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仰天診断

「あなたの診察を担当する、心療内科医の冴島さえじまです。よろしくね」

 私は眼科医の紹介状を持ってクリニックに訪れた男子高校生に自己紹介をした。


 それにしても、私のクリニックに不登校、引きこもり以外の高校生の患者とは珍しい。なんでも女性の周囲に変なものが見えるようになったとか。

 かなり緊張した様子の二子神淳史くんに、私は気さくに語りかけた。

「ずいぶんと背が高いけど、高校では何か部活に入っているのかな」

 

 バレー部の主将で、ポジションはアウトサイドヒッター、エースだそうだ。なるほど背も高いし、細身だけどしっかり筋肉がついていることがTシャツの上からもわかる。加えて顔もなかなかに良い。さぞかし学校では女子に人気があることだろう。

 

 彼から症状についての説明を受けた。女性の周りにピンクの霧が見えるなどど、そんな症例は寡聞にして聞いたことがない。

 

 いつから発症したのか、きっかけになった原因に思い当たることはと聞くと、彼は戸惑いながらも痴漢冤罪事件の顛末を語った。心当たりはそれしかないとのことだった。


「心療内科って、カウンセリングをしてその心因を探るみたいなイメージがあるけど、基本は内科と一緒で、症状を聞いて、それにあった薬を処方するの。でも、君のその症状、私が知る限り前例がない。だから薬を処方しようがないの」


 特に生活に支障が出ているわけではないので、とりあえず一か月様子を見て、改善しない時は別のアプローチを考えるということで、その日の診療を終了した。


 案の定、彼の症状は一か月後も改善しなかった。

 再びクリニックを訪れた彼から、私はこの一か月間の症状を詳しくヒアリングした。

 

 ピンクの霧はすべての女性に見えるわけではないとのこと。それではどんな時に、どんな女性に見えるのか、ヒアリングを進めていくうちに、あまりに荒唐無稽で信じ難いことではあるけれど、一つの仮説が浮かんだ。


「ところで、私はどう? 私の周りには何か見えるかな?」

「あれ、少しだけオーラが見えるような気がします、先生」


 私は、この青年に、個人的な興味を感じ始めていた。


「可能性の一つとして、個人的に試してみたいことがあるのだけど、いいかな」

 それは、治療ではなく、彼の経験した痴漢事件よりもさらに大胆な手法を用いる臨床試験であり、私自ら実験体となる人体実験でもあった。


 そんなこととは知るよしもない淳史くんに、私は、自宅マンションの住所と電話番号を渡し、今週末の土曜日の午後四時に来てくれるように告げた。


「はい、よろしくお願いします、先生」

「ここから先は診療じゃなくて個人的な臨床実験、だから私のことは、先生じゃなくって名前で呼んでね」

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