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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
3/17

第一章 3話 阿惟越致探偵社

 颯太はタバコを灰皿に押し付け、ネクタイを締め直す。

颯太

「よし、早速事件を解決しに行くぞ。聞くより実際に見た方が分かりやすいだろ。今回は引率で俺も着いて行くが、次回からはお前らだけで行けよ。」

那月

「毎回着いてきてくれないのか!?」

颯太

「着いて行きたいのは山々……でもないが、俺は俺で別にやることがあるんだよ。」

「この山を道なりに降りていくと、OCFと全面協力している探偵社がある。まずはそこで今回の事件内容を聞く。」

「道中話しておきたいこともあるからな。準備が出来たら着いてこい。」

 半ば強引に話を聞かされ、質問も許されないまま部屋の外に出る。そういえばクソ長い階段があるんだった。流石に気が引ける。

照夢

「もーっ!!なんでエレベーター故障してんのよ!!」


颯太

「──遅ぇぞ。……お前ら、なんでそんなに汗だくなんだ。」

照夢

「はぁ!?なっっっがい階段降りてきたからに決まってんでしょ!!」

颯太

「あー、言ってなかったか。アレは試験みたいなもんで、エレベーターは普通に動くぞ。」

「そんな……。それを先に言いなさいよ。」

羽弛

「僕は今、颯太さんに対する信頼が僅かに下がりましたよ……。」

那月

「ま、まぁ!体力はもう少しつけなきゃいけないと思ってたし!プラスに考えようぜ!」

颯太

「悪かったよ、詫びと言っちゃなんだが、今晩は俺が奢る。さっさと行くぞ。」

 颯太が指し示すのは大型の自動車だ。一行が乗り込んで、車は山を下る。というか道路あったのか。

この車が社用車なのかどうかは、割とどうでもよかったから聞かなかった。

颯太

「ひとまず、この資料を読んでくれ。」

 4人分渡された紙には、疑問の殆どが記されていた。


不透明統制部隊:OCFについての資料

 不透明統制部隊(以下OCF)は1995年に内閣総理大臣によって立ち上げられたプロジェクトである。

 OCFには警察、消防、医者、教員など、様々な分野に諜報員が存在する。

諜報員は、情報の漏洩を避けるために公務員でなければならず、OCFに所属している者は殺人が許可されている。

 情報を漏洩した者とそれを知ってしまった全ての者はOCFによって始末される。

全ては国民の安全と安心のために存在する機関であるため、それを脅かさぬように知られてはならない。

 事件については阿惟越致(あゆいおっち)探偵社や、警察の諜報員がまとめることとする。

 不透明事件は怪異によるものがほとんどであるため、命の危険がある。

もし亡くなったとしても、何らかの事故に巻き込まれて亡くなったことになる。

 不透明事件は複数の事案が重なって発生していることが多い。

調査中に別の不可解な現象が発生した場合は、本来の調査を中断することを許可する。


颯太

「……公務員の件は俺が異議を唱えたんだ。頭の硬い上の人間は変化を嫌ってやがるから、説得には骨が折れたよ。」

「あぁ、そういうことね……。」

颯太

「OCFは近年人手不足が激しくてな。一般人も代表監督の管理下に置けば入隊可能にしてやったんだ。スカウトのみでだがな。」

「つまり、お前らの代表監督は俺という訳だ。お前らは偶然公務員だっただけ。」

那月

「気になる物騒なことは一旦置いといて、怪異ってのは?」

颯太

「そうだな、この仕事をするにあたってお前らは知らなければならないことがある。"支配者"と、それを"使役する者"についてだ。」

照夢

「随分物騒な名前だけど?」

颯太

「お前らが想像してるよりずっと物騒で厄介だ。この世には、旧支配者や外なる神とかいう化け物が存在している。不透明事件はこいつらの仕業がほとんどだ。そいつらが主な怪異。」

