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転禍為福(禍い転じて福と為す)

「昨日は、大変なご迷惑をおかけし、本当にごめんなさい」 

 初デートの翌朝は、真優まゆさんの矢継ぎ早の謝罪の言葉で始まった。


「もう女辞めろよってほどの大失態ですよね」「舌を噛み切って死んでしまいたい気持ちです」「忘れてほしいけど、あそこまでやっちゃったら絶対忘れませんよね」「せめて何かお詫びをさせてください。何でもしますので言ってください」


「そこまで気にする必要はないですよ」と何度か言ったが、彼女のお詫びは止まらない。とうとう泣きながら、とんでもないことを言い出した。

「私の身体でお詫びさせてください」


 本当に気にしてませんからと言っても、ピンクの霧を纏いながらの彼女のお願いは変わらない。これはもう彼女の言う通りにするしかないかと、俺も覚悟を決めた。


 ベッドでの真優さんは、とてもかわいらしくて、俺にとってもそれは十分に満ち足りたものだった。

 遥さんとの一件以来女性に深入りするのを避けてきた俺だが、彼女となら、お付き合いしてみるのもありかなと思った。




 朝目を覚ますと見知らぬ部屋、隣を見ると、憧れのバレーボールの君が寝息を立てている。

 

 昨晩すっかり胃の中のものを吐いたせいか、頭も身体も比較的正常で、徐々に昨晩の記憶がよみがえってきた。


 酔いつぶれて、彼にゲロをかけて、このホテルに担ぎ込まれて、泥酔の介抱どころか、排せつと入浴の介助までされてしまった。これはもう女として再起不能の大失態である。


 そもそもが酔ったふりをして彼に甘え、ホテルに連れこまれる作戦だった。

 それが、憧れの彼を前にした緊張からハイテンションになり、つい飲み過ぎてこんなことに。


 しかし待てよ、経緯はともかく、今こうして彼とラブホテルにいるではないか。

 災い転じて福と為す、謝罪のふりをして、私は当初の目的を彼に告げた。 


 「私の身体でお詫びさせてください」


 そんなことは無用と繰り返す彼に、私は涙ながらに訴え続けた。

「それでは私の気が治まりません。どうか私のためと思って、私を抱いてください」

 

 ようやく彼が納得してくれた時、私は心の中で大きくガッツポーズをした。これでとうとう憧れの君と結ばれることができる。


 どうせ大した女性経験はないだろうというのは全くもって私のバイアスがかかった先入観で、百戦錬磨を自認していた私とあろうものが、ベッドの中ではもう彼にされるがままだった。

 テクニック云々(うんぬん)というレベルはない。女性の身体の官能の仕組みを知り尽くしている、そんな感じだった。

  

 彼がセフレになってくれるならもう他の男はいらないかも、いや、いっそ恋人とか、お嫁さんにしてくれるとか、でも、あんなことまでしちゃったから無理だろうな、とか、でも途中からはそんなことを考える余裕もなくなった。

 

 彼の腕の中で、私の身体は、ジェットコースターのように急上昇と急降下を繰り返した。

 

 やがて大きな波が来た。あっという間に天高く打ち上げられ、大空で爆ぜたような超弩級の快感に、私はただただ必死で彼にしがみついた。


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