第一章 8話 忍び寄る影
──同時刻。『シャノワール教団』幹部5名による定例会議が始まろうとしていた。
メアリー
「これより『シャノワール教団』定例会議を始めます。」
そう淡々と告げるのは、銀髪の女、『シャノワール教団・上層部』のメアリー・タードネス。
メアリー
「幹部の皆様がお入りになります。」
「『冷酷の殺人鬼』レクトル・ヴラディスラフ様。」
名を呼ばれて出てきたのは、刀を携えた白髪の男だ。
メアリー
「『虚構の道化師』西園寺誰瑠様。」
続いて短髪の日本人の男。
メアリー
「『血濡れの人形』リリィ・ブラッド様。」
テディベアを抱えた少女。
メアリー
「『愛憎の開拓者』ベンゼ・リールドリーフ様。」
騎士のような格好をした女。
メアリー
「『約束の傍観者』オウス・アイルマン様。」
片目が隠れた壮年の男性と続く。
それぞれが席に着いたのを確認し、始めに話題を切り出したのは、特別特殊行動隊"LECTOR"隊長のレクトルだ。
レクトル
「──スコットが死にました。」
身内の訃報、それは『シャノワール教団』を敵に回す不届き者が現れたことを示している。然し、こいつらは悲しむ素振りなどしない。刃向かってくる馬鹿者に心が踊るのみだ。
リリィ
「スコット……あぁ、お前の部下のオタク君かぁ。」
誰瑠
「僕の記憶だと、彼はそんなに強くなかったはずだ。いずれ来る死が、スコット君には少し早く来ただけだろ。死は救済だ。」
レクトル
「個人的に彼の事は気に入っていたので……少し残念というだけですよ。」
ベンゼ
「遺体の回収が出来ていれば、わたくしの"実験体"になれていたのに……。」
オウス
「ベンゼちゃん怖いよ。今は仲間の死を悲しむべきだと、おじさんは思うな。」
口々に感想を放つが、いずれも心が篭もっていない。当然である。彼らは全員ワケありの殺人集団、人の心など無いに等しい。こと"死"に於いては、殆ど興味が無いのだ。
アニムス
「──確かに、悲しいね。」
どこからともなく聞こえた声、それは憎悪を含んだ酷く冷たい音。
幹部である5人は幾度も聞いたことのある声だ。
ベンゼ
「団長!いらしていたのですね。」
オウス
「アニムスさん、それビックリするからやめてって言ってるでしょう。おじさんまた寿命縮んじゃうよ。」
アニムス
「すまなかったね、オウス。君を失う訳にはいかない。次からはちゃんと徒歩で来るよ。」
突如現れたアニムスと呼ばれる男。彼こそが『シャノワール教団』団長、「再悪の魔法使い」グローリアス・アニムス、その人である。
人の下につかない幹部たちが何故、彼に従っているのか。それは単純、誰も彼に勝てたことが無いからだ。
アニムス
「それで、"犯人"が誰なのか気になるんじゃないかな?」
その一言で空気が変わった。幹部たちは固唾を飲んで言葉を待つ。
アニムス
「──『不透明統制部隊』、公務員を集めて作られた組織だ。」
リリィ
「『不透明統制部隊』……?聞いた事ないけど?」
誰瑠
「アニムス様の御高説の途中だ。口を慎めよ、ガキ。」
疑問を誰瑠に制止され、リリィは小さく舌打ちをした。
アニムス
「諜報部隊、要するにスパイみたいな集団だから、世間には知られてないんだ。」
「話を戻すよ、『不透明統制部隊』の誰かがスコット君を捕らえた。スコット君は『教団』の情報を連中に渡さないように自害した。」
「素晴らしい忠誠心と判断だと思わないかい?僕はそんな判断ができる優秀なスコット君を失って悲しいよ。」
「スコット君はとても辛かった筈だ。レクトル、──どうしたい?」
アニムスの笑みは形容し難い不気味なものを含んでいる。その問いの回答者にレクトルを指名したが、幹部全員に問うているのだと理解できる。
レクトル
「……『不透明統制部隊』に、スコット以上の苦しみを与えたいと考えます。」
アニムス
「ははっ、素晴らしい回答だね。じゃあ僕から少しだけ忠告。」
「『不透明統制部隊』に所属する諜報員の中に、君たちに気をつけて欲しいのが4人いる。」
アニムスは皆に伝わるように指を1本ずつ立てる。
アニムス
「1人目、『鬼没』鬼灯紅蓮。狙撃と暗殺を得意とする男で、どこからともなく現れる。『不透明統制部隊』最強とも言われてるみたいだ。」
「2人目、『破滅』鬼怒銀河。偵察と拷問を得意とする男、彼が通った跡には無惨な光景が広がっているらしい。要注意人物だ。」
「3人目、『迅雷』樹奈堅瑞穂。『破滅』の部下の女だけど僕と同じ魔法使いで、天候を変えられるらしい。多分魔力総量は僕より多いんじゃないかな。」
「そして4人目、『疾風』──神崎颯太。」
颯太の名を聞いたレクトルは目を見開いた。
アニムス
「射撃と近接を得意とする男、素早い動きと常人離れした身体能力で、単独での行動が多かった。最近は仲間を持って弱くなったから、他3人に比べると少し見劣りするかな。」
アニムスは掲げた4本の指を下げて、頬杖をつく。
アニムス
「気をつけて、とは言ったけど、どうせ殺しに行くつもりなんでしょ?」
ベンゼ
「もちろんでございます。」
アニムス
「じゃあついでに情報を集めて欲しいな。『不透明統制部隊』と4人の二つ名持ちのこと。」
「担当を決めちゃおう。きっとバラけるよ。」
リリィ
「あーしは『鬼没』ね!最強の血、見てみたい!」
ベンゼ
「わたくしは『迅雷』を。そろそろ優秀な実験体が欲しいと思っていましたの。」
誰瑠
「僕は『疾風』かな、あんまり戦闘好きじゃないし。」
レクトル
「……私も『疾風』を。」
オウス
「じゃあおじさんが『破滅』かぁ。」
アニムス
「分かった。助けが必要だったらいつでも言ってね。今日伝えたかったのはそれだけ、僕は帰るよ。」
そうして会議は終了した。リリィがレクトルを呼び止める。
リリィ
「なぁお前、『疾風』のことなんか知ってんの?」
レクトル
「えぇ。彼とは、私が人間だった頃に手合わせをしたことがありまして。」
「生きていることが分かって、久方ぶりに心が踊ったのです。」
リリィ
「ふーん、じゃ、『疾風』はお前に任せる。誰瑠に負けんなよー。」




