再会再燃
「ねえ、二子神くん、あなた、月くんでしょ」
優等生でいると、どうしてもストレスをため込んでしまう時がある。
そんな時、私、小石川華乃は優等生スイッチを一時的にオフにして羽目を外した。
ストレスを解消したら、またスイッチを入れて、何食わぬ顔で日常に戻る。そうやって、私は今日まで優等生を演じ続けてきた。
あの時もそうだった。
今から7年前、休日出勤して帰宅すると、妹が孫を連れて泊りに来ていた。その時に、父からこう言われたのだ。
「華乃も働いてばかりいないで、いい人でも探したらどうなんだ」
父の言い草に頭にきて、ナンパ待ちで夜の吉祥寺をふらふらしている時に、彼に声をかけられたんだった。
それまで十人くらいの男性とこうして関係を持ったけど、断トツで彼が最高だった。
この人とならもう一度会いたい、もしお付き合いできたらうれしいと思ったけど、あからさまに月なんて偽名を名乗られてその気持ちも萎え、結局そのままになってしまった。
その月くんが今、こうして私の目の前にいるのだ。
私はためらうことなく、優等生スイッチをオフに切り替え、景気づけにグラスに残ったハイボールを一気に飲みほした。
酔ったふりをして、月くんに支えられるようにして店を出た。
あっちの大通りにでてタクシーを拾うわといって、わざとラブホテルのある道を通り、ホテルの前で歩を止めて淳史くんを見上げた。
彼の目の中に逡巡の色が見えた。ここで考える時間を与えてはいけない。私は強引に彼の腕を引き、ホテルの門をくぐった。
部屋に入ると、私はすぐさま部屋のスペースの大半を占める大きなベッドに上がった。
再び戸惑いを見せる彼を前に、ここまで来て躊躇は無用と、私は眼鏡を外して髪を解いた。
「私に恥をかかせないでね。月くん」
ようやく覚悟を決めた彼は、ベッドに上がるや慣れた手つきで私の服を脱がせ、いつの間にか自らも裸になった。
記憶だけではない。私の身体も月くんを覚えていた。
7年ぶりに身体を重ねた彼はやはり最高だった。私は、あの時と同じように頂上に導かれ、そして果てた。
甘美な余韻に浸りながらベッドに横たわったままの私を横目に、彼はベッドをを下りて、ひとり浴室に向かおうとした。
私は彼の手を取って、おねだりをした。
「ねえ、もう一回、いいでしょ」
ホテルを一歩でたら、私はもう一度、優等生のスイッチをオンにする。
「どうせ明日からは、また普通の上司と部下に戻るんだから」
「本当にそれができますか。小町さん。あなたに」
あれ、小町は月と偽名を使われたときに、私がとっさに名乗った偽名だ。
彼は私のことを覚えていた?
ううん、そんなはずはない。居酒屋で月くんと呼んだとき、彼は本気で驚いていた。
私の身体が彼を覚えていたように、彼の身体も私を覚えていた?
ああ、そうか、7年前も、いく時に、彼の胴を思いっきり足で締めちゃったんだ。彼、本気で苦しがっていたっけ。
「本当にできますか」って、それって私が月くんが欲して我慢できなくなるって意味?
ううん、きっと大丈夫、私はずっとこれでやって来た。明日からは難なくスイッチを入れてみせるわ。
「いいから、もう一回、ね」
私は、上目遣いで彼を見ながら、強引に彼の腕を引いてベッドに誘った。




