第二章 4話 パスコード
二手に分かれてしばらく経つ。未だにこれといった物は見つかっていない羽弛、照夢、渚は、2年A組に来ていた。
渚
「ここも……ただの教室ね。」
サッと流し見しようと思ったところで、月の光がひとつの机を照らしているのに気づく。
その机には小さな紙が置かれていた。
羽弛
「『276 12 7』。これもパスコードだとすると、2つ目ですね。」
机をよく見ると、霧矢翠と書かれていた。なるほど、ここは翠の教室だったのか。
照夢
「そうだ、渚さんが見た人影ってこの辺じゃなかったっけ。」
3人は外から見た窓の位置から推測して、女子トイレに来た。
照夢
「羽弛は外で見張ってて。ボクたちで見てくるから。」
羽弛
「分かりました。危険があったら呼んでください。」
そう言って照夢と渚は女子トイレに入る。左右に個室が5個ずつ並んでいる。学校のトイレ特有の刺激臭と暗さで詳しくは分からないが、一番右奥の個室から、何か液体が流れ出ているのに気が付くだろう。
渚
「これ、何かしら。」
暗さで色の判別が上手く出来ないが、黒っぽい色をしている。
恐る恐るドアを開けると、そこには女がいた。声をかけても返事はない。目は虚ろで、意思の疎通は取れそうにない。
ふと胸元の名札を見ると、「西園寺ユリ」と書いてある。この女の名前と見て間違いないだろう。同時に、1枚の紙と手帳を大事そうに持っているのに気が付く。
照夢
「やっぱり、西園寺ユリさん……。ひっ!」
その瞬間、西園寺ユリが月明かりに照らされる。2人は本能的に理解するのを拒否していたのだろう。だが、目の前に広がる光景に、身体は反応し、酷い吐き気を覚えてしまう。
床だけでなく、周囲に広がるその液体は、鮮烈な、赤色だった。西園寺ユリは、全身をズタズタに切り裂かれて亡くなっていた。
あまりの惨さにここに居ることを放棄してしまった。2人は西園寺ユリが大事そうに持っていた紙と手帳だけ回収して、トイレの外に出る。
羽弛
「お帰りなさい。……随分顔色が悪いようですが。」
渚
「ちょっとね……中に遺体があったのよ。」
羽弛
「渚さんが見た人影というのは……もしかするとその方だったかもしれませんね。」
2人は呼吸を整えて、持ってきた紙と手帳を見ることにした。
照夢
「でも、収穫はあったよ。」
「まず紙、『840 5 10』。」
羽弛
「パスコード3つ目ですね。」
渚
「手帳も持ってたわ。」
手帳は、序盤は日程などがキッチリとした文字で書かれていた。1番最後のページに、恐らく途切れそうな意識の中書いたのだろう。お世辞にも綺麗とは言えない文字で、西園寺ユリが伝えたかったことが書かれている。
西園寺ユリの手帳
意識がどんどん遠のいて行くのが分かります。
下半身と左腕の感覚はもうありません。
時刻は17時過ぎ、日も暮れかけ、部活動の声のする中、学校での用事を済ませたので帰ろうとしたら、外に見たことの無い化け物がいたんです。
大きな虫の様な見た目だったと思います。それと、人を探している様子でした。
化け物をひと目見た瞬間に、本能的な恐怖を感じました。
アイツに見つかってはならない。間違いなく、殺されてしまう。
産まれて初めて対面する死の恐怖に、私は耐え切れず、その場から咄嗟に離れました。
その後は、帰ろうにも帰れなかったので、安全かなと思い、このトイレに隠れていました。
そんな時に、この紙を見つけたんです。
何か重要な物な気がしたので、持っておくことにしました。
時刻は既に21時。辺りはすっかり暗くなり、教室のほとんどは施錠されてしまった様子。
私は校内に取り残されてしまいました。
様子を見て学校から脱出しようと思った時、私はついに見つかってしまいました。
目の前に現れたのは、女子高生でした。
私は瞬時に理解しました。化け物が、女子高生の皮を被っているのだと。
気がついたら、身体がズタズタに斬られていました。
そんな時、化け物が窓の外を見たんです。
その後化け物は、まるで目当ての人物を見つけたかのように、嬉々としてどこかへ走り去って行ってしまいました。
それからしばらくして、アナウンスがなりました。
『いらっしゃいませ。どうぞ楽しんでいってください。』
こんな内容だったはずです。
あぁ、私はもうダメみたいです。
お母さん、もうすぐそっちへ行きますね。
最後に私の推測ですが、この紙は本のページ数、行数、単語数を表していると思います。
それ以外に思いつきませんでした。
この手帳が誰かの役に立つことを願うばかりです。
羽弛
「なるほど……目指すは図書室ですか。」
渚
「西園寺ユリさん、助かったわ。」
手帳を読んで、照夢は西園寺ユリの切り傷を思い出していた。
照夢
「肉を抉った様な異様な傷口……鋭い爪で引っ掻かれたような傷……。」
照夢の脳内に浮かんだのは、『猟犬』の鋭い爪と、写真で見たシャンの5対の腕。確かあの腕もかなり鋭かった筈だ。
照夢
「大きな虫……やっぱりシャンの仕業で間違いなさそう。」
翠
「なかなか見つかんないっすね〜。」
那月と翠も苦戦していた。次に着いたのは建築の製図を描く実習室のようだ。工業高校特有の教室に、何となく胸が高鳴る。
そこそこ大きめな教室だが、一見しておかしなところはないように見える。
那月
「うーん?なぁ、この椅子さ。」
