第30話 二人と一匹を救助する
この広い空間のみならずダンジョンを駆け巡った炎は、全てのスライムを一瞬で殲滅し僅かな灰と魔石に変えた。灼熱の残り香だけが、静かに勝利を主張している。
「あんっ、ありがとう、ございましたぁ……、んッ!」
「あっ、ありがとうございますぅ、助かりましたぁ……、ひんっ!」
二人をそれぞれ片腕に収めぎゅっと抱き寄せ、指を巧みに這わせ揉みしだきながら、交互に慈愛の微笑みで顔を覗き込んだ。彼女たちはピクンッと体を震わせている。
二人の乙女は潤んだ瞳と朱く染めた頬で、感謝と羨望を込めうっとりと私を見上げ、むしろこちらに身を預けてくる。ああっ、いいわぁ!このかんじ!
「痛みよ去れ。涙の理由をここに残すな……白き癒しよ、やさしく満ちよ」
またしても唱える必要もない詠唱を口ずさみながら、彼女たちに瞬間治癒の魔法を使った。柔らかな光に撫でられるように、火傷のように腫れた肌がたちまちに治っていく。
「えええっ!?」
「回復魔法まで…!?」
年のころは一八歳前後だろうか?薄い茶色の長い髪を結んでいる、愛嬌のある顔立ちのそっくりな美しき姉妹である。さすがに半裸のままでは可哀想なので、空間収納から布地を取り出して二人を包んであげた。でもこの手は離さない。モミモミ。
「あ、あのぉ、お願いがあるのですが……」
「んっ?どうしたの?」
片割れをにっこりと微笑みながら見ると、熱を込めた瞳で乙女は告げた。
「ち、父も助けて頂けませんか……?」
「父……?」
「一緒に来てたのですが、はぐれてしまったんですぅ……」
「………」
ぴたり、と私の手の動きが止まった。
まさか……?
スライムにたかられていたあのおっさんが脳裏をよぎる。スライムにまみれておんおん悶えてた、ごつく逞しい体格のおっさんのこと?というか状況的にアレしか考えられないわよね?
――ツツーと、冷や汗が頬を伝った。空気のようにスルーしたぞ?
まさかの、二人のお父さまぁ!?全然似てないんですけど!どうすればあのおっさんからこんなに可愛い娘が生まれるんですかねぇ!?
灼滅の炎はスライムだけを対象に絞り込んだはずだ。生きていると思いたい……!
わずかに焦りながら、私は二人を抱きかかえ来た道を戻った。炎はダンジョン内を駆け巡り、至る所に魔石が落ちてた。それを魔法で回収しながらおっさんを見た方角へと駆けると、全裸の逞しい体がうつ伏せで横たわっていた。少ない髪が焦げている。
見たくもないおっさんの尻から顔を背けると、二人が「お父さんっ!」と駆けだした。
「ああっ、ボロボロだけど生きてる……!」
「よかった、助かった!」
その様子に深く安堵をしてから、乙女たちに免じておっさんに瞬間治癒をかけてやった。
そして私たちはダンジョンから出て、フィオルへの帰路についた。
姉が剣士のリオナ、妹が回復師のエルナ。相変わらず二人をそれぞれの腕に抱きしめている。さすがに親の前で際どいお触りは出来ずに残念だけど。両手に華、気分いいわぁ!
「がはははっ!助かったわい、ありがとよ!!」
暑苦しいおっさんを冷たい目線で一睨みする。全裸のおっさんには丈の短い布地をくれてやった。それで奴は股間を隠している。
「噂の別嬪さんに助けられるとは!生きててよかったわい!」
「……暑苦しい」
夕暮れの朱に染まるフィオルへの帰路は、左右に美しき二人の乙女を抱き寄せ、後ろから全裸のおっさんが一匹ついてくるという、なんとも奇妙な隊列だ。
「なんで保護者がスライム如きにやられてんのよ」
「いやあ、このダンジョンにあまり冒険者が来てなかったようでな、スライムが溢れかえっておったわ!」
そしてなんと、おっさんはフィオルの冒険者ギルドの、ギルドマスターだった。
商会組合の会長だったが、ギルマスのポストが開いてしまった時に仕方なく代行で就任して以来、そつなく仕事をこなすのでそのままやらされてるとか。受付カウンターに柵をつけたのお前だな?冒険者になった駆け出しの娘たちが心配で、今日はダンジョンまでついてきたらしい。
「詳しくは帰ってからだが、魔物の一掃に人命救助、確実に昇格じゃな!」
「お~?」
どうやら昇格するみたい。簡単に上がるのね?
二人の美しき乙女は時折、ちらちらと私を羨望の眼差しで見ながら頬を染めていた。その視線には、もうそれ以上の色が混じり始めてる気がする。
うん、今日も平和で私の評判も爆上がりね!
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