第一章 2話 不透明統制部隊
那月
「さて、どうやらオレらの上司になる人間は放任主義らしいな。」
羽弛
「同感です。4人を集めた張本人がここに居ないとは、はたして信じても良いのでしょうか。」
照夢
「ボクはちょっと期待してるけどね。クソくだらない世界に一矢報いれる何かだってね。」
渚
「私も、ちょっと気になるわ。どんな人なのかも、どんな場所なのかもね。」
4人の邂逅は偶然で必然、きっと運命だ。一言交わしただけで、それが信じられる不思議な感覚。
那月
「ひとまず自己紹介な!オレは火夜那月。新人だけど教師だ!これからよろしくな!」
羽弛
「僕は羽弛。祖月輪羽弛です。見習いの裁判官をしています。」
照夢
「ボクは凩照夢。こんな名前だけど純日本人だよ。職業は看護師。」
渚
「私は四森渚よ。森なのに渚って変よね。こう見えて建築士なのよ。」
仕事でいえばコイツらは同期になる。仲良くしたい一心でよろしくと声をかけるのは、那月だけではない。
羽弛
「どうやら、僕たちには共通点があるようです。」
照夢
「共通点……?歳が近そうだとは思ってたけど。」
羽弛
「そこではない、職業が皆、公務員であるという点です。これは何か関係あるのでしょうか。」
渚
「確かにね。そう考えると不思議だわ。」
那月
「じゃあ、少し擦り合わせようぜ。オレらがどうしてここに居るのか。」
渚
「私は変な手紙が届いて、それに従ってみたらここに着いたって感じね。」
照夢
「ボクも同じ。昨日手紙が来て、力を貸してくれとか書いてあったよね?」
羽弛
「はい。僕の元にも恐らく同じ手紙が。魔法陣のような幾何学模様が描かれていたことも覚えています。」
那月
「やっぱりか。オレのところにもその手紙が来てたんだ。となると──、」
そうして話をしていると、突然目の前のビルのドアが開いた。そこにはスーツ姿の男が居る。
男が出てきた瞬間空気が変わった。張り詰めたような空気のせいで呼吸を忘れてしまいそうだ。
男はこちらを一瞥して一言だけ口にする。
颯太
「……これで全員か、入れ。詳しいことは中で話そう。」
羽弛
「突然出てきた貴方を信じろと?……馬鹿馬鹿しい……ってちょっと!」
男はもう既にビルの中へ戻ってしまった。恐らく案内人だ。
渚
「諦めて着いていくしか無いみたいね。行きましょう。」
ビルの1階は当然ロビーになっている。人は誰も居ないが、何かの会社なのだろうか。
エレベーターには『故障中』の張り紙が貼られている。スーツの男は階段に足をかけていた。
颯太
「ぼーっとしてないで早く着いてこい。上まで昇るぞ。」
照夢
「えーっ!また昇るのぉ!?大したこと聞けなかったら恨むかんな!!」
那月
「オレは体力には自身あっからな!もしどうしても無理だったら、お前一人背負って昇るくらいワケないぜ。」
──どのくらい階段を昇ったのだろう。というか、もう足が痛い。歩きたくない。
足を上げる理由なんて、もう意地だけだ。出来れば今すぐ座りたいと思っているのは、那月だけでは無いだろう。
そんなことを思いながら前を歩く男を見ると、疲れなどひとつも見えず、足取りは変わらないままだ。
那月
「はぁ……なぁアンタ、何モンだ……?」
颯太
「……上に着いたら説明する。」
那月
「そう、かよ……。なぁ、もう10分は昇ってるぜ……、まだ着かないのかよ……。」
颯太
「あぁ、まだだ。まさかこれっぽちでへばったのか?てんで期待ハズレだな。」
那月一行
「「──ッ!!」」
那月
「はァ!?そんなワケねぇだろうが!!やってやらぁ!!」
羽弛
「聞き捨てなりませんね。まだへばってなどいません。」
照夢
「ボクが、へばるワケ、ないじゃん!ちょっと疲れただけ!!」
渚
「ちょっと、まだ諦めてなんてないわよ。」
──見え見えの挑発に乗るなんて、オレたちはまだまだ子供だ。
そうして約15分の階段昇りを成し遂げた。もう起き上がれない。それでも、その先にあるものを見るために、足を動かすしかなかった。
着いた先は大きなスクリーンと人数より少し多い椅子だけがある広い部屋だった。印象は会議室だ。
颯太
