第37話 這い寄る暗殺者
観衆の興奮がまだ渦を巻いている中、私は少しだけ首を傾げた。……このゴロツキたち、どう処理すればいいのかしら?
近くの人に聞くと、すぐそばの中央広場に衛兵の詰め所があるらしく連れて行けばいいとのことだったが、その前に――騒ぎを嗅ぎつけた衛兵たちの方から、慌てて駆け込んできた。
「うああぁぁっ……!」「いてぇ……、いてえよぉ……!」
両腕と片脚を歪な方向に折られたゴロツキ共は、泣き喚きながら手首と首に縄を掛けられ、びっこを引きながら連行されていく。ざまぁ!
そして私も事情聴取のため呼ばれたので、仕方なく詰め所へ向かおうとした、その瞬間だった。
――ぞくり。
背中を撫でるような、冷たく鋭い殺意。次の刹那、ナイフが私の背に突き出された。だが私は振り向きさえもせず、そっと指先でその刃を挟み止める。何か毒が塗られているな?
「なっ、なにっ!?」
背後から、明らかに動揺した声が漏れた。私の影の中から、ぬるりと半身を這い出している黒づくめの男。全身を包む黒装束は光を吸い、顔の下半分は獣のように歪んだ仮面で隠されている。血と死の匂いを纏った、明らかに場慣れした暗殺者だ。
ふ~ん、闇魔法の《影潜伏》に、毒ね。
ピクリとも動かない指で挟まれたナイフに焦った暗殺者は、もう片方の手に構えたナイフを振り下ろしてきた。だが遅い。
振り返りざまの手刀が、ゴロツキと同じようにその腕を逆向きへと叩き折る。
――バキィンッ!
「ぐあぁああっ!」と音が鳴った。
同時に影から引きずり出すと、間髪入れずにそのままもう片方の腕と片脚を、華麗な蹴りでへし折って転がしてやった。
すると、次の殺気が降り注いでくる。屋根の上、路地裏の建物の陰――同じ黒装束の影が同時に動いた。魔力の高まりを感じると、四方八方から数百本にも及ぶ魔法の太い針が、一斉に空を裂き飛んできた。
「……はいはい」
私は軽く身を翻し、迫る針を紙吹雪のようにかわす。素手で弾き、叩き落とし、指先で折る。理解不能な光景に、暗殺者たちの動きが一瞬鈍った。
「な、なんだとっ!?」
「バカなッ!」
それを見て慌てて逃げようとした暗殺者が背を向けた時には――私は《転移》で、既に奴らの背後にいた。
「残念だったわね?」
二人ともお仲間の元へと蹴り飛ばしてやった。「がぁあっ!?」と地面をすっ転ぶ追加の黒ずくめの二人を、瞬きをする間に蹴りつけ同じように両腕と片脚をへし折り砕いてやった。
「……はい、確保っと」
「ぐああぁあっ」と悶える三匹のイモ虫も追加で捕まえちゃった。こいつらも連れてってもらおう。
観衆から再び上がる歓声。「キャーッ!」って黄色い声援の観衆の乙女たちに私はそれに応えるように「フフッ」と色目を撒いて微笑みを浮かべた。
――そんな時だ。
「ゴボッ……!」
急に捕まえたイモ虫三匹が、同時に大量の血を吐きだした。うん?骨はへし折ったけど命に別状はないはずだが?
肌が赤黒く腫れ上がり、明らかに異常な反応だ。
あっ、なるほど?
自決しようとしている?毒か?
こいつらはゴロツキとは違い、なかなか覚悟がキマってるようだ。どこかに仕込んでいた毒で、躊躇いなく自ら死のうとしている。
私は、苦悶の中でこちらを睨み「ゴボォ」と血を吐き続けている暗殺者の三人を見下ろし、にっこりと微笑みながら手をかざした。
《上級解毒》
神聖な柔らかく大きな光が三人を中心に広がり、毒と死の気配を一瞬で洗い流していく。ついでに最低限の回復魔法もかけてやった。
「あっ……?」「う、嘘だろう……?」苦しみに悶えていたイモ虫三匹は一瞬で毒が完全に消えると、己が生きているこの状況に唖然としている。勝手に死なせてやんないもん。
そこに走りこんできた追加の衛兵たちが、黒づくめの三人を取り囲んだ。絶望に歪む顔で衛兵たちに捕縛されていく。両腕と片脚を砕かれた痛みにひどく渋い顔をしながら、手首と首に縄をかけられゴロツキ共と同じようにびっこ引きながら連行されていった。
「わああああぁっ!」っと大勢の観客がこの大捕り物の一部始終を観劇し、この場は再び興奮のるつぼと化した。歓声が爆発し、広場は熱狂の渦に包まれるのであった。
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