慈母巣立
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その週末の金曜日は、小町さんこと小石川課長と箱根の温泉へお泊りデートだった。
会社が終わると電車で箱根湯本に直行、湯本温泉郷のホテルで、しっかり夜、朝の二回戦をこなした。
疲労困憊で帰宅すると、ひなたがリビングで俺の帰りを待ち構えていた。
「おかえり、堂々の朝帰りだね」
「いろいろと転職前の引継ぎとかがあってね。そうそう、遥さんから聞いたんだけど」
「ふふ、私を置いていこうったって、そうはいかんぞ」
「ところで、真優との三角関係についてお母さんから何か言われた?」
「三角関係じゃなくて、二人で先生をシェアしてるんだって説明した。納得はしてなかったけど」
本当は二人じゃなくて四人でシェアなんだけど、そこまでは言わなかったようだ。
ひなたをロスに連れて行くにあたり、一番気になっていたのは、ひなたの母、金子玲子さんの動向だ。ひなたは一人娘、それが海外に行ってしまうとなると、親としては心中穏やかであるまい。
「一人娘が海外に行っちゃうって、お母さん、寂しがらない?」
「私の人生だもの、文句は言わせないわよ。それに、私、ママの弱み握っているから」
「ん、弱みって?」
「昔の話よ。淳史先生とママができてたってこと」
知ってたんかい!
「恋する乙女の直感よ。ママの先生に対する態度を見て、こいつもライバルかいって思ったもの」
「パパはきっと大反対すると思うけど、『淳史先生とのこと、パパに言っちゃうよ』ってママを脅せば、あとはママがパパを上手く説得するでしょ」
もう一つの懸念は真優のことだった。
「でも、ひなたがいなくなると、真優も淋しくなっちゃうよな」
「真優ちゃんのこと気にしてるの? 彼女は彼女でいろいろ考えているみたいよ。ま、直接本人に聞いてみなさいな」
彼女は俺に抱き着くと、唇で俺の言葉を封じた。
「もう真優ちゃんの話は止めにして。今日は私の日なんだから、私に集中してよね」
彼女は俺の腕を取って立ち上がった。
「さあ、私の部屋に行きましょ。まずは夕食前に軽く一回、お願いね」
小町さんとの一戦で疲労困憊、寝たきりになっていた俺の息子が、むくむくと目を覚ました。