「お疲れ様、まずは座ってくれ。」
照夢
「もう無理……、恵みの椅子だぁ……。」
一行が椅子に倒れるように座ったのを確認し、息のひとつも切れていない男は話し始める。
颯太
「多少危うくはあったが、体力と根性は及第点と言ったところだろう。」
「集まってくれてありがとう。お前らと会えたことを、とても嬉しく思う。」
「俺は神崎颯太。お前らの上司って事になるな。表向きは警察官だが、裏はOCFの諜報員兼人事担当だ。」
那月
「アンタが……!」
颯太
「あぁそうだ。お前らのことはある程度調べさせてもらった。これからよろしく頼む。」
そう言って神崎颯太と名乗った男は気だるそうにタバコに火をつけ、話を続ける。
颯太
「聞きたいことは山ほどあると思うが、時間は限られてるからな。とりあえずOCFについてだけ説明するから、聞いてくれ。」
颯太
「正式名称は『不透明統制部隊』だ。現在の諜報員の数は、全国各地に30万人ほどいる。その全てが公務員だという特徴がある。俺は公務員の縛りは要らねぇと思ってるんだがな。」
「……お前ら、去年起きた事件の数は知ってるか?」
那月
「──いや、」
颯太
「……およそ30万件、そのうちの約35000件が未解決……いや、"解決出来ない事件"なんだよ。そういった警察や探偵では解決出来ない事件をどうにかするのが、俺たち『不透明統制部隊』だ。」
渚
「そんなに……?」
羽弛
「不透明統制部隊……、聞いたことも……、」
颯太
「そりゃそうだろうな。なんせ俺たちは諜報部隊だ。世間一般では存在しない組織なんだよ。」
「その原因不明の解決出来ない事件のことを俺たちは『不透明事件』と呼んでいる。つい先日不透明事件が何件か入った。お前たちにはこれの調査、原因究明、解決を頼みたい。」
「世界を救うために、力を貸してほしい。言っておくが、命の保証は無い。どうだ、やってくれるか。」
照夢
「ちょ、ちょっと待って!全然頭が追いつかないんだけど!?」
那月
「オレもだ……颯太、さん。少し時間をくれ。」
颯太
「まぁ、いいだろう。猶予は10分だ。」
何から何まで分からないことだらけだ。ひとまず全員で話し合おう。
那月
「何から何まで分からないことだらけ、敵がなんなのかすら分からねぇ。」
渚
「組織の手伝いとは言われたけど、現場に出向くってことよね。」
羽弛
「死ぬ覚悟で、ですね。なるほど……」
照夢
「──ボクは、やりたい。」
最初に声を上げたのは、以外にも凩照夢だった。
羽弛
「理由を聞いても?」
照夢
「──ボクさ、看護師なんだけど、毎日毎日患者さんのお世話をして、オムツを替えて、お風呂に入れて、食事を手伝って、ナースコールに出て、走り回って、時には患者さんから暴言を浴びせられて。人が居ないからって辞めることも出来なくて、部長にはセクハラされて……限界だったんだ。」
「もう死んだ方がマシだって思った。そんな時に、スカウトの手紙が来たの。」
「希望だと思った。このクソみたいな世界を変えられるって、本気で思った。」
「──だから、やる。やりたい。世界を壊すつもりだったけど、世界はもう壊れてて、これから治す。それも良いじゃん!ボクは看護師だから!傷ついた世界を、本気で治してやるんだ!」
羽弛
「……なるほど。お2人、異議は?」
渚
「ふふっ、あるわけないでしょ?」
那月
「当たり前だ!ここに来たってことはきっと、何かしら今に不満があるってことだ。オレも、同じ気持ちだぜ!」
羽弛
「もちろん、僕も賛成です。ですが、僕たちは僕たちの意思で、この決断をした。それだけは忘れないでくださいね。」
照夢
「……!うん。ありがとう、みんな……!!」
那月
「待たせたな、颯太さん。やるよ、オレら。オレらで良いなら、力になってやる!」
それを聞いた颯太は、安堵したような表情を浮かべた。
颯太
「……そうか。悪いが、ここまで聞いてしまった以上、拒否権はなかった。これを聞いてOKと言えるお前らも、十分イカレ野郎だってことだ。」
渚
「もし断ってたら、どうなってたのかしら?」
颯太
「もし断ってたら、──既にあの世だったろうな。」




