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日陰の聖女 白花はもえる 夢路の果てにて  作者: クスノキ
第一章 カゲ と セイジョ
5/5

第5話 戦う理由

本来は前話にくっついていた話なので、ちょっと短めです。

 ――魔力を得る方法は二つある。


 一つは魔力をはじめからもって生まれること。これは家系の影響が大きいそうだけど、アヤノや桐山さんはそのパターンだ。というか、二人は実は叔母と姪の関係だったりする。ただこっちのパターンはとっても少ない。

 肝心なのがもう一つの、大多数の方法。それがカゲと接触することだった。基本的にカゲに触れたら人は死ぬ。でも、たまにカゲに触れても死なずに魔力を得る人がいる。

 あたしやケイ先輩、ナオはこっちのパターンだ。魔法災害の被害に会い、カゲに触れ、生き残ってしまった人たち。


 魔力を得られるのは大体が未成年の子ども、特に女の子が多いらしい。男の子もいるけれど、それはとても珍しい。不思議なことに20歳を超えた人がカゲに触れて魔力を得たケースはないそうだ。

 魔力を得ることは幸運なことか、それとも不幸なことか。少なくとも桐山さんは不幸だととらえているんだと思う。


 魔力を得てしまった子が候補生になるのは強制だ。機関の聖女はいつだって不足している。桐山さんが殴られたのも、きっと女の子の父親からだったりするのではないだろうか。

 母親をカゲに殺され、残された娘もカゲを殺す聖女として育てるために奪われる。ひどい話だと思う。

 聖女は複雑な存在だ。聖女は危険なカゲを退治してくれるありがたい存在。同時に、カゲに触れても死なない、穢れを帯びた存在。あるいは、理不尽に家族を奪ってしまう存在。


 そういえば、魔法持ちのカゲに襲われていたあの子は大丈夫だっただろうか。桐山さんたちによると、あたしの負傷に気を取られているうちに、どこかへ行ってしまっていたらしいけど。

 よく考えたら、平日の昼間に女子中学生がいるのも変な話だ。早退でもしていたのだろうか。


「あたしは……」

 桐山さんたちは話の後、少しして帰って行った。テーブルには色とりどりの果物が籠に残っていた。その中からバナナを取り出して、皮をむいて食べる。

 バナナを一房まるまる食べ、ブドウを口いっぱいに詰め込んで、桃は皮ごとかぶりついて、籠の中の果物を食べつくす。

「ご飯を増やしてもらおう」

 あたしが入院している病院は、機関直属の病院だ。役立たずでも、貴重な候補生。多少の無理は聞いてもらえるはず。お米とか、お肉とか、たくさん出してもらおう。


 アヤノと桐山さんも言っていた。食事と睡眠は健康の基本だ。特に魔力と体力を回復させるためにも栄養は必要不可欠。


 食べる以外にできることはないかな。体幹部分を負傷すると、どうしても行動に大きな支障が出る。ランニングは無理。魔力操作の訓練も、傷の治りが遅くなるからダメ。筋トレは……握力を鍛えるくらいならできるかな。手をグーパーしてみる。器具を準備してもらうか。


「できるのは、それくらいかぁ」

 バタンとベッドに倒れこむ。おなかの傷が痛んだ。食べ過ぎて気持ち悪い。なんであたしはこんなに弱いんだろう。

 弱い自分が悔しくてしょうがない。弱い自分を変えられない今の状態が悔しい。でも入院生活はまだまだ長い。後でもう少しできることを整理してみよう。


「強く、なりたいなぁ」


 候補生たちには、みんな戦う理由がある。ケイ先輩は家族を殺したカゲに復讐するため。アヤノやナオはカゲで苦しむ人を減らすため。

 あたしは――


 時間は夕方。窓の外の桜はもう散って緑色の葉っぱが見え始めている。夕焼け空……いつか見た夢の光景が、頭をかすめる。

「アヤノ、今何してるかな。アヤノに、会いたいな」

 スマホを操作してフォトアプリを開く。画面に映るのはいろんなアヤノの姿。あたしと2ショットで撮った写真や小隊の4人で撮った写真もあるけれど、アヤノのピンショットも多い。寝ているアヤノ。訓練に励むアヤノ。寝ぼけた顔で歯を磨くアヤノ。桐山さんと話して笑っているアヤノ。

 どのアヤノも最高にかわいくて、かっこいい。

 目を閉じる。アヤノが聖剣を手に戦う姿が映る。あんな風に魔法が使えたら。あんな風にカゲと戦えたら。


 あたしはもっとアヤノのそばにいられるのに。


 アヤノのそばにいることが、あたしの戦う理由だから。


「アヤノ。アヤノ。アヤノ。……大好き」

 アヤノのことを思うだけで熱い思いがこみ上げてくる。あたしが頑張れるのはアヤノのおかげで。あたしが強くなりたいのはアヤノの隣にいるため。

 そのためならどんな苦労も乗り越えられるし、なんだってやれる。

 あたしにとって、アヤノは最高で最強のヒーローなんだから。


「強く……うん。もっと強くならないと」

 アヤノがいっぱい映ったスマホを両手で抱きしめる。そうすると、アヤノが近くにいるように感じられた。



 第一章 カゲ と セイジョ 完


これで第一章は終わりとなります。ここまで読んでいただきありがとうございます。

いいねや評価、感想、ブクマいただけると今後の励みになります。よろしかったら是非。第二章スス被りの少女は現在制作中です。近日中に投稿予定です。

活動報告に1章制作話を投稿していますので、よろしかったらこちらも。

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