第25話 異世界メシを食べ歩く
「で、ミィちゃんはー?」と、年配の乙女に尋ねると、すでに帰宅してお休みになったとのことだった。さすがに初対面でいきなり昇天させてしまったのは、やりすぎだったかもしれない。しつこくしすぎるのはダメだ、日を改めよう。
私は――相思相愛で結ばれ合い、想いと想いが静かに絡み合い、愛に満ち満ちて花開く、至高にして尊き百合の園を目指す乙女。
邪神とは違う……ええ、格が違うわ。
あれは力でねじ伏せ、恐怖で縛り、欲望で囲い込むだけの存在。理解も共感もなく、ただ奪うだけ。実に下品。
相手の心が素直に開くまで待つ。視線を交わし距離を測り、心が自然と寄り添うその瞬間を――微笑んだまま、私はじっと待つだけ。気づいたときにはもう、世界には私しか映っていない。でもそれはごく自然で当たり前のこと。
ゆっくりと時間をかけて……。
言葉を重ね想いを育て、愛をとろとろに熟成させていきましょうねぇ……ミィちゃぁん♡
説明を一通り聞き終え、無事にライセンスカードを入手した私は、フードをしっかりと被り直し、冒険者たちの好奇な視線を大量に浴びながらギルドを後にした。
中央広場へ戻ると屋台や商店がずらりと立ち並ぶ、東側へと伸びる大通りが目に入った。近寄ってみると石畳の道の両脇から、焼き物の香ばしい匂いや、甘く鼻をくすぐる香りがふわりと漂ってきた。
……異世界メシ、食べてみたぁい。
前から興味があったし、ここまで匂いで誘われて素通りできるわけがないよねぇ。
私は、その商店街へと続く大通りに足を向けた。
「こっれも……おいしぃ~~!」
異世界メシ、とってもおいしい!思わず頬が緩む。
今食べているのは、焼きたてのふかふかパンに、香草と塩で味付けされたオーク肉、それにシャキシャキの野菜をたっぷり挟んだサンドイッチだ。かじると、肉汁がじゅわっと溢れ、パンがそれを余すことなく受け止めてくれる。濃い味付けが身体に染み渡って、思わずもう一口と手が伸びる。
屋台で目に付いたものを片っ端からちょい買いし、にこにこしながら食べ歩く。串焼きは香辛料が効いていて後を引くし、焼き鳥は外が香ばしく中はふっくら。リンゴのような果物は驚くほど瑞々しくて甘い。喫茶店の甘いマフィンはしっとりしていて、蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキはふっわふわ。
こんなおいしいもの、今世で初めて食べた。
そういえば神都で食べたのは、味付けも何も無く獣を丸焼きにだけしたものだったな……と、遠い目になった。堕天使はそもそも食べなくてもいいしなぁ。
とにかく片っ端から口に運び、おいしくて上機嫌だ。美人ってお得ねぇ、一個買うと三個もサービスしてくれたりする。なお、残念ながら米料理は見当たらなかった。この世界には米がないのかしらん。
コートのフードを下ろし我が道を行くかのように食べ歩いていると、人の流れが自然と左右に割れていく。歩きやすいのはありがたいねぇ、大注目を浴びてはいるけど。乙女たちにはにっこりと笑顔をみせて、男どもには氷点下の視線をくれてやっていた。
そして、お酒が飲みたいなぁ~、と思い始めたときに気づいた。
「あっ、もう金が無い」
エロ助の財布がほぼスッカラカンになっていた。都市の入場料にライセンス発行料金、そしてこの食べ歩きで完全にトドメを刺したようだ。
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