第9話 パッ……パッパラパー?
エリュシェル・フォールンは、改めて冷静に――
いや、冷静になろうと必死に――自分を振り返った。
神の如き美貌に、不老不死、おまけに感情までちゃ~んとある。
さらには女神に瓜二つで、ちょっと艶っぽいところもあるらしい。ちょっとだけね?
衣擦れや空気の流れまで敏感に拾ってしまうこの身体は、自ら手掛けた特別仕様。
さぞかし鈴のような音を奏でちゃうだろう。
妄想力はずば抜けてるし、やべぇ聖域まで創っちゃうほどだ。
てへっ☆
運命を感じますねぇ。何かの意思を感じますねぇ。
どう考えても邪神にとって、最高級、最上級の乙女。
このスペックは先代勇者をも、きっと凌ぐよねぇ。
わたしたちって……相性ばっちりじゃーん?
“運命”のビッグカップル、みたいなぁ……?
折角だし、聖域使っちゃおっかぁ……?
――ありえん、ダメだろ!
俺は女が好きなの!
男の手なんて絶対に握らん!指一本触れさせません!!
運命よ、こっちをチラチラ見るなぁ!!
そう思いながら大宮殿をチラ見すると――
光が白からピンクの……、淫靡なカラーに変わっているんですけど?
なにあれ、ミラーボールみたいにキラキラしてる。
あの野郎、誘ってるよな?俺を?
「……始祖さまも、心が壊れているのよ」
セラフィナが、同じく宮殿を見ながら静かに言った。
そして、ふわっと俺に視線を戻し――
トドメとばかりに恐ろしい最強の爆弾を投下した。
「あなたは、私と始祖さまの子よ」
──えっ?
えっ?
えっっ???
こっ、
こっ、こいつ……!
まだ、そんな、大型爆弾、持ってたのかアァァァァァァ!!!
はっ?はああぁ!?
もう、マッマがこわすぎる!!
テンパりすぎて、呼吸の仕方を忘れそうな俺。
口から白い泡が出る、気を失いそう。
「ど、ど、どう…いうことっ……?」
セラフィナは落ち着いた声音でさらりと言った。
「始祖さまは、眠っている聖母さまを私だと間違えてしまって、……交わってしまったの」
「はあああぁぁぁぁぁあああ!!?」
「愛に飢えて、心が壊れたせいね」
えっ、ちょっ……えっ?
つまり……
パッ、パッ……パ、パッパァ?
あれ、俺の……パラッパァ……???
パッ…ごふッ……
そして……
セラフィナ爆弾の威力に意識が飛ぶその中で、俺は覚悟を決めた。
聖母に続いて娘までも……?そしてこの俺まで……??
あいつをどう形容すればいいのか、怒りの熱で言葉そのものが蒸発したわ。
存在しちゃいけないバケモノ、正しく邪神だ。
関わりたくもない!
俺は、この運命と地獄から──絶対に逃げきるッ!!




