【天使】養殖・第二話(6)
「ならば、わらわが相手しよう」
ジャンヌ・ダルクめいた風貌の【仙女】が言い、琥珀の玉座から立ち上がった。
「『戦力』の『細腕』のという、そなたの先入観を誰かが正さねばならぬゆえな」
「正すて、本気だっか?」
とまどい笑いしよった【天使長】、「あんさんが? わてと? 一対一で?」
「さあ?」
謎めいた微笑。
「されど【天使】が【仙女】に勝てると思うてかや?」
言いながら、栗色につやめくその髪が風もないのに立ち上がりはじめて、陽炎みたいに揺らめくんを、【天使長】はぼう然と見つめよった。
「わらわは生まれつき頭皮から、ある大量の生体触媒を産生する」
静かに言う【仙女】、
「それはプロラクティンおよびオキシトシンベースのカクテルで……つまりは『母性ホルモン』なり」
いつのまにか、仙女の周囲に幾種類もの生きもんが集まってきてよった。
どの絶滅動物も【天使長】を見る目に敵意やどしてよる。
「ほう」
て【天使長】、「つまりあんさんを『娘』と認識してよるわけやな。いやびっくりした」
驚愕と動揺の笑み浮かべはしたものの、「けど、言うてドードーやハトがわての相手になりまっか? ニホンオオカミ? そんなんただのやせた犬ころやん……」
ほんでも。
のしっ。
のしっ。
森の奥からサーベルタイガーが出てきて、のしっ……て仙女のかたわらに立ったのには、
「えぇ……」
戦意のはがれた顔になる。(『【天使】養殖・第二話(6)』に続)