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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
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第一章 5話 残り香

 ──那月、羽弛。

羽弛

「まずは大阪駅内で聞き込みをしてみましょう。」

那月

「おう!……あの駅員さん、どうだ?」

 そう那月が指すのは、確かに手が空いていそうな駅員だ。

羽弛

「良さそうですね。……すみません、少し伺いたいことがあるのですが。」

 声をかけられた駅員は、問題なく話を聞いてくれる。

駅員

「おや?どうかしたのかねぇ。」

羽弛

「……僕たち探偵なんですが、この辺で殺人事件は起きていませんか?」

 それを聞いた駅員は、悲しそうな顔をした。

駅員

「殺人事件なら、最近立て続けに起きてるよォ。犯人はまだ捕まってないって言うもんだから、みんな怯えながら過ごしてるねぇ……。それくらいしか知ってることはないよォ。」

羽弛

「そうですか……、ありがとうございます。」

 話を終えようとする羽弛に、那月が割って入る。

那月

「あ、ちょっと待った!駅員さんは、"怪異"って知ってるか?」

駅員

「怪異って、妖怪とかそういう奴かい?私はあんまり詳しくないねぇ……。」

那月

「そうか……、変なこと聞いて悪かったな。ありがとよ!」


羽弛

「やっぱり不透明事件については一般人は詳しく知らないようですね……。事件よりも"怪異"について調べてみた方が良さそうです。」

那月

「同感だぜ。次は道頓堀行ってみるか!」


 そうして那月と羽弛は道頓堀へやってきた。

ちょうど良さそうな人は居ないかと辺りを見回していると、道頓堀を眺めながらタバコを吸っているおっちゃんを見つけた。

羽弛

「あの人にしましょう。……すみません、お時間よろしいですか?」

 おっちゃんはタバコを口に咥えたまま、器用に話を聞いてくれる。

おっちゃん

「ん?あんたらどないしたん?ワシに何か用かいな?」

那月

「変な質問で申し訳ねぇんだけどさ、"怪異"って知らねぇか?」

 おっちゃんは怪訝な顔になる。明らかにこちらを怪しんでいる様子だ。

おっちゃん

「"怪異"ねぇ……、あーワシは詳しくないんやけど、大阪城の中なら何か置いてあるかもしれへんわ!ほな、急いどるから!」

 そう言っておっちゃんはスタスタと足早に離れていってしまった。変人か勧誘にでも思われたのだろう。

羽弛

「ダメですか……、なかなか難しいですね。」


 その後も数人に同じように聞き込みをするも、これといった成果は得られず。皆、口を揃えて「大阪城をアテにしてみろ」と言うばかりだ。

那月

「大阪城かぁ……、照夢たちに連絡入れとくか?」

羽弛

「そうしましょう。」

那月

『これといった成果は無し。事件についても詳しく聞けなかったから怪異について聞き込みしたけど、みんな「大阪城なら何かあるかも」って言ってたぞ。』

 これでいいだろう。とメッセージを送ったのと同時に、羽弛はフードを被った男と肩がぶつかる。

羽弛

「すみません。こちらの不注意でした。」

フードの男

「おっと、こちらこそ悪かったよ。」

 そう言ってフードの男は羽弛の顔をじっと見る。

フードの男

「……君、疲れてたりしないかい?ちょっと手を見せてくれ。」

 男は半ば強引に羽弛の左手を取ると、それをまじまじと見つめ、最後に愛おしむように手の甲を撫でる。

フードの男

「ささやかなお詫びさ。」

 フード男はそれだけ言うと、雑踏に紛れてどこかへ行ってしまう。"お詫び"と言っていたが、特に変わったところは見当たらない。

那月

「何かされたのか?」

羽弛

「いや、手の甲を触られたんですが、何ともありません。大丈夫です。」

那月

「それなら良いんだ。日も暮れてきたから、今日はこの辺で引き上げようぜ。」

 そうして『CAMO』へ連絡を入れた。


 ──照夢、渚、颯太。

3人は水族館に来ていた。少し進んだところにある大きな水槽では、魚たちが気持ちよさそうに泳いでいるのが見える。

渚は周りを見て、水族館に入ってからずっと感じていた違和感の正体に気が付いた。

全く人が居ないのだ。張り紙も出ていなかったし、今日は休館日ではないはずなのに。

「ねぇ、どうしてこんなに人が居ないのかしら。」

照夢

「言われてみれば確かに……。」

颯太

「……おい、これ見てみろ。」

 颯太が見つけたのは赤い汚れだ。

颯太

「間違いない。──人間の血痕だ。」

 その言葉を受け、背筋が凍る。血を見るのは当然初めてではないが、事件現場はそうそう見れるものではない。

颯太

「被害者を探すぞ。」

 血痕は入り口付近にあった。先へ進もうと奥を見ると、お土産コーナーでうずくまっている人影が見える。

照夢

「あれ、人じゃない?……すみません、少しお話……、」

男性

「イヤだイヤだイヤだ……!殺される……!死にたくない……!!」

 同じ言葉をブツブツ繰り返していて、まともに話ができる様子ではない。

照夢

「ボクに任せて。だてに看護師やってないんだから。」

「大丈夫ですか?聞こえますか?……応答なしか。正気を失ってて、気絶に近い状態みたい。」

「冷たい物とか持ってない?」

