海外雄飛
翌朝、目を覚ますと、笹塚社長はもう身支度を整えていた。
「あなた、相変わらずベッドの上ではとんでもないわね。ああ、若い子相手に調子乗っちゃったから、おばさんはもう足腰ががくがくだわ」
そういう割にはきびきびと動いて、シャワーを浴び、化粧も済ませて、秘書の池澤さんに迎えに来るように連絡を取っている。
「あ、そうそう。あなたの勤務先だけど、ロサンゼルスでどうかしら」
意外な勤務先に、俺は少なからずびっくりした。
「西海岸に和テイストのインテリアのお店が二店舗あるんだけど、チャンスがあればこれからも出店するつもりよ。家具やインテリアの輸入買い付けもあるし、|企業買収(M&A)の情報収集とか、いろいろと仕事はあるわよ」
俺は一番気になっていたことを質問した。
「単身赴任ですか。出来れば子供とその母も連れていきたいのですが」
「帯同でいいわよ。それとかのんのこともお願いね」
「えっ、かのんちゃん!?」
なんと、俺が予想もしていなかった名前が社長の口から出た。
「あの子の進学先は、日本のスポーツ名門校ではなく、米国に留学させることにしたわ。将来世界で戦える選手にするために、ロスオリンピック出場の可能性も見据えて、競技活動も米国中心にさせるわ」
「それって、あっちで僕らと同居するってことですか?」
「そうよ、確かあなたのお相手って、女医さんだったわよね」
「何でもご存じですね。心療内科医ですけど」
「ちょうどいいわ、かのんのフィジカル面、メンタル面のケア、彼女にお願いできるかしら。知っての通り、かのんはわが社の新規事業のイメージキャラクターよ。ロス五輪でメダルを取らせるくらいの気持ちで、仕事と思ってしっかりやってね」
彼女は、俺の股間をつかみながら言った。
「私も数か月に一回くらいのペースで出張に行くわ。その時は、こっちの方もよろしくね」
俺は、帰宅するとハウスのメンバーにを集めて、転職、転勤の件の話をした。勤務地がロサンゼルスになりそうなこと、そこでかのんちゃんと同居する可能性が高いことも、あわせて説明した。
ハウスのリビングに重たい沈黙が流れた。
「そのうちそういう話が出てくるかもとは思っていたけど、随分と急ね」
ようやく遥さんが沈黙を破って口を開いた。
「それで、一人で行くことになるの?」
俺は、遥さんと遊人を連れていくつもりであることを告げた。
「ちょっと待って。こんな重大な話、勝手に進めないでよ、みんなの気持ち、ちゃんと考えてあげてよ!」と遥さんが戸惑いの表情で俺に抗議する。
「もちろん、独断で話を進めるつもりはないよ。遥さんも、美和も、真優も、ひなたも、自分がこれからどうしたいのか、よく考えてみてくれないかな」
「このハウスは、なくなっちゃうの? みんなのこと、家族みたいに思ってたのに」とひなた。
「うん、そのことも含めてだ。考えてみてくれないかな」
全員の前では話しにくいこともあるだろう。ここから先の話は、一人一人とゆっくり相談させてほしい。俺はそう話を締めくくって、この日はお開きとなった。




