第26話 今すぐに食べ歩きがしたいの
正確な価値は分からないけれど、感覚的には銅貨一枚が百円、銀貨一枚が千円、金貨一枚が一万円……そんなところだろう。
で、今の私の懐事情はというと、残っているのは銅貨が数枚のみ。風が吹いたら飛んでいきそうな、実に心許ない財布である。エロ助もっと稼いでおけよ!
まぁ、もっとも金の心配そのものはあんまりしていなかった。神都で集めていた魔物の素材でも売ればいいし、その素材を使って創造魔法で何か適当に作って売ってもいい。極論を言えば、金塊そのものでも作って売ればいい。
できる。できるんだけど――。
作ったり売ったりが、めんどうくさぁい。
私はね、今すぐに食べ歩きがしたいの。
労働よりも屋台、交渉よりも甘いケーキ。人生は腹八分目と美味しい匂いでできている。そうでしょう?
そんなことを考えながら、オーク肉のサンドイッチをもぐもぐと頬張り、おいしさににこにこしながら商店街を歩いていると、ふと視界に異物が入り込んできた。
この辺りの賑やかなお店が建ち並ぶ中で、どうにも場違いな立派な屋敷があった。高い塀、重厚な門。そしてちょうどその門前に、ずらりと並ぶ数台の豪奢な馬車が並んでいる。荷台には布をかけられた荷物が山のように積まれ、周囲には武装した多くの護衛たちが目を光らせている。
門番らしき人物が、やけに腰を低くして馬車を通している様子を見て、私は足を止めた。
「ふむ」と私は軽く頷き、なんとなく“神眼”を発動させた。視界を一段深くし、荷物や馬車の中を透かして見てみる。
「……おおっ!?」
宝石、ドレス、高級そうな調度品。確かにどれも豪華で金目のものだが、私の目を釘付けにしたのは、それらの陰に隠すように積まれた薄めの木箱だった。
中身は――ぎっしりと詰め込まれた金貨。しかも一箱や二箱ではない。馬車すべてを合わせれば、ざっと五十箱はありそうだ。
さらに馬車の中を覗くと、そこには疑いようもない“主”が鎮座していた。脂ぎった指に成金趣味丸出しの宝石を節操なくはめ込み、首や耳にまで下品な輝きをぶら下げている。高価であることだけを誇る装飾品は、本人の醜さを隠すどころか、むしろ際立たせていた。
豪奢な服は腹回りで無様に張りつき、だらしなく突き出た腹肉が、長年の強欲を雄弁に物語っている。幾重にもたるんだ顎の奥で歪む口元には、他者を値踏みするような笑みが貼り付き、周囲に向けられる視線には、踏みつける側の傲慢さしかなかった。
その身にまとわりつく空気そのものが、搾取と欺瞞を積み重ねてきた商人のそれであり、金と権力で腐りきった臭いが、馬車から濃く漂っていた。
これはもう、まさに絵に描いたような悪徳商人である。
「ふむ」と私は再び頷ずくと、荷台の中に空間魔法を静かに発動した。
そして金貨がぎっしり詰まった薄い箱を三個ほど、ごそっと抜き取りちょろまかすと、そのまま空間収納へと仕舞い込んだ。音もなく、気配も何もなく。完璧な犯行よぉ~☆
これだけ金貨を持ってるなら、箱が三個くらい消えても平気よね?ラッキー。
馬車の御一行は何事もなかったかのように門をくぐり屋敷の中へと消えていった。誰一人気づいてませんねぇ。
懐が一気に潤った私は、上機嫌で再び歩き出す。するとすぐ近くに、雰囲気の良さそうなレストランを発見した。木製の扉から漂ってくるのは、肉と酒と香草の混じった、抗いがたい匂い。
「ここにしよう」とルンルン鼻歌まじりに扉をくぐり、私はそのまま――暴飲暴食の宴に突入した。
香ばしく焼かれた肉料理、濃厚なソースのパスタ、山盛りのパン、揚げたての何か、そして琥珀色の酒。運ばれてくるたびに平らげ、飲み干し、また頼む。周囲の好奇な視線など気になどしない。
だって今日はいい日なのだ。ミィちゃんに出会えて、美味しい料理をたくさん食べれて、酒もたくさん飲んで、私は最高にご機嫌である!
「さぁて……今日は飲むわよぉ~!」
そう宣言して、私はさらに杯を重ねるのだった。
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