 颯太は首を横に振る。

「私、そこの自販機で買ってくるわね。」


 渚が買ってきたペットボトルを、照夢は男性の首元に当てる。

男性は身震いをすると、こちらを見てか細い声で「誰ですか?」と聞いてくる。

照夢

「いいから、深呼吸して。」

 照夢は男性を促すように、共に深呼吸をする。つられて渚と颯太も深呼吸をしてしまうだろう。

男性

「ふぅ……、すいません、少し落ち着きました……、ありがとうございます……。」

照夢

「名前は?分かる?」

正樹

「はい。俺、山岡正樹(やまおかまさき)って言います……。」

颯太

「照夢、任せていいか。俺と渚で周囲を見て回る。何かあったらすぐに呼べ。」

照夢

「おっけー、……山岡正樹さんね。どうしてここに?」


颯太

「俺たちは少し水族館を調べるぞ。大雑把にでいい、痕跡の確認だ。」

「分かったわ。」

 水族館内をざっと見てみる。人が居た形跡は無し。水槽を泳ぐ魚たちは素人目ではあるがおかしな点は見当たらず、ただ休館日であったように思えた。


 しばらくして、颯太と渚が戻ってきた。照夢は問答を纏めたメモを颯太に渡す。


・昨日の午後、友達と水族館に遊びに来たら化け物に襲われて、友達が殺された。

・化け物は四足歩行の煙だった。

・友達を殺した後は突然消えた。

・あの化け物を追ってるなら辞めた方がいい。"アレ"は人間にどうにかできるものじゃない。

・友達は渡辺裕也(わたなべゆうや)。同じ大学の同級生。

・友達の遺体は鋭い刃物で斬られたみたいに胴体が真っ二つになっていた。

・気づいた時には遺体は消えていた。


颯太

「なるほど……、上出来だ。」

「こっちは何も無かったわ。」

照夢

「そっか……、ボクたちは他に行くところがあるんだけど、正樹さんは一人で帰れる?」

正樹

「はい……、大丈夫だと思います……。」

照夢

「心配だったらすぐに病院行くんだよ。」


 帰り際、正樹が呼び止めてくる。

正樹

「あ、あの……!皆さんは一体……?」

照夢

「不透……、」

神崎

「あー、んんっ!俺たちはただの観光客ですよ。」

正樹

「そう、ですか……。皆さんもお気をつけて……!」


 水族館を出たところで、那月からのメッセージが届く。

照夢

「……ん、那月からだ。」

那月

『これといった成果は無し。事件についても詳しく聞けなかったから怪異について聞き込みしたけど、みんな「大阪城なら何かあるかも」って言ってたぞ。』

「大阪城、丁度いいわね。」

 そうして正樹と別れ、3人は大阪城へ向かう。


 大阪城は登録文化財にも指定されている立派な城だ。生憎今回は情報収集の為に来ている。高鳴る胸を落ち着かせながら、チケットを購入して入館する。

「初めて来たけど思ってたよりずっと広いのね。」

 城内は想像以上に広く、そのほとんどが展示室のようになっている。文献や甲冑や刀の模型など、過去の遺物が展示されているようだ。

颯太

「手分けして展示物をざっと見てみよう。」

 文献はガラスケースに入れて保存してあった。ほとんどが大阪城近辺に関するものだ。

然し、照夢はその場にそぐわない文献を見つけてしまった。


 蛸神様(たこがみさま)は人型で、恐ろしく大きな身体とタコのような頭部を持つ。

蛸神様はかつて武蔵国にある不眠に苦しんだ村を救い、崇め奉られた。

蛸神様は夢を司る。寝付きの悪い夜には心地良い夢を見せてくれる。

ただし蛸神様を恐れてはならない、蛸神様は私たちを助けてくださるのだから。

願我身浄如香炉がんがしんじょうにょこうろう願我身如智慧火(がんがしんにょちえか)


照夢

「蛸神様……?最後の文はお経みたい。我の身が香炉のように清らかなことを願う、我の心が智慧の火のようであることを願う。かな。」

「勝手なイメージだけど、お経って悟りを開くみたいなイメージあるんだよね。」

「蛸神様に捧げる生贄は清らかでなければならない、みたいな?」


 渚は、展示されている1枚の紙に目が止まった。


 時間は混沌、混沌は神秘、神秘は創造、創造こそが時間。

我らは古から続いている、我らは黄昏時に動き出す。

我らは待ち望んでいる、我らは待ち続けている。

故に我らは近づいている、大いなる彼が目覚める時に。


ふんぐるい むぐるうなふ

くとぅるう るるいえうがふなぐる ふたぐん


 紙を読んでしまった渚は、なんとも言えない脱力感に襲われる。足が思うように動かない。


颯太

「何か見つかったか?……おい、大丈夫か。」

「分からないわ……、この紙を読んでから変に気が抜けちゃって……。」

颯太

「……なるほど。ここに書かれていることも恐らく怪異だ。触るぞ。」

 颯太が渚の肩に触れると、不思議なことに脱力感は最初から無かったかのように消えた。

「あ、ありがとう。」

颯太

「気にするな。文献にしては内容が比較的新しい。他の物と比べても明らかにおかしいと感じる。作為的な罠だな。」

「そしてこれは恐らく外部の奴の仕業だ。大阪城内から怪しい瘴気は感じないからな。」

 そこに照夢も合流する。見つけたものを見せ合うことだろう。

颯太

「なるほど、もういい時間だ、合流して全員で確認しよう。」

 そうして『CAMO』へ連絡を入れる。調査に没頭していて気づかなかったが、辺りはすっかり暗くなっていた。

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