第34話 心がこちらを向き始めているぅ!
ゴロツキどもを追い払い、店内の熱狂も次第に落ち着いていく。夕暮れが近づくころには客足もまばらになり、カフェには穏やかな空気が戻っていた。
「返さなくていいわよ?」そう何度も言う私に、ミィちゃんは首を横に振り続けていた。
「そ、そんなわけにはいきませんっ!」
必死な顔で食い下がってくる彼女がとても可愛くて、つい私はからかうように色々とお願いをしてしまった。
「じゃあ今度デートしましょう?」
「また手作り料理、食べさせて?」
「毎日、会いに来てもいい?」
「あわよくば、泊まりに来てもいい?」
そのたびに「は、はいっ!」と頬を染めながら即答し、ぴょんと小さく跳ねて嬉しそうに喜ぶ。けれど、それでも彼女の表情は晴れきらない。
「そ、そんな事で、この御恩は、お返し仕切れません……」
俯きながらか細く呟くミィちゃん。
真面目で優しい、純真無垢な乙女である彼女。だからこそ誤魔化すべきでは無い。素直に誠実に、ちゃんと私の気持ちを伝えたほうが良さそうだ、と思った。
「……ミィちゃん、あのね」
私は彼女に歩み寄り、微笑みかけた。
「私には、裏心がないわけじゃないのよ?」
「……えっ?」
彼女の大きな瞳が揺れ、戸惑いが混じる。
私は微笑んだまま、けれど視線だけは逸らさず、真剣に真っ直ぐ見つめた。
「私はね、ミィちゃんのような――美しくて可愛い、頑張り屋さんな乙女が、大好きなのよ」
「……あっ、あのぉ、そ、それって……??」
「私は恋愛対象が女性なの、男は興味ないわ」
「や、やっぱり……、そうだったんですね……」
ぽつりと呟いた声には、驚きよりも納得が滲んでいた。心当たりがあるようだ。そりゃそうだよね?初対面がアレだったし。
「だから」と、私はそっと彼女の手を両手で包み込んだ。
「困っている好きな女を助け、守りたい。そう思ったの」
「…………っ!!!」
「それって、おかしいことかしら?……だから、何も気にしなくていいのよ」
ミィちゃんの顔が一気に赤くなった。一呼吸おいて「ぼふんっ」と音がしそうなほど全身を真っ赤にすると、目をぐるぐるさせながらふらりと私の胸にもたれかかってきた。私は彼女を受け止めると、優しく抱きしめた。
「……好きな人が幸せそうに笑ってくれたら、私はそれで十分よ」
耳元で囁き頭を撫でながら、震える背中を優しく抱きしめてあげた。ミィちゃんの震える指が、きゅっと私の服を掴んできた。
……ああぁ、完全にミィちゃんの心がこちらを向き始めているぅ!手ごたえを感じるぞぉ!
ご満悦の私でした。
美味しい晩ご飯までご馳走になり、「最初に借りてた分だけでも、お返しします」とお母さんが申し訳なさそうに、金貨三十枚を差し出してきた。けれど、にっこり笑顔で「じゃあ、晩御飯のお代です~!」と、そっくりそのままお返しした。お母さんもミィちゃんも再び目を丸くしてた。
「障害のなくなったこれからの生活を、家族でゆっくり話し合ってね」
そう告げると今日のところは二人のお邪魔にならないよう、手を振りながら颯爽と店を出た。そう、この格好いいムーブが乙女には刺さるのだ!と、思いたい。
お母さんにも、いつでも来てねって言われちゃった!当初の予定とは大幅に違うけど、大いに進展があったじゃない!何ていい日なの!!
私は大層上機嫌でるんるんとスキップしながら、火照る体と心を鎮めるため、我が城への帰路へとついた。綺麗な星空が私を祝福しているようだ。
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