第1話 マッマの果実を摘む
それから――十日十晩。
己の尊さとエロさに屈し白塔の最上階にこもると、
あの手この手の行為に励み、嬌声を延々と上げ続けていた俺。
ようやく心の安寧を取り戻して外に出る決心をした。
まずは風呂だぁ。
俺は魔法で塔の一室に巨大な浴槽を創り出し、満々と湯を張ると、
「ばしゃーーーん!」と飛沫をあげながら頭から飛び込んだ。
湯を瞬時に気持ちいい温度に調整し、
十日間の汗や体液や謎のしみを流し去ってくれる。
「……尊い……尊いっ……!」
風呂に浸かりながら、
鏡に映った自分の裸姿にまたうっとりしてしまう自分がいた。
これは仕方ない。
美しすぎることが悪いのだ、俺が悪いわけじゃないっ!
風呂から上がった俺は、魔法で服を創り、新しい薄衣を身に纏う。
その布は透けすぎず、透けなさすぎず、絶妙に“チラ魅せ”の加減がなされていた。
もちろん自分でデザインした。
鏡の前で濡れた白金の髪をとかし、その姿をじっくりねっとり視姦し、
己の完成度を十二分に確認してから、俺は白塔の外へ出た。
神都ニフルの日常は、今日も「暇」の一言に尽きる。
今日も穏やか、相変わらず何もない。
白亜の塔が立ち並び、
巨大な大樹と宮殿が荘厳にそびえ、その周囲にゆったりと流れる水路と、
小さな庭園や石畳の道が広がる。
そこにいる堕天使たちは――
塔の窓辺でぼーっと外を見る者。
空に浮かんで、風に揺れながら特に何もしない者。
道端の石に腰かけ、手持ち無沙汰に翼をぱたぱたする者。
気まぐれに花を咲かせては、咲かせた花を眺め続ける者。
……などなど、基本的に怠惰の権化である。
どいつもこいつも美しい。
美しい氷の彫像のようだ。
でも感情はあまり感じられず、冷たさがあり淡泊。
恋愛?愛情?家族?
知らん。
そんな概念は存在しない。
数百年だか数千年の歴史があるこの神都で、
たかが三十人程度しか堕天使はいないのだ。
コイツらって一体……と、今だからこそ思える。
そんな連中の中で、俺――エリュシェル・フォールンは最年少。
気まぐれな行為により偶然生まれた奇跡の一つ。
ママァ、産んでくれてありがとぉ! サイコー!!
そんなことを考えながら歩いていると――
大池の麓の祭壇のような建物。そこに母親がいた。
大樹の根元に寄り添うようにある、大きな池。
その水面は光を受けて揺らめき、水精が踊ってるんじゃないかと思うほど神秘的だ。
その池のほとりに、小さな祭壇めいた建物がある。
そこから、柔らかなハープの音色が流れ出ていた。
その中にいたのは――
俺の母親にあたる堕天使、”セラフィナ・フォールン”。
薄衣を纏った月の女神のような堕天使。
白金の髪は俺よりもさらに光を宿し、宝石のような瞳は深い藍色で、
見つめられただけで魂を吸われそうになる。
その胸元は……
“母”という単語が霞むほど豊満で神秘的。
まるで慈悲とエロスを融合して創られたような双丘。
ハープを奏でるたびに、柔らかく揺れている。
堕天使の美は冷たい氷の彫像のようと言ってるが、セラフィナは別格だ。
静かで、厳かで、暖かくて、そして……強烈な色香。
「セラフィナ、こんにちわ。いい天気ね」
俺が声をかけると、
「あら、エリュ。こんにちわ」
セラフィナはほんのり微笑んだ。
その微笑みだけで、
この世のすべての雄を黙らせる破壊力がありそうだ。
……気づけば、俺の足はフラフラと彼女に近づいていた。
その胸元へ ――
その双丘へ ――
その神聖なる果実へ ――
そして、
むにゅんっ!
両手で俺は、セラフィナの神聖なる果実をわし掴みにした!
「あらぁ……?」
目を丸くしきょとんとするセラフィナ。
「マッマァーーーッ!」
叫びながら更に抱きつき顔を埋めつつ、揉みしだく!
「どうしたの、エリュ?」
「甘えたぁい、気分うぅん……!」
セラフィナは不思議そうな顔で、すっと腕を回し俺を抱き寄せてくれた。
果実が俺の顔に押し付けられ、甘い香りと柔らかさと弾力で脳が痺れる。
「ふふ、甘えんぼさんねぇ」
「ママァ……」
セラフィナが頭を撫でるたび、果実が俺の顔を包み込み、擦り付いてきた。
そんな中、俺は顔を朱に染め恍惚した面で、三日月のように口角を上げる。
邪悪でいやらしすぎる笑み――
……ニッチャアァ……
……母親に甘える純粋さ?
そんなもの、当然俺にはない。
あるのは、美とエロスへの貪欲なる欲求。
俺はこの都で、欲望に忠実で性悪な堕天使になってやると決めたのだァ!
フハハハハハハッ!!




