第39話 若き領主は一目惚れをする
――一方、その頃。
バルガスの屋敷にて。闇の中で待っていた黒衣の男の元へ、監視の役割を命じていた部下が、血相を変えて駆け戻ってきた。
「どうした、捕らえたか?」
「……い、いや……全員、あの女にやられた……!」
「……なっ、なに!?なんだと!?」
「あれは手練れどころではない、バケモノだ……底が全く見えん」
二十人のバルガスの部下が剣士と聞いていた丸腰の女に素手で一瞬で無力化された。さらに、影より奇襲を仕掛けた精鋭の部下三人すら、瞬時に制圧されたと聞き呆然と耳を疑った。
「動きが……全く見えなかった……アダマンタイト級……?いや、それ以上かもしれん……」
「そ、そんな馬鹿な……!」
バルガスの部下は雑魚ではない。そして手塩にかけ育て上げた己の精鋭は、四人揃えばその刃はアダマンタイトの冒険者すら届き得る。
「遠くから”遠視魔法”で見ていたが……俺の存在にも気づいていた……目をあわし殺気を飛ばされた」
そして劇薬で自決しようとした部下達に、女は”上級解毒”までも使い、生かされたまま捕えられたと言う。
えっ?……やばくねえか……!?
生きた人間であれば情報を吸い取るすべは幾らでもある。
黒衣の男はようやく己の危機を理解した。怒りに任せ下手を打ってしまった事に。そして触れてはいけない何かに手を出してしまった事に。
「ジェイド……直ぐにここを離れた方がいい」
闇の向こうに、正体不明の巨大な魔物が口を開け、すべてを飲み込もうとしている姿を幻視する。背筋を冷たい汗が伝った。
――本当に、何者だよ、その女ァ……!!
ゴロツキ達を成敗し街人達の拍手喝采に囲まれ、乙女達の羨望の眼差しをこれでもかと浴び、大層上機嫌になっていた私。頬を染めた乙女たちの手を取り「今度食事でも……?」などとナンパを始めていた。そんな時だ。
「エ、エリュシェル様ぁ!お話がぁ……っ!」
衛兵が必死の形相で駆け寄ってきて、早く詰め所に来てほしいと言ってきた。名残惜しいが乙女たちに手を振って人垣を抜け、仕方なくのんびりと広場へ向かうと――立派な馬車や整然と並ぶ騎馬隊が居た。え、なにこの物々しさ?
不思議に思いながらも詰め所の広い応接室に通される。衛兵に「街で食べ歩いてたら何か暴漢共に襲われたわぁ」と適当に事情説明を済ませて帰ろうとしたら止められた。領主が来ていると言う。
「領主様が直々にぃ……!御礼を申し上げたいとぉ……!」
「えぇ~、面倒くさ~い……」
それでも帰ろうとしたら「お願いですぅ……!どうかぁ……!」と衛兵に涙目で懇願され、渋々待つことにした。食べ歩きしたいのにぃ、御礼って何?手持ちの紙袋から冷めた串焼きを取り出し、不機嫌そうにもぐもぐしていると――
重なり合う重たい足音が近づいてきて、扉が開いた。
「エリュシェル様ぁ!お待たせ致しましたぁ!」
何か立場が逆転してるきがするけど、衛兵に先導され立派な鎧姿の若い騎士が、側近らしき騎士達と共に入室してきた。……あれ?ギルマスがいるじゃん。
へえ~、領主ってもっとおっさんだと思ってた。
そして――領主は私を見た瞬間、凝視したままカッチーンと硬直した。歩いていた途中だったのに器用に片足を上げたまま微動だにしてない。目を見開き、呼吸も止まっているようだ。
長い硬直の中、「……?」と怪訝そうに首を傾げ見た瞬間、はっと我に返った領主が慌てて姿勢を正した。
「し、失礼した……!私はこの領地を治める、レオン・ヴァルクだ」
短い金髪に濃い蒼の瞳。若く精悍な騎士然とした男――だが顔が耳まで真っ赤だ。こいつもエロ助ね。
私の正面のソファに領主、ギルマス、上品な服を着た出来そうな秘書らしき美人な乙女が座る。早速秘書の乙女に微笑みながらウィンクを送ると、ビクッと跳ねた。かわいい!
大概秘書って偉い人の愛人なのよねぇ、と勝手に静かに怒って領主を睨む中、他の取り巻き一同は部屋の入口付近に直立した。
「私はエリュシェル・フォールン、冒険者よ」
「よう!エリュちゃん!!」
「……暑苦しいわね、何でアンタまでいるの?」
ギルマスを虫ケラを見るような目で一瞥すると、ガハハと大笑いし始めた。
「大手柄じゃのう!喜び勇んで来てしもうたわい!」
「うん?大手柄……?」
領主が咳払いを一つし、真剣な表情で語り出す。
「一連の件について、すでに詳細まで把握しています」
領主レオンはそう前置きすると、熱を帯びた視線を私に向けたまま、噛みしめるように語り始めた。
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