第17話 深淵の光
沈む――――沈む――――沈む――――……
どこまでも……
底の見えない深海へ、深淵へ、ただただ沈んでいく。
封印の水晶と鎖は、邪神ルシフェルの身体を硬く縛りつけていた。
光の刃が貫いた胸は裂け、肌は業火に灼かれ、血が溶け出す。業火はなお残った翼に降り注ぎ、かつて天を染めた四枚の翼は黒く焦げ、破れ、ちぎれ落ちていく。
満身創痍。深海へ引きずられながら、彼は指すら動かすことさえできない。
――それでも。
全ての絶望を煮詰めたような淀みは消え、瞳は星空のように輝き美しく澄んでいた。その金色は今なお力強く、暗い海の底でなお燃えるように、切れ長の眼がひとりを映していた。
「ああっ、エリュシェル……!」
かすれた声が泡となって消える。封印も痛みも、大罪の重みすら貫いて、ただ一つの名を呼んでいた。
彼は大罪を犯した。決して許されない大罪。今なお存在しているのは、裁ける者がいないが故だ。
――――だがしかし、あえて語るならば。
エリュシェルも、女神も、天界の神々も、彼を誤解した。
彼はとうの昔に女神への愛など忘れている。
彼の心は、ただひとつ。
永遠の愛は、“聖母”――その一人の人間の少女だけに、全てが捧げられている。
あの日。
宮殿を出て、外の世界の光を久しぶりに受けた時。エリュシェル――愛する人と瓜二つの容姿をもつ、堕天使に出会ったとき。
何の因果か、二人目の”女神の使徒”も、再び彼に奇跡を起こした。
《あぁ……我が子だ、我が娘だ!》
聖母が眠ってから、ひび割れて白黒であった世界に、色が戻った。一気に花が咲くように、色鮮やかな世界が目の前に広がった。全ての堕天使たちが、宝石のように尊い存在へと変わった。
我が子。我が娘。我が家族たち。
愛する人との子供達。
大罪は消えない、赦されない――だが、それでも護らねばならない存在。
そう、彼は理解した。
これは――。
百合の花園と異世界を夢見る性格破綻したおっさん堕天使が、そんなの知るかと運命から逃げ惑う物語。
または――。
自己愛と保身にまみれた女神が、厄介者の己の使徒を、どうにか運命の輪に組み込み盾にしようと画策する物語。
あるいは――。
自らが犯した大罪を背負いし赦しを請う神が、それでもと、家出した娘の信用を得ようと命懸けで奮闘する物語。
一つでも厄介なこれらの物語は、どこまでも拗れ、奇妙に混じり合い、全てを巻き込み混沌の奈落へ叩き落す。
つまるところは、これは、そういう物語なのだ。
パンドラの箱は、開いてしまった。
どう決着するかは、神ですら解らない。
みんな逃げてぇ?
第一章 完
数多の物語の中から、「堕天使ちゃんは逃げ惑う」、をお読み下さり、ありがとうございます。
ストーリーは先まで考えてはいるのですが、ちょうど切りの良い所ですので、ここで充電を兼ねて一旦筆を置かせて頂きます。再開時期は未定ですが、皆様の応援を励みに、考えさせて頂こうと思います。
もしこの物語をお気に召して頂ければ、評価、F/Bの方、是非よろしくお願いします!
霞灯里




