呉越同舟(ごえつどうしゅう):仲の悪い者同士や敵味方が、同じ場所や境遇にいること。
「特別に、一緒に淳史の部屋に泊まらせてあげるわ」
ここはかのんちゃんの申し出にありがたく従うことにした。
「かのん、こういうの、初めて!」
かのんちゃんを真ん中に、三人で淳ちゃんのベッドに入る。さすがに狭いけど、彼女はとても嬉しそうだ。
「私、父親の記憶はないし、兄妹もいないし、マミーは仕事で忙しいし、そりゃ家にはお手伝いさんがいるし、学校の友達もたくさんいるけど、夜はいつも一人で寂しかったわ」
「俺がかのんちゃんの弟か妹を作ってあげようか」と敦ちゃん。
本当にやりそうで怖いわ。
「だめよ。淳史はね、私と子どもを作るの」
やはり油断ならないガキだ。
「私はね、子供たちが寂しい思いをしないように、にぎやかな家族を作りたいの。淳史、協力してよね」
「それまでは、俺たちみんなが、かのんちゃんの家族の代わりをしてあげるよ」と敦ちゃん。
「ホント? かのんは、昔からお姉さまが欲しかったのよ」
かのんちゃんは私に方に寝返りを打ち、息がかかるくらいの距離まで顔を近づけてきた。
「ねえ、美和さん、あなたのこと、ねえさまって呼んでいい?」
「うん、もちろんよ」
かのんちゃんが私の腕をつかんで胸に顔を埋めてくる。
「美和ねえさまっ!」
なに、この子、やっぱりかわいいじゃない。
翌朝、私たちはかのんちゃんと一緒に朝食を取った。私の隣で、にぎやかに話しながらトーストを頬張るかのんちゃん。かなりご機嫌の様子だ。
この後は、お迎えの車に乗り込もうとする彼女を、「また来てね」と皆でもみくちゃにして送り出して、それで一見落着、そう思っていた。
ところが、朝食が終わると、かのんちゃんは、打って変わって、凛とした態度でこう言い放った。
「あなたたちの生活を見せてもらったけど、その乱脈ぶりにはあきれるばかりだったわ」
そしてこの爆弾発言だ。
「今後は私がオーナー兼管理人としてここに住みこみ、あなたたちを監督することにします」
「でも、かのんちゃん、部屋はどうする? このハウス、個室が5部屋しかないけど」と敦ちゃん。
元社員寮だったこの建物は、1階はリビング、キッチン、トイレ、浴室、2階に寝室が5部屋という間取りになっている。
「はぁ? 何が悲しくて私とあろうものがこんなぼろ家に住まなきゃならないのよ」
数日後、ハウスの隣の高級マンションにかのんちゃんが引っ越してきた。