羽弛

「"支配者"……、にわかには信じ難いですね……。僕は極力信じたくはない。」

颯太

「それも一つの選択かもな。そうもいかないのがこの仕事だが。」

「さっき言ったデカい事件を覚えてるか?それが、そんな化け物どもを使役する集団、『シャノワール教団』によって発生したものだ。」

「その名も『東京都連続魂消失事件』。お前らもいずれこの事件を追うことになるだろう。」

那月

「待ってくれ、『シャノワール教団』?オレらの敵は宗教団体なのか?それに『魂消失事件』?」

颯太

「それは、今から行く探偵社、阿惟越致探偵社で話す。」

「まぁ生半可な気持ちでやってると死ぬってことだ。気合い入れろよ。」


 そうして目的地が見えてきた。その探偵社はOCF本部から車で20分ほどの場所にあった。探偵社というよりかは事務所と言った方が正しいかもしれない。そのくらい大きな探偵社だ。

颯太

「着いたぞ。ここが目的地だ。」

「立派な探偵社ね。」

 車から降りそんなことを思っていると、神崎はインターホンを鳴らしていた。

颯太

「俺だ、新田を呼んでくれ。」

 それから少しして事務所の扉が開く。そこに立っていたのは、──高校生くらいの金髪の女の子だった。

結衣

「やあ颯太さん、そちらが新しい"隊員"の皆さんかな?立ち話もなんだし、とりあえず中に入ってよ。」


 社内に入ると、やはりかなり大きな探偵社のようで、ざっと見て30人くらいが仕事をしている様子だった。

照夢

「へぇ、結構大きいんだ。」

結衣

「苦労したんだよ〜?ささ、みんなはこっち。」

 案内されたのは奥の会議室だ。ガラス張りの部屋のブラインドを下げて、新田と呼ばれていた彼女が話し始める。

結衣

「ということで、ようこそ阿惟越致探偵社へ。私が代表の新田結衣(にったゆい)です!よろしくね!」

「君たちの名前と趣味を聞いてもいいかな?」

 あまりに唐突な質問に困惑していると、颯太は「儀式みたいなものだ。」とだけ言う。


那月

「じゃあ、オレは火夜那月だ。趣味は……そうだな、音楽鑑賞とかか?」

結衣

「へぇ、音楽鑑賞!どんなのが好きなの?」

那月

「オレはこう見えて音楽の教師だからな。クラシックとかが好きだぜ。」

結衣

「クラシックかー、私はちょっと明るくないかなぁ。素敵で良い趣味だと思うよ!」


羽弛

「祖月輪羽弛です。これといった趣味はありませんが、強いていえば新聞やニュースはよく見ます。」

結衣

「情報を大事にしてるの?」

羽弛

「……というより、知ることを大事にしているんです。生憎、僕は自分の目で見た事以外信じないようにしているので。」

結衣

「なるほど!てことは、ラジオも聞く?」

羽弛

「はい。ラジオだけでなく、SNSやネットなど、情報を知れるものにはよく触れるようにしています。」

結衣

「私もなるべく新聞は読むようにしてるけど、情報を知るのが大事かぁ……、うん。凄く良い"趣味"だと思う!」


照夢

「ボクは凩照夢。ウィンドウショッピングとゲームが趣味だよ。」

結衣

「ゲームかぁ!どんなのやるの?」

照夢

「敵をなぎ倒すやつだね。ゲームはストレス解消にちょうどいいの。」

結衣

「そっかぁ、大変なんだね。私はスローライフとかRPGとかが好き!」


「四森渚よ。趣味は読書と、ガーデニングかしら。

結衣

「読書!どんなの読むの?」

「ライトノベルが面白いのよ。元々は建築に関係するものばかり読んでいたのだけれど、友達にオススメされてハマっちゃって。」

結衣

「ライトノベル面白いよねぇ、私も好き!」


 そうしてよく分からない問答は終わった。

結衣

「おっけー、あらかた情報通り。みんな本人で間違いなさそうだね。」

颯太

「お前から見てどうだ?信頼できるか?」

結衣

「大丈夫。颯太さんが選んだ人たちでしょ?ならそれが、信頼に値する理由。」

「それで、どこまで聞いてるのかな?」

 ここからは質問タイムのようだ。先陣を切るのは羽弛だ。

羽弛

「"支配者"と"使役する者"についてまでです。質問しても?」

結衣

「いいよ!私が知ってることならね。」

羽弛

「……僕が一番気になっていることです。──『東京都連続魂消失事件』とは、なんでしょう。」

結衣

「まずはそれからだね。」

「今OCFが全勢力を挙げて追っている事件だよ。その名の通り、都内各地で『まるで魂だけが抜け落ちたかのような遺体』が相次いで見つかるっていう事件なんだけど、なんとこの事件、1998年から解決してないらしいよ!」

