7 初仕事
朝目が覚めると彼女は隣で寝ていた。夜が遅く、かつ部屋が一つしか空いていなかった。仕方がなかったのでその部屋に決めた。店員は説明してたような気もするが、疲れにより早く休みたい、早くベットに潜りたい気持ちが昂ぶり詳しい話を聞き逃していた。何か言っていたような気がしたが右から左に流れ、首を縦に振ってしまった。人間一日たてば忘れるという言葉がある、正にそれだ。
だからなのか朝起きて冷静になるとなぜシングルベットを二人で使っていたのかとても気になる。次寝るときは一人一つのベッドで寝たい。
いつまでもミドリの寝顔を見ているわけにもいかないので、肩を揺すって起こすことにした。密着状態にいたからなのか昨日と比べて割と早く目覚めた。
部屋の中には水桶と布がおいてあった。何に使うのかわからなかったので、部屋を出て受付に行って朝ご飯をもらうことにした。朝ご飯という言葉を昨夜覚えていて良かった。聞いてみると夜ご飯は宿泊とセットで出ることは珍しく、朝ごはんが出るのは普通らしい。夜は店とか屋台とか自炊とかで済ますらしい。
ということで朝ごはんを二食部屋まで運んでもらった。水桶について聞いてみると体を洗うためらしい。教えてくれたのはいいが、無知だったのが珍しいのか少し笑われてしまった。自分より年下に見える少女だったのが余計に心にきた。傷心。
先に食べるよりも身体を清潔にしたかったので体を拭くことにした。流石に一緒に拭くことはできないのでミドリが拭いているときは、俺が部屋の外に。俺が拭いているときは、ミドリが部屋の外で待機していた。
信頼関係が築けたらこんなことしなくてよいのかな?
何はともあれようやく飯にありつけることができた。朝ごはんとして握りこぶしくらいの大きさのあるほのかに温かいパンと野菜が入っているあっさりした味付けといっても塩味を少し感じるスープを提供された。
ただ黙々と食べるのは味気ないので気になったことをミドリに聞いてみることにした。
「なぁミドリ、君の家族はどこにいるんだ?」
「兄さん?家族?兄さんは私を拾ったとか言ってた気がするからどこで生まれたとかわからないんじゃない?」
「兄さんって誰のこと?」
「兄さんは兄さんだよ…私を育ててくれた人だけど…小さい頃からずっと兄さん兄さんと言っていたから
本名を知らない。いや、頑なに教えてくれなかった…」
「そっか…」
兄さんっていうから血のつながっている家族かと思ったが育ててくれた人物なのか。
「そういや、ミドリには犬耳があるけどそれは家族を見つける手掛かりになりそうだな」
「この犬耳は兄さんが言うには獣人というらしいけど、森の中で兄さんとずっと過ごしていたから私以外の獣人をまだ見たことがないんだよ。この街に同族がいるといいな」
どうして獣人じゃないけどミドリを育てたんだ?何かをするには理由があるはずなのにどうして兄さんは森の中で育てて、言い方は悪いけど最近になって捨ててしまったんだ?何か兄さんに取り巻く深刻な問題でもあったんだろうか。謎に謎が重なり必要な情報が不足していて何もわからない。
「獣人じゃないということは人間が育ててくれたの?」
「兄さんはシヴァみたいな人間だったよ。兄さんとシヴァの匂いは似ているし。」
「匂いが似ているって、そんなに俺臭いの?食事前に一応体を洗ったけど…」
「匂いが似ているから安心感があってシヴァについているんだよ。兄さんだって言っていたぞ、知らない人について行くなって。まずは信頼関係を築くところからだって」
「俺って安心感があるのか…嬉しい」
「…、兄さんには犬耳がなかったから獣人じゃないと思うけど、いつも目元には黒い仮面を何故かずっとつけていたから、未だに素顔を見たことがないんだよね⋯仮面を外してみてってお願いしたらこれは呪の仮面でもう一生外すことはできないと言われて諦めたりしたんだよ」
少し物寂しい口調で思い出に浸っている。そして少し間を開けてから
「でもね、寝ているときでもずっと仮面をつけているから、一度だけ、本当に興味をもって素顔を見ようと寝ている隙に仮面を外そうとしたんだけど何故か外せなかったんだよね。だから本当に呪の仮面なんだと思って、それ以降外そうとするのをやめたんだよね。」
「⋯」
ミドリの思いに対する最良な返事が思い浮かばない。俺にとって家族がいたのだろうか。大切な人はいたのだろうか。出会ったばかりだが俺にとってミドリはかけがえのない大切な人なのだろうか。自問自答するが頭には何も思い浮かばない、だけど心では唯一無二の存在だと叫んでいる。熟考すればするほどわからなくなり沼にはまる。
ご飯を食べ終わったのでミドリと一緒にカウンターへ向かった。俺達はこの世界に疎いので、というか右も左もここがどこなのかわからないので、この町、この世界について教えてもらおう。
