社長令嬢
私、山上美和は、一年遅れで幼馴染の二子神淳史と同じコンサル会社に就職した。新入社員ながら残業や接待もこなし、仕事はそこそこ忙しい。
一方で、マイペースの淳ちゃんは、いつも7時には帰宅し、夜はせっせとシェアハウスの女性のお相手をこなしている。
部署が違うので詳しい事情は分からないが、「よく毎日あんなに早く仕事を終われるな」と思ってはいた。
とある金曜日の夜、若手社員だけの社内の懇親会があり、立食形式のパーティに二十台代の男女社員約50名が出席した。ちなみに敦ちゃんはこの日も欠席である。
「営業一課の二子神、今日も来てないな。あいつ、こういう会にちっとも顔を出さないな」
「残業もしないで、いつもさっさと帰るしな」
私のそばのテーブルで淳ちゃんの話が始まったので、さりげなくテーブルを移動し、聞き耳を立てた。
「笹塚家具の女社長が彼をお気に入りで、やつを専属の担当者に指名したらしいよ」
大手家具チェーンの笹塚家具はうちの会社の最大顧客だ。業界でも有名な笹塚由美子社長の積極経営で、近年業績を急伸させている。
笹塚社長は、東大を卒業後大手総合商社に就職、米国で経営学修士≪MBA≫を取得した後、業績低迷していた家業を継いで社長に就任した。米国留学時、恋人との間に一人娘をもうけたシングルマザーでもある。
「セックスがめちゃ上手いらしいから、空閨の女社長に枕営業でもしかけたんじゃね?」
「いや、ハーフの一人娘が彼にご執心だという噂だよ。創立記念パーティで娘をお披露目したときに、二子神がそのお嬢様をエスコートしたんだけど、まるで婚約披露パーティみたいな演出だったらしいよ」
「あ、山上さん、そういえば山上さんは二子神とは同じ大学で、学部も一緒だったよね」
聞き役に回っていた私に、突然話題が振られた。
「はい、私は一浪したので入社年次は一級下ですが、同い年の幼馴染で、学校も幼稚園からずっと同級生でした」
正直に答えると、テーブルに気まずい沈黙が流れた。
「で、でも、まさかお付き合いとかはしてないよね」
「いえ、大学一年の時にお付き合いを始めて、今は一緒に住んでいます」
気まずいのを通り越して、周囲の雰囲気が氷点下に凍りついた。
翌日の晩、私の部屋を訪れた淳史に、パーティでの噂話をぶつけてみた。
「敦ちゃんって、あの笹塚家具の担当専任なの? それ以外の仕事はしてないの?」
「そうだよ、それ以外は一切しなくてよいことになってるんだ」
私の服を脱がせながら、敦ちゃんが答える。
「女社長さんに、随分と評価されているみたいじゃない?」
「うん、由美子さんには、就業時間外は、将来の自分への投資のつもりで自己啓発に使いなさいって言われている」
大社長を由美子さん呼ばわりかよ。それに、このシェアハウスのどの辺が自己啓発なんだよ。
「仕事以外もお世話になってて、この家も、彼女の会社が社員寮に使っていた建物を融通してもらったんだ」
この家もかよ。入社二年目の分際で、どんだけ信頼されてるんだ!
「笹塚社長とはああっ、男女の関係、だったりとかははうっ、しないよねっ」
「まさか、あの忙しい大社長さんと、そんなわけないじゃん」
私の敏感な部分を攻めながら、敦ちゃんが私の質問を一笑に付した。
「娘さんとも、仲がいい、いいっ、ようだけどっ」
「ああ、かのんちゃん? うん、私のお婿さんになってねって言われているよ」
こっちが本命か!
「今週末にかのんちゃんがここへ来るんだ。ここの大家さんだから、みんなも挨拶してね」
大家さん? 大家さんって、どういうこと?
敦ちゃんの攻めに頭の中が真っ白になって、もう以上の質問は出来なくなってしまった私だった。




