第二章 2話 翡翠の青年
──金曜日。結衣に言われた通り、一同は10時にOCF本部の会議室に集合する。
そこには神崎颯太が居た。
颯太
「よォお前ら、元気だったか。」
タバコを吸いながら気だるそうに話し出す颯太に、少し安心する。
照夢
「元気だよ、ボクたちみんな仕事辞めて、OCFに専念することにしたから。」
それに颯太は表情ひとつ変えずに頷いた。
颯太
「思い切ったな。まぁ、俺としてもその方が助かる。」
「さて、報告は受けたぞ。山鹿商店街では昏睡の原因は見つからなかったそうだな。」
羽弛
「はい。それに記憶が混濁していて……。」
颯太
「それなら那月からも聞いた。お前らは何者かに襲撃されたんだ。」
襲撃された、それを聞いた瞬間、那月以外の3人の頭は痛み出す。
颯太
「分かっていることは、襲撃してきたのは知能を持った何かだってことだけだ。」
渚
「……知能が無かったら、そのまま殺されていたってこと……。」
颯太
「その通りだ。とはいえ、お前らが見つけた『ルルイエ異本』は無事に回収できた。」
ルルイエ異本、気になっていた本だ。あの後結衣に預けて本部に持って行って貰ったんだった。
颯太
「あれは世界に数十冊あると言われているいわく付きの魔導書の一つでな。」
「有名なものだと『エイボンの書』や『ネクロノミコン』なんてのがある。その一つを回収できたのは相当デカい。改めて礼を言う。」
那月
「そんなものが何であの商店街にあったんだろうな。」
颯太
「さあな。まぁ、話はこれくらいにして、早速資料を見てくれ。」
そうして颯太から資料を渡される。
由芽高生徒連続失踪事件:概要
福島県にある工業高校「由芽守工業高等学校」の生徒が、ここ2ヶ月で立て続けに失踪している事件。
家族や先生方に話を伺ったが、失踪した前日にも変わった様子はなかったという。
被害者の友人にも話を伺ったが、どうやら昼休み以降に姿が見えなくなったそうだ。
失踪した生徒の名前は藤本ミサキ、東ショウゴ、宮永ヤマト、佐藤ユキノ、本田リョウスケである。
このことから家出や虐めの可能性は低く、事件に巻き込まれた可能性が高いと見て捜査を続けている。
颯太
「今回の事件、『由芽高生徒連続失踪事件』だが、生徒が失踪した事実は公になっていない。他生徒や近隣住民への聞き込みは、要らん不安を駆り立てることになりかねないので禁止とする。」
「そこでだ、実はOCFにその高校の生徒が一人いる。お前らより前にスカウトされた一般人だ。……霧矢!入ってこい!」
颯太がそう言うと、部屋のドアがガチャリと開く。
見ると緑色の髪に翡翠色の瞳が特徴的な青年が部屋に入ってきた。何か大きな荷物を背負っている。
翠
「こんちはっす!オレ、霧矢翠っす!バンドやってます!」
そう言ってミドリはおもむろにエレキギターを取り出し、突然ギターソロを弾き始める!
素人目にもなかなか上手いんじゃないかと思う。思わず拍手をしてしまった。
翠
「どうもっす!どうっすか?ギター!カッコイイっすよね!?」
颯太
「霧矢はこういうやつなんだ。音楽が好きなんだがかなりバカでな……まぁ、タッパがあるから役立たずにはならないと思うぞ……多分な……。」
翠
「ちょっと颯太さん!バカって酷くないっすかー!でもオレ、体力には自信あるんで、足手まといにはならないっすよ!」
颯太が大きなため息をつくのが見えた。
那月
「ははっ、よろしくな!翠!」
翠
「はい!よろしくっす!那月さんっすね!」
「そっちは、羽弛さん、照夢さん、渚さんっすよね?」
どうやら自己紹介の必要は無さそうだ。各自よろしくと挨拶をする。
那月
「さて、それじゃあ行くか!」
東京から電車に乗ることおよそ3時間、ようやく福島駅へ到着。しばらく歩くと高校が見えてきた。
翠
「ここが由芽守工業高校っす!」
羽弛
「結構大きな学校ですね……。」
現在は14時過ぎ、生徒たちは昼休憩を終えて6校時目の授業の準備をしていると言ったところだろうか。
渚
「築15年か20年くらいかしら、3階建てで廊下は体育館まで繋がってるのね。」
照夢
「向こうにあるのは……旧校舎?」
校舎から少し離れたところには3階建ての校舎がある。
翠
「そうっすね!旧校舎は20年前くらいに使われてたみたいっすけど、今は立ち入り禁止になってるっす。」
「来年には取り壊して第2体育館を作る予定らしいっすよ!」