ふと、椅子に目が止まる。よく見ると、大きな机が6個、各机に椅子が4個ずつついており、そのうちの数個の椅子が不自然に引かれているのだ。
翠
「本当だ。……もしかすると、この引かれた椅子が何かを表しているのかもしれないっすね。」
那月
「もうちょっと手がかり探してみっか!」
──見つけた。机には黒板に向かって左前から右後に向かって1〜6の数字が書いてあった。
椅子にも同様に左前から右後に向かって1〜4の数字が書いてある。
那月
「あったぞ!番号が割り振られてるんだな。」
翠
「……1番の机の1番の椅子が引かれてるから、1桁目は1、ってことっすか?」
そうやって当てはめていくと、『124133』になった。
那月
「パスコードだ!放送室のと対応させると、『124 13 3』か?」
翠
「多分ビンゴっす!一旦皆さんに知らせときます?」
那月
「そうだな!……あれ、圏外だ。」
那月が『CAMO』で連絡を取ろうとするも、スマホは圏外になっていた。
翠
「通信を禁ずる魔法、オレ聞いた事あるっす。それかも……。」
那月
「まぁ校内は静かだし、声出せば気づいてもらえるだろ!」
2人は合流する前に、まだ来ていなかった体育館に来ていた。
僅かに開いていたドアを通り、体育館内へ侵入。然し見たところおかしなところはないように思える。
翠
「ステージの横のハシゴから2階に上がれるっすよ!」
2人は2階に上がる。下にいた時は暗くてよく見えなかったが、床に大きな円の模様が描いてあるのに気がつくだろう。
那月
「これ……魔法陣じゃないか?随分デカいけど。」
翠
「誰かが何かを召喚したとかっすかね。」
そうして一同は合流する。4つのパスコードが集まったことで、次に目指すべき場所が図書室であることを説明した。
渚
「あのパスコードは、ページ数、行数、単語数を表してる。だから、図鑑みたいなページ数が多い本を探して欲しいの。」
那月
「そういう事か……分かったぜ!」
図書室は綺麗に整頓されており、落ち着いた雰囲気で、とても居心地が良い。紙の香りが微かに心を穏やかにしてくれるかもしれない。
カウンターの横に大きな本が置かれている。タイトルは『アガフォーノヴィチの伝記』。この図書館で最もページ数の多い本のようだ。
翠
「んー、英語の本みたいっすよ?」
表紙をめくると、『小→大』と書かれた紙が落ちてくる。
照夢
「いかにもって感じだね。小さい方から順に見てみよ。」
・124ページの13行目の3番目 confidence
・276ページの12行目の7番目 mind
・519ページの10行目の4番目 reality
・840ページの5行目の10番目 yellow
この4つの単語が見つかった。
羽弛
「単語……意味……数字……あ、この本とかどうでしょう!?」
本当のあなた
数字に込められた意味
0:透明、無、宇宙、リセット、単体では意味をなさない、この世の数字1〜9のパワーを拡大・凝縮する
1:赤、自信、イニシアチブ、男性原理、先へと推し進める主張力、自尊心、トップ・一番・オリジナル
2:白、受容、応答する、女性原理、受け容れ・受け取る、傷つきやすさ、感情とのつながり
3:黄、創造性、表現、喜び、素直さと子どもらしさ、言葉を使うことに携わる、楽しさを生み出す
4:青、現実性、安定、自然で在る、秩序を維持する、グラウンディング、安心安定
5:緑、エネルギー、自発性、瞬間にいる、変化が得意、五本の指・五体・五臓・五感など、人間そのものの象徴
6:桃、ハート、真実、母性、愛に満ちる、美的感覚、ハートの領域
7:紺、マインド、理解、探究、熟慮と智慧に富む、知的で機転が利く、神秘的な気づき
8:橙、パワー、豊かさ、願望実現、陰陽のエネルギーバランス、物事をまとめる能力、お金の領域
9:紫、慈悲、奉仕、信頼、自らは主張しない、人道主義的関心、自己犠牲的な働き
渚
「多分これね。この数字を当てはめると……1743。」
那月
「それがパスコードっぽいな。これでやっと脱出できるな!」
その時、翠は別の本を見つけていた。やけに新しい表紙だなと思って手に取ったが、内容がおかしいのだ。
翠
「皆さん、これ読んでみてください。」
大いなる神の目覚め
シャンとはシャッガイからの昆虫の略称である。
彼らは群れを成して行動する。
一つ使い方を間違えると、危険にさらされるのは我々の方だ。
時間は混沌、混沌は神秘、神秘は創造、創造こそが時間。
我らは古から続いている、我らは黄昏時に動き出す。
我らは待ち望んでいる、我らは待ち続けている。
故に我らは近づいている、大いなる彼が目覚める時に。
ふんぐるい むぐるうなふ
くとぅるう るるいえ
うがふなぐる ふたぐん
羽弛
「またこれですか……。」
この文言の資料があるということは、ここも同一犯による犯行と見ていいだろう。
やるべきことを終え、昇降口へ帰ってきた。
翠
「『1743』……開いたっす!」
那月
「やったな!でも結局見つけたのは遺体くらいか……。」
5人は無事に本校舎から出ることが出来た。
喜びを感じているのもつかの間。外に出ると、旧校舎から異様な空気を感じた。招かれざる客を、誘っている。そんな風に感じる。
羽弛
「なんでしょう……。」
照夢
「ちょっと行ってみようよ。」
渚
「様子見くらいだったら大丈夫よね。」
5人の足は意志とは関係なく、勝手に旧校舎へと向かっていた。