羽弛

「『魂だけが抜け落ちた遺体』……。それは、死因ははっきりしているんでしょうか。」

 結衣は首を横に振る。

結衣

「いや、してないよ。心停止でもなく、一種の脳死状態や植物状態に近いみたい。」

「人は死後21グラムの質量を失うって話、聞いたことある?」

羽弛

「……はい。有名な話です。」

結衣

「全部の遺体を調べたわけじゃないんだけど、調べられた遺体の全てが、元の体重からぴったり21グラムだけ引かれてたんだ。」

羽弛

「だから……、『魂消失事件』……。」

 羽弛は俯いたまま黙ってしまった。


「じゃあ次は私の番ね。『シャノワール教団』って、一体何なのかしら?」

結衣

「うん。これは避けては通れない問題だからね。」

「不透明事件のほとんどが旧支配者とか外なる神によるものだって聞いたでしょ?」

「えぇ、聞いたわ。」

結衣

「そいつらを信仰してるヤバい団体が『シャノワール教団』だよ。教団なんて名乗ってるけど、その正体は残酷な殺人集団。犯罪組織なの。今後OCFとして事件に関わるなら絶対に出会う奴らだから、気をつけてね。」

「なるほど、教団って名乗ってれば、外面は良いものね。」


照夢

「じゃあボクも。旧支配者とか外なる神って一体何なの?」

結衣

「そうだねー……一言で表すなら、人智を超越した地球外生命体……かな。正体も、いつどこに現れるかも全く分からない奴らのことだよ。」

照夢

「てことは、そいつらは宇宙人ってこと?」

結衣

「大きく括るとそうなるかな。」

「ちなみに、怪異の代表がそいつらってだけで、妖怪とか都市伝説も怪異になるからね。」

那月

「今更もう驚かねぇが、やっぱ妖怪とかも居るのか……じゃあ幽霊も居るのか?」

結衣

「ご明察〜!人間が考えつく化け物は、だいたい居るって思っておいた方がいいよ。」


那月

「そういや、結衣ちゃんの趣味はなんなんだ?」

 それを聞いた結衣はしたり顔になる。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔だ。

結衣

「私の趣味は麻雀!運を掴み取る!って感じが凄く好きなの!」

「不透明事件も麻雀のルールみたいに複雑なことが多くてねー、まぁそこが結構面白いんだけど。」

那月

「運か……、じゃあもう1個。阿惟越致ってなんだ?」

結衣

「やっぱり気になる?……まぁ聞き慣れない言葉だもんね。阿惟越致は菩薩の修行の位を示す階位だよ。」

「意味は、"どんな誘惑や迫害があっても退転しない"ってこと。簡単に言えば、目的に向かって突き進むって感じかな。」

那月

「菩薩ってことは……仏教徒なのか?」

結衣

「ううん。全然そんな事ないんだけど、意味を気に入ったの。"ゆい"って私の名前も入ってるしちょうどいいやと思ってこの名前にしたんだ。」


 あらかた気になることは聞けただろう。

結衣

「質問はこのくらいかな?」

「さてさてそれじゃあ本題に入ります!今回の事件は『大阪府連続殺人事件』。不透明度は高いけど、颯太さんもいるし大丈夫でしょ!概要とかはここにまとまってるから。」

 渡されたのは一枚の紙、資料だ。


大阪府連続殺人事件:概要

 大阪府内のみで発生している連続的な殺人事件。

これまでに、頭部を酷く損傷した遺体や、腹部を抉られている遺体、更には手足を切断された遺体などが見つかっている。

刺し傷や切り傷などから、ほとんどが刃物による犯行であると考えられるが、凶器の類いは見つかっていない。

 被害者の知人で、被害者が亡くなる直前に送ってきたメールがあるという方がいた。

その内容は「かとまからけむ。」「あすけえ」という意図が汲み取れないものであった。

犯人は未だ逃走中である。


羽弛

「『大阪府連続殺人事件』……、初陣から殺人事件ですか……。」

「不思議なメールね。ダイイングメッセージかしら、さっぱりだわ。」


那月

「さっき言ってた『不透明度』ってのはなんだ?」

結衣

「あぁ、OCFで使ってる事件のランクのことだよ。S〜Cで分類されてて、今回の『大阪府連続殺人事件』はランクA。」

