破局別離
淳史くんと回数を重ねれば重ねるほど、私の身体は、彼の意のままに反応するようになった。私とて今まで片手ほどの男性経験はあったが、これほどまでに私の身体を満足させてくれる男性は彼が初めてだった。
是非もない。彼は女性の官能の度合いを視覚的に把握できるのだ。
満ち足りた身体を彼に預けながらの寝物語に、私は必ず彼に言って聞かせた。
「いい? 私以外の人としたら、絶対に嫌だからね」
恋人として彼を独占したいという気持ちはあったが、それ以上に、自分はモンスターを育ててしまったという懸念があった。彼がその気になれば、きっと女性は誰でも彼の虜になってしまうだろう。
しかしその一方で、これほど不釣り合いなカップルはないことも十分承知していた。
なにせ17歳と29歳、一回りの年の差、しかも彼は大学受験を控えた高校生、付き合おうと言ってきたのは彼だけど、交際のきっかけは、診療とは言えない、セクハラといわれてもしかたのない人体実験だ。
二人の関係が衆目にさらされる展開となった時、世間が何というかは容易に想像がついた。
淳史くんは、幼い純真さでそんな評判を一笑するだろう。でも大人の私はそんな彼に甘えるわけにはいかない。
さらに私は自分の将来を想像した。
これから先、彼の前にはたくさんの女性との出会いがあるだろう。
彼にとって、私の代わりはいくらでもいるし、一方、私はどんどん歳を取っていく。彼が大学生や社会人になった後もずっとこの関係が続くとは思えないし、結婚というゴールはさらに想像しがたい。
私はもう将来のことを真剣に考えなけれなならない年齢だ。望み薄な彼との未来図に人生を賭けるわけにはいかない。
彼なしでは生きていけなくなる前に、私は決断しなければならなかった。
淳史が高校三年になる直前のタイミングで、彼の大学受験を理由に、私は関係の解消を切り出した。会えば彼を欲していることを見破られるので、会うことも止めた。
当然彼は納得しなかったが、頑なな私に、最後は「遥さんにふさわしい男性になるために第一志望の大学に合格する。それまでは会わない」ということでとりあえずの結論をみた。
早速彼は早々に部活を引退し、自分の持てるすべての力を受験勉強に注ぎ始めた。
聡明な彼のことだ。おそらくは見事第一志望の大学に合格することだろう。そして、改めて私に交際を申し込むことだろう。
でも、今度こそ絶対にYESの返事はしないと、私は心に固く決心をしていた。
かくして一年後、私は、私の決断によって、私が育てたモンスターを野に放つことになった。