
「なっ、なんだああぁ!?」「ひっ、ひいいぃいい!」「痛い!痛い、痛い!!」「さ寒い、た、た、たす、助けてぇ!」と大絶叫が響く。
この魔法は本来、一瞬で周辺一帯の熱を奪い尽くし凍結する魔法だが、それを最低出力にしてコントロールした。それによってじわじわ凍り付いて砕け散って嘆き哭け~、な空間を作り出したのよぉ。
足先からじわじわと凍り始め、冷気が筋肉、関節、内臓を蝕む。皮膚は硬化し、次第に血液の流れが阻害され、神経が凍てつく痛みに支配される。僅かでも動くと関節の軋む音が響き、痛みに悶えれば悶えるほど、冷気は体の奥深くまで侵食していく。
「ひぃいいいぃ!痛い痛い!!!」
バルガスの顔は真っ青の絶望に染まり、唇を震わせて必死に声を絞り出した。しかし悲鳴を上げ足掻くほど凍る空気を吸い込み、地面に張り付いた足先はもちろん内臓や体の先端から氷がゆっくりと這う。大分苦痛じゃないかしらん。嘆き哭くといいわ~。
体を動かせば動かすほど、骨の水分が凍り、関節が割れるように音を立てる。全身が硬直し、心の奥底から絶望が押し寄せる。じわじわと苦しむように出力を抑えた魔法は、逃げ場のない地獄を生み出す。
「ぎゃああぁ!!」とゴロツキの一人が足の痛みに足掻き、力任せに右足を引き上げた。その瞬間「バァリィンッ」と凍った右の足先は脆くも粉々に砕け割れた。そして「イアア”ッ!!?」と悲鳴をあげながらバランスを失った体が傾くと、左の足先まで「パアリィンッ」と砕け、両手と両膝を地面についてしまった。そして再び白い地面に一瞬で縫い付けられ、そこからの凍結が始まった。
ゴロツキ共は達磨落としのように一瞬で体を削られ地に落ちた仲間を目の当たりにし、サーっと血の気が引いた表情で「ガチガチガチガチッ」と歯の音が鳴らした。
「少しでも長生きしたいなら、動かない方がいいわよ……それだけ長く苦しめるのだけれど、ね?」
私の声は冷たく慈悲はない。生きながら絶望を味わう、それが天罰よねぇ。
悲鳴を上げ続けるゴロツキ共は呼吸もままならず、内臓の感覚も凍結し、痛みは全身に拡散していった。
絶叫しながら足から固まり氷に支配されていく。動けば体は砕け割れる。痛みと冷たさに、悲鳴は止まらない。
「ふああぁっ……!?ひぃぁあん!?わぁふわわぁっ……!!!」
「ミィちゃんごめんね、怖がらせちゃって」
「バァリィン」「うぎゃああ!」と割れる音と悲鳴の大合唱が幾つも響く中、それをちらりと見ちゃったミィちゃんが震えながらパニックに陥った。彼女の顔を胸元に抱き寄せ周りを見えないようにして、頭を撫で少しでも心を和らげる。
でもね、これでも抑えたのよ?ミィちゃん、少し我慢していてね。
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