自己嫌悪
ひなたちゃんに続き、今回は美和ちゃん回です。
遥さんは、敦ちゃんとの結婚を自ら放棄し、シングルマザーの道を選択した。
自分の年齢のこともあり、結婚という形式にこだわりたくないとの本人の弁だけど、そんなもの、本心であるわけがない。
シェアハウスの状況を勘案しての配慮の結果、とりわけ一人でも生きていける遥さんの、二子神淳史なしでは生きていけない私、山上美和に対する配慮の結果であることは想像に難くない。
もし将来私が敦ちゃんのお嫁さんになれたとしても、それは敦ちゃんと子まで成した遥さんの自己犠牲の上に成り立ったものだ。
そして、にもかかわらず、遥さんの決断を、心から嬉しい、よかったと思ってほっとしている自分がここにいる。
私は、そんな自分が大嫌いになってしまった。
会社の仕事を小休止し、自販機の缶コーヒーでコーヒーブレイクをしていると、大塚陸人さんが声をかけてきた。敦ちゃんと同期入社、社内の友人が少ない敦ちゃんの、一応友達ポジションの同僚だ。
「ご機嫌麗しくないようだね、二子神のやつとうまく行ってないの」
いけない、いけない。ついつい遥さんのことを考えて、「ものや思ふと人の問うまで」それが顔に出てしまっていたようだ。
「俺で良ければ相談に乗るぜ」
周囲に気づかれてしまうほど、鬱屈した気分をため込んでしまうのはよろしくない。
ここは同僚のおことばに甘えて、敦ちゃんやハウスの仲間には話せないことを多少なりともガス抜きさせてもらうことにした。
その日の終業後、私は彼と会社近くの居酒屋に行った。
私が敦ちゃん以外の男性と二人で飲みに行くなんて、初めての経験だ。多少緊張もしていたのだろう、元々それほどお酒が強くない私は、少し急ピッチで飲み過ぎてしまったようだ。
ナマのジョッキを重ねるごとに、警戒心がほどけた私の口から、鬱屈した気持ちがことばとなって出ていく。
「幼馴染ポジションの私が、二子神くんのそばにいるせいで、彼も、彼のまわりの女性も、幸せになれないんです」
「でも、山上さんが意図的にそう仕掛けているわけではないんでしょ」
「だから始末が悪いんです。そうなっちゃうんです。私は彼を不幸にする、重たい女なんれす」
「仮にそうとしても、二子神が自分の意志で山上、、美和さんをそばに置いているんだから、どう考えても二子神のせいでしょ」
「行き場所がないから置いてもらってるんれ、結局、敦ちゃん以外に男がいない私がいけないんれす」
「じゃ、俺が美和姫の男になればいいのかな」
「あはは、冗談はやめてくださいよー」
一人で帰れると言ったけど、陸人くんは、足元がおぼつかない私を家まで送ると言って着いてきた。
少なからず鬱屈したものを吐き出して、私は上機嫌だった。
「明日の土曜日は暇? 前から行きたいと思っていた美術展があるんだけど、一緒にどう?」
「あはは、いいれすねー、行きましょ、行きましょ」
ハウスからすぐそばの川沿いの遊歩道で、歩を止めた陸人くんの唇が私の顔に近づいてきた。
かわそうと思えばかわせたけど、私は彼の唇を受け止めてしまった。
これって、お酒のせい、それとも、、
「美和ちん、あんた何やってんのよ!」
真優ちゃんの怒声が聞こえた。




