転機到来
「えっ、二子神先生!?」
風邪と発熱で体調を崩した娘の様子を見に来たひなたの母、金子玲子さんとシェアハウスで鉢合わせしてしまった。
ひなたは、俺とのことは親には秘密にしていて、一つ屋根の下に住んでいるということも告げていなかった。
玲子さんとは、学生時代にひなたの家庭教師をしていたので当然面識がある。いや、面識があるどころか、数回身体の関係を持ったことすらある。
当時は、遥さんと別れ、自暴自棄になっていた時だった。食事に誘われ、普段は食べられない美味しいものにありつけるとホテルのレストランにのこのこついていき、ホテルのお部屋に誘われて、身体を美味しくいただかれてしまったというわけだ。
あの時は「せんせ、どうせ童貞なんでしょ、気持ちいいこと教えてあげるわ」的な上から目線にカチンときて、つい本気を出してしまった。
じらしまくって、やらしいことばを言わせて、恥ずかしい体位も取らせた。でもそれが逆にいたく気に入られて、娘のみならず母親の方にも、ベッドの上で家庭教師をするようになってしまったというわけだ。
ひなたや真優とそういう関係になった時点で、そっちの家庭教師は伏して中止とさせていただいた。従姉妹どんぶりどころか、親子どんぶりにもなっていたという事実は、ひなたは知らないはずだ。
もちろん、今更ながら知られたくはない。それは玲子さんも一緒だろう。
「これ、どういうことかしら。先生、ゆっくりお話、聞かせてくれません?」
俺は、高田馬場のファミレスに連れていかれた。
「もしかして、うちのひなたか、真優ちゃんか、どちらかとそういう関係なの? それともまさか二人とも?」
明らかに疑われている。というか、全く図星なので返す言葉もない。
「先生、アレ、うまかったもんねー」
当時のことを思い出しているのか、ファミレスのドリンクサービスを飲みながら、玲子さんがしみじみと言った。
「あの、その節は、どうもというか」
「なによ。心配しなくても、めったなことはしないわよ。それよりも、ひなたと真優ちゃんよ。二股かけるようなまねはやめてほしいわね」
玲子さんも人の親、正論なので、言葉が出ない。
「あの二人にも話をするわ、はっきりさせてもらいなさいって」
玲子さんに言われるまでもなく、俺だってずっとこのままでいいとは思っていない。
遥さんに関しては、全面的に彼女の好意に甘えてしまっているが、少なくとも遊人のことはこのままにしておいていいはずがない。
美和の気持ちや、美和の両親が俺たちの結婚を強く期待していることも重々承知している。
加えて、取引先である笹塚家具の笹塚社長にも結婚か婿養子かという二者択一のプロポーズされており、こちらもいつまでも放置できない。
今のままの日がいつまでも続いてほしい。そう思って結論を先送りにしてきたが、もうそろそろモラトリアム期間は終了とせねばならない時期に来ているのだろう。
ようやく、俺は、重い腰を上げる決意を固めた。
まず、俺は、笹塚社長に連絡を取った。
「お話があるのですが、お時間を取っていただけませんでしょうか」