四森渚は何かが妙だと感じる。よく見ると、1階の渡り廊下が全て壁に覆われているのだ。
それだけならまだしも、体育館まで距離があるにもかかわらず、その廊下までもが全て壁に覆われている。
渚
「連絡通路にも壁が付いてる……。」
連絡通路は土足で歩いても構わないように壁が付けられることはほとんどない筈だ。
翠
「渚さんは建築士だったんでしたっけ?」
「この学校、出入口が全部で2つしかないんすよね。昇降口と体育館の入口だけ。」
「超不便っすよ!中庭もあるのに使われてないし、そもそも扉がないから中庭に出れないんすよ!おかしくないっすか?」
渚
「……普通はありえないわね。これだけ大きな学校なのに。」
この学校は、本当に子供たちのために作られたものなのだろうか。漠然と感じたそれを口に出すことは出来なかった。
那月
「流石にこの時間に侵入するのは無理だな。」
翠
「じゃあ……22時目安に侵入しましょう!明日はちょうど部活も含めて全部休みっすから、最悪朝までかかっても多分大丈夫っす!」
羽弛
「分かりました。」
翠
「夜まで時間潰しますか!オレのオススメの暇つぶし、教えるっすよ!」
翠に案内されたのは田んぼだらけのあぜ道だ。こんな所で何をするつもりなのだろう。
翠
「田舎で暇な時にやること、それは……!」
照夢
「それは……?」
翠
「怪異退治っす!!」
……アニメならヒューっと風が吹くタイミングだろう。
羽弛
「確かに暇つぶしにはなるでしょうが、そう都合良くいるものなんですか?」
翠
「田舎をナメちゃいけないっすよ。ほら、あそことか。」
翠が指さしたのは田んぼの奥だ。よく見ると、白い何かがくねくねと動いている。
待て、これは確か都市伝説の『くねくね』じゃないか!?
翠
「あ、慣れてない人が見たら頭おかしくなっちゃうんでした!」
照夢
「ちょっと何見せてんの!?」
くねくね、見ていると精神に異常をきたし、やがて自分もくねくねになってしまうという都市伝説だ。
すぐに目を離したおかげで、4人は無事で済んだ。
翠
「悪気は無いっすよ!!でもくねくねは1人だとちょっと手こずるっす。」
那月
「オレが一緒に行くぜ。ちょうど試したいこともあったからな!」
昨日の訓練を終えて、早速自分の力を試したかった那月には、丁度良い相手だと思った。
翠
「那月さん!くれぐれも無理はしないようにするっすよ!」
那月
「おう!」
翠と那月はくねくねの元へ走り出す。
翠
「くねくねは結構硬いっす!部位ごとに分けて攻撃が退治の基本。刃物で両断するのが手っ取り早いっすよ!」
那月
「任せろ!ナイフなら持ってるぜ!」
那月は腰のコンバットナイフを構える。構え方も昨日颯太に教わった。逆手で持って殴る要領で切る!完璧だ。
そのままくねくねの正面へと到達。2人は別方向に散った。
翠
「こっちっすよ!」
翠は取り出した爆竹をくねくねの顔と思しき場所に投げつける。
那月
「まずは、──両腕だっ!」
力の込もったコンバットナイフは、いとも容易くくねくねの両腕を切り落とす。
那月は颯太に教えられていた。自分の攻撃で出来た隙に、すかさず次の攻撃を叩き込め。
その教えを思い出し、くねくねの腹を素早く刺突する。
那月
「最後に首だ!!」
トドメに首を両断した。くねくねは血も出さずにその場に倒れ、やがて塵となって消えた。
翠
「お見事っす!随分場馴れしてるっすね!間違いなく俺より強いっすよ那月さん!」
那月
「まぁな!昨日めっちゃ特訓したんだ!」
くねくねは『猟犬』とは比べ物にならない雑魚怪異だ。多分。
羽弛、照夢、渚も駆け寄ってきてくれる。
羽弛
「驚きました。前回からさほど時間は経っていない筈ですが……。」
那月
「颯太さんに戦闘訓練してもらったんだ。様になってただろ?」
照夢
「それどころか百人力でしょ!じゃ、戦闘は任せた。」
渚
「そういう訳にもいかないでしょ。ちょっとだけ戦い方、教えてくれないかしら?」
周りから見ても見違えるほど強くなっていたらしい。
翠
「この調子でどんどん退治するっすよ!この辺にはそんなに強い怪異はあんまり出ないっす!」
「あ、でもダイダラボッチだけはマジで気をつけてください。戦ったらまず死ぬっすよ!」
照夢
「わ、分かった。ダイダラボッチって、確か巨人だよね……。」
翠
「そうっす!山の奥からこっちを見てくるんで、多分すぐ気づくと思うっすよ。」




