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第16話 変化②

 訓練は予定通り、午前中で切り上げた。ただし訓練内容は小隊内の連携に変更して、今のあたしにできることの洗い出しと、それに合わせた動きの確認をしていった。


 手札が増えると、ここまで動きが変わるのかと思う。あたしがさっきやった強化した弾丸と曲がる弾丸。それらを桐山さんからアドバイスを受けつつ、作戦に組み込んでいく。


 4人で戦うときはどうするか。2人でなら、あたし一人だけなら。いろんなパターンを取り上げ、最適解を探っていく。

 最後にやった4対1の訓練では、手札が知られていることもあって。桐山さんに一撃を当てることはできなかった。けれど、あたしが援護だけではなく、強化した弾丸で明確に攻め手側に回れるようになったことで、桐山さんをかなり追い詰めることができた。


 この上であたしが“疑似継承”をマスターして使うことができれば。夢はかなり広がる。



「なんか、いい出会いでもあったのかよ」

 訓練の後、先に帰るあたしに、ケイ先輩が話しかけてきた。


「出会い、ですか?」

「あぁ。今日のお前の動き、よかったよ。ただ謹慎してただけなら、ああはならないだろ。だから、な」

「ケイ先輩があたしをほめるのは、初めてかもしれないですね」

「ウチはいいと思ったらほめる主義なんだよ。これまでのお前がいいところがなさすぎただけだよ」

「ひどい」


 博士とカサネの顔が浮かぶ。今日、桐山さんに一発入れることができたのは、間違いなく博士のおかげだ。博士の教えてくれた疑似継承の副産物で、魔力操作の制度が上がって活躍できた。


 けれど、博士一人だけではこんな短い時間で成果を出すことはできなかったと思う。

 カサネがいたから。あの子の存在が、あたしを強くしてくれたのかも。まだ短い付き合いだけど、カサネのまっすぐな好意はあたしを救ってくれた。


「いい出会いは、あったんだと思います。ある意味、ケイ先輩とケンカしたおかげですね」

「嫌味かよ」


 割と本心なんだけどな。


「じゃああたしはこれで」

「待て。あー、その……なんだ」

 帰ろうとするあたしを引き留め、ケイ先輩は何かを言いたそうに、ガリガリと頭をかく。


「あんときは、悪かったな」

 例のケンカの話だ。ケイ先輩は気まずそうに、視線をあちこちにさまよわせている。


「言い過ぎた」

「いや……あたしも、すみません。あの時は自分のことばっかりで、本当に周りのことが見えてませんでした」


 深々と頭を下げる。ケイ先輩は「はぁ」と深いため息をついた。


「頭上げろよ。クソ、こういうのガラじゃないんだけどな……」

 とブツブツつぶやく。


「ウチがなんで戦っているか、お前は知ってったっけか」

「確か、カゲへの復讐のため、でしたよね」

 中村さんから以前聞いた話だ。


「そうだよ。ウチはカゲが憎い。カゲを殺せるから、候補生をやってる。でもな」

 視線は明後日の方向に向けたまま、ケイ先輩は続けた。

「今はそれだけじゃ、ない。一回しか言わないからな。……昔のウチは復讐のためだけで戦ってた。でも今のウチは仲間のために、って気持ちもある」

「先輩……」

「ああクソ。言うんじゃなかった。こんなこと」


 先輩の顔は真っ赤だった。クソとかボケとか、ごまかすように口から汚い言葉が飛び出てくる。

 復讐のため。仲間のため。先輩には二つの戦う理由がある。


「どうして、それをあたしに?」

 はっきり言って、あたしとケイ先輩は仲良くない。あたしがへまをするたびに厳しい言葉をかけてくるし、荒っぽい雰囲気もあんまり好きになれなかった。


 先輩もあたしのことをよく思っていないのだと、ずっと思っていたけれど。


「今日のお前はよくやっていたからだよ。アヤノはアヤノで家のこととかあんだろ。あいつはもうたくさんいろんなものを抱えてる。ナオはまだちいせぇ。いろいろ背負うには重すぎる。お前なら、ちょうどいいだろ。自分自分ばっかりで、背負ってるもんが全然なかったんだから」


 だから、お前に託すんだよ。


 先輩の言い方はまるで自分がもうじきいなくなってしまうような、そんな言い方だった。思い当たる節は一つだけある。

 魔力の減衰。大人になると、候補生の多くは魔法を失う。


「ケイ先輩、まさか」

「別に何かがあったってわけじゃねぇよ。聖女になることをあきらめたわけでもねえ。けど、生きた死んだの世界にウチたちはいるんだ。後悔する前に言っておこうってだけだ」

 ケイ先輩は拳であたしの胸を優しくたたく。


「そういや、桐山さんから前聞かれてたな。なんで戦うのかって。ハナ、お前はなんで戦ってんだ?」

 そういうケイ先輩の顔は、今まで見たことがないほどやさしいもので。肩の荷が下りた、そんな表情。



 戦う理由。ここ最近ずっと頭の中にあったことだ。


 昔は単純だった。アヤノの隣にいるため。それ以上のものは必要だと思えなかった。

 でも、それじゃだめだとケイ先輩は言って、桐山さんは疑問を投げた。

 理由は今も変わらないけれど、それだけでもない。


『カサネも、聖女機関に入りたい、です。できますか?』

 カサネの言葉を思い出す。彼女がいる、幸せな未来の光景も。

 あの子の期待に応えたい。あの子が幸せに暮らせるような、笑って過ごせるような未来をつかみたい。


「……アヤノの隣にいたい。その気持ちは変わりません」

「お前」

「でも、それだけじゃ、ないみたいです」

 あたしは、



「仲間を守って、カゲに襲われる人を守って。そんな誰かを守れるようになりたい。守りたい。それがあたしの戦う理由です」



 仲間を守る。カサネを守る。あたしの力は、そのための力だ。



 自分自身で言った言葉は、ストンと、胸の中に収まった。



「陳腐だな」

 くくっと先輩は笑う。


「でも、いいんじゃねぇか。今のお前、かっこいいよ」

 そう言って、ケイ先輩は手をヒラヒラ振って訓練に戻っていった。


 *


 ――今、振り返ってみれば。



 あたしはこの時未来というものに、大きな期待を寄せていた。



 新しい力を手に入れて、



 力を仲間に認められて、



 ケイ先輩から願いをたくされて、



 カサネとの未来を夢見た。



 アヤノと一緒に戦い、カサネと一緒に遊ぶ。そんな夢のような明るい毎日。




 ――世界というものは残酷で、


 愚かなあたしはそのことを知らなかった。



 幸せというものは、あっけないほど簡単に、崩れてしまうということを。



 灰村カサネ。



 あたしにとって妹のような女の子。



 彼女からの、気付けたはずのサインを、



 あたしはずっと見逃していた。


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