第28話 初心者ダンジョンにゆく
ミィちゃんとカウンター越しに他愛もない話をし、少しずつ距離が縮まってきたところで、横から年配の乙女の視線がじわりと刺さり始めた。これは長居しすぎの合図である。
明日の約束をしっかり取り付け何度も確認してから、名残惜しさを胸に私は上機嫌のままギルドを後にした。ミィちゃん明日ねっ!体を清めとかなきゃっ!
その後、軽く食べ歩きをしてから、ふと思い出したように初心者向けダンジョンの存在を思い出す。ミィちゃんが教えてくれたんし、観光気分で覗くだけちょっと行ってみようかなぁ?
都市から徒歩だと一時間の距離らしいが、私は魔法でふわりと風を纏い、軽く地を蹴って走る。十分もかからず目的地に到着した。
小さな丘のふもと、岩肌がむき出しになった場所に、ぽっかりと口を開けた大きな洞窟。ごつごつした入口の縁には、長年染み込んだ魔力が薄く光の膜のように漂っていて、いかにも“ダンジョン”という雰囲気だ。
ミィちゃんが言うには、この初心者ダンジョンは十層ほどの低階層で、出現する魔物はスライムのみ。――日本で有名な、あのスライムである。見てみたい!
洞窟内はそれなりに薄暗いが、“神眼”を使えば問題ない。壁や床には淡い魔力が染み込んでいて、空気がわずかにひんやりと肌を撫でる。
少し進んだところで、私は目的の存在を見つけた。
「……ほう、これがこの世界のスライムか」
水色半透明の、ぷよぷよとした丸い体。大きさはサッカーボール二つ分ほどで、ゼリーを大雑把に丸めたようなフォルムをしている。体の中心には、小さな赤い魔石がぽつんと浮かんでいた。残念ながら目と口は無い。
トロい動きでぴょんぴょんと跳ねたり、体をにゅるんと伸ばしたりと、動きは妙に愛嬌がある。動くお菓子のようだ。
神都周辺にいた魔獣とは、ドラゴンやより強力な古竜だの、三つ首の犬に八つ首の蛇とか、でっかい狼に亀もいた。それに比べるとスライムはあまりにもか弱く、あまりにも可愛い。これ、本当に魔物ぉ?
しげしげと観察していると、スライムは私に気づいたらしく体を「にゅんっ」と伸ばして叩こうとしてきた。それを遊戯のようにひょいひょいと避けていると、今度は「ぴゅっ」と液体を飛ばしてきやがった。
地面に落ちたそれは、じゅっと音を立てその場が少し焦げた。
うわ、きったねえ!
一気に情が冷め、私は指先で軽くデコピンで魔力を飛ばした。ほんの少し魔力を乗せた筈が、スライムは周囲の壁ごと派手に爆散した。
そうすると、破壊された壁はゆっくりと魔力に包まれ、少しずつ元通りに再生し始めた。足元にはころんと小さな魔石が落ちている。ダンジョン産の魔物は倒すと吸収されて、アイテムがドロップするみたい。実際にそれを見ると不思議ねぇ。内部が多少壊れても大丈夫そうだ。
感心しながら入り組んだ道を奥へと進むと、スライムと沢山遭遇した。五匹ほどが固まって現れることもあったが、いずれもデコピン一発で爆散していた。ドロップした魔石は一応回収しておく。
だんだん飽きてきて帰ろうかなー、と思っていた時に近くから切羽詰まった叫び声が聞こえた。
「きゃああぁぁっ!!」
仕方なしに一応様子を見に行くことにすると、そこには――
体格の良いごつく筋肉質な中年のおっさん冒険者が、沢山のスライムにたかられ地面を転がりながら、おんおんと悶えていた。
革の防具や衣類がところどころ溶け、スライムのぷよぷよした体がぬめっと絡みついている。男は無駄に逞しい体をくねらせ、必死にもがいていた。
「ひっ、うひぃっ!そこの人!た、たぁすけてぇえ!!」
おっさんが手を伸ばしてくる艶めいた光景に、私は一瞬だけ目を細める。なるほど、スライムって服を溶かすんだ。
色んな性癖の人間がいるのね?汚ねえもん見せやがって。私はフードを深く被り直し見なかったことにすると、無視して奥へと進んだ。後ろから何か聞こえるが気にしない。
少し歩いたところで、洞窟の奥の方から再び「きゃああぁぁっ!!」と叫び声が聞こえてきた。
「っ!?」
今度は反射的に反応し、私は即座に地面を蹴ると声の方向へと駆け出した。
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