「危険度とか難解度とか、その他諸々で上層部によって判断されてるんだよ。RPGのクエストみたいでちょっと面白いでしょ?」

那月

「クエスト扱いかよ!でも納得だ。それだけオレらを信じてくれてるってことだろうからな!」


 そんな会話を横目に、凩照夢は神崎颯太を呼び出していた。

照夢

「颯太さん、ちょっと良い?」

 照夢は探偵社の会議室の隅で、気づいたことを共有する。

颯太

「どうした。何か気になる点でもあったか?」

照夢

「ボク思うんだけど、事件概要のメールの内容、アレ多分フリックミスだよ。被害者は直す余裕もなかったって証拠じゃない?」

颯太

「鋭いな。俺の目に狂いはなかった。そのまま解読できるか?」

照夢

「……やってみる。2個目は『たすけて』っぽい。」

颯太

「あぁ、同感だ。」

照夢

「そして1個目。こういうのはどこかで区切る。『かとまからけむ。』を『かとまから』と『けむ。』にして、後ろからやる。」

「多分これは『けむり』。だとしたら『〇〇から煙』ね。『かとま』は……もしかして『かど』?『角から煙』?」

 それを聞いた颯太はハッとした表情をする。

颯太

「……恐らく正解だ。良くやったな。アイツらに共有は?」

照夢

「ふん!こういうの意外と得意なんだよね、ボク。共有は道中でするよ。」


 何やら話し合いを終えた颯太が、那月たちの元へ戻ってくる。

颯太

「そうだ、言い忘れてた。事件を解決出来たら、俺か新田に連絡してくれ。処理などは全てOCF所属の警察官がやることになってるからな。」

那月

「おう!じゃあ連絡先交換しようぜ!」

 那月のその提案を、颯太は制止した。

颯太

「まぁ待て、よく考えてみろ。OCFは諜報機関だ。例え個人でのチャットでも、ハッキングされれば一発で情報漏洩だ。」

「じゃあどうするのよ?」

颯太

「OCFには優秀な人材が揃っている。上層部にプログラミングに長けたやつが居てな、そいつがOCF専用のチャットアプリを作ったんだ。」


──数年前。

颯太

「──なぁ、」

「おやおやぁ?神崎氏じゃないですか。用があるのは我輩ですかな?それとも『スケルトン』ですかな?」

 そう憎たらしく言うのは、度の強いメガネをかけた男。OCF所属のプログラマー兼ハッカー、宍戸透(ししどとおる)だ。

颯太

「残念ながら今回も宍戸に用だ。頼んでおいたアプリはどうだ?」

「OCF専用チャットアプリのことですな。もちろん、既に完成してますぞ。」

颯太

「流石、仕事が早いな。」

「ふん、我輩を誰だとお思いで?天才プログラマー兼天才ハッカーの宍戸透ですぞ!」

 透は鼻を鳴らしながらそう言う。

「アプリ名は『CAMO』。諜報機関らしく、カモフラージュから。」

「バッジの所有者しか使えないアプリにし、独自のクラウドに情報を保存するのでセキュリティ面は万全。チャット機能だけでなく通話機能まで付けた。文句は受け付けませんぞ!」

颯太

「十分すぎるくらいだ。この時代にわざわざ手紙や口頭でのやり取りを強いられるのは、面倒極まりなかったからな。ありがとう。」


 そうして時は現在へ戻る。

颯太

「その名も『CAMO』。チャットだけでなく通話も出来る。じきに自動でお前らのスマホに入るはずだ。」

羽弛

「それはどういうことですか?」

颯太

「そのままの意味だ。『CAMO』の開発者はハッカーだからな。」

「つうことで、突然だがお前らへプレゼントだ。」

 そうして颯太は指輪入れのような小さい箱を渡してくる。

入っていたのは直径3cm程の小さなバッジだ。OCFという文字が彫られている。

颯太

「それを肌身離さず持っているといい。OCF入隊の証だ。きっとお前らを守ってくれる。」

「そしてそれが、『CAMO』を使う最低条件だ。」

 確かにスマホに『CAMO』というアプリが入っている。

結衣

「じゃあ私たちと連絡先交換しとこうよ。報告とか救助要請とか何かと便利だし。グループにも招待するね!」

 そうして颯太と結衣と連絡先を交換した。

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