これからの旅の指針を決めるのに情報は大切だ。無知は罪なり…
カウンターに行くとさっきの娘とは違って店主らしきおじさんがいた。エプロンらしきものを着ていたので料理をしていたのだろう。
「朝ごはん美味しかったよ」
「美味しかった」
「ガハハ、だろぉだろぉ、夜も食べる場所がなかったらここで食べな。満足の行く食事を提供してみせよう」
豪快に笑って返してくれた。宣伝されてしまったらこりゃここで今日は食べるしかないな。他の店を選ぶという選択肢を削られた。
「おじさんこの町はどんな町なんだ?」
「?…そんなことも知らんかったんか?とんだ田舎もんやな。この町はイーヴァと言われている。結構前からあるらしい。君に対してあまり言えないが俺も詳しいことを知らん。詳しいことを知りたかったらギルドに行きな。そこで全てが解決する。」
「ギルド?それはなんだ」
「ギルドも知らんのか?オメェは冒険者じゃないのか?剣を持っているから冒険者だと思ったが。ほんとーに田舎もんやな。ということは冒険者になるんか?」
肩身が狭い。
「ははは⋯、そうですね、冒険者とやらになってみます。ところでギルドはどこにありますか?」
「店を出て大通りを歩いていくと大きな建物があるはずそこがギルドだ。」
「なにから何までありがとうございます」
「ありがとうございます」
「これからもこの店をよろしくな」
店主は気さくで話しやすい性格をしているが、ひげが微妙に長く近寄りがたいところが難点だが。これからもこの町にいる間はこの宿を利用することにしよう。ということでギルドとやらに行ってみるか。
宿を出てミドリと一緒に大通りを歩く。まだ朝が早いせいか大通り沿いの店は開店準備をしている。店の看板を眺めながら数分歩いていると正面にはレンガで作られた立派な建物がそびえ立っている。
豪華な装飾はないもののレンガで彩られた建物はところどころ綺麗に白色が塗られている。正面には両開きの扉が開いている。扉の上にはなにかの紋章があった。これは何か後で聞くことにしよう。
中に入ると外からの印象がガラリと変わり、木材による温かみを感じる。一階建てではなく二階建てのようだ。吹き抜けの周りには窓があり、そこから温かい日差しが館内を照らしている。奥を見ると入ったところと同じように両開きの扉が空いていた。
館内を見渡していると受付らしいところがあったので行ってみる。そこには俺のように剣を持った人が数人いた。
受付らしき女性は白と茶色を基調としたフリルのついた服を着ている。胸元には葉っぱのピンが刺さっている。
「冒険者になることはできますか?」
「こんにちは、手続きをすれば冒険者になれます。でしたら、お名前を教えてください」
「俺の名前はシヴァで、彼女はミドリ」
「シヴァとミドリですね。」
受付の人は文字を書いている。識字率が高くないせいか受付の人が字を書いてくれるらしい。
「ミドリも冒険者になるで良かったよな」
何も確認をしていなかったが一応聞いてみた。
「うん、私もシヴァと一緒に冒険者になる」
「お連れは獣人ですか。この町ではあまり見かけませんが大陸の南側に行くと獣人が多いと聞きます」
「そうなんですか。でしたら家族を見つけるために南に行くといいかもしれないな」
「こちらが冒険者カードになります。ランクの最高ランクはSで最初は最低ランクのFからはじまります。徐々にクエストを達成することでランクを上げることができます。このカードを持っていると身分を証明するものになり、ランクが上がると警備が厳重なところに入る事ができます。それぐらい国から信用されているということです。またギルドでは素材を買い取ります。最高ランクになると王族と結婚できるとかなんとか」
「シヴァは王族と結婚するの?」
「王族と結婚ですか、縁もゆかりもないですね」
「高い目標を持つことはいいことですよ。私は今日始めて受付に配属されました。私はいずれ地方ではなく王都にあるギルドで働くという夢を持っています。夢がない、目標がないのに努力する。それはとても虚しいものです」
「俺の目標か⋯」
俺はなぜあの花畑にいたのだろうか?それより以前は何をしていたんだ?俺の目標は過去を思い出すことか。記憶がないのに思い出すことはできるのか?
「私の夢は家族を見つけること」
「そうだな、なら俺の夢はミドリの夢を叶えることだな」
今過去について考えることではない。これから生きていく中で少しずつ過去を考えていけばいい。
「では、夢の一歩として町の周辺に生えている薬草の採集クエストを受けませんか?」
クエストを受けるか。この手法、朝にも同じようなことがあったような。
「じゃあミドリこのクエストを受けるか」
「うん」




