表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第3話

 翌日、軍医の紹介を受けた私は一人で廃墟を訪れていた。

 ここに件の部隊がいるというのだ。


 人の気配のない寂れた街並みを彷徨うこと暫し。

 私は大きな倉庫を発見した。

 入り口には黒いドッグタグが何十個もぶら下がっている。

 軍医から貰ったのと同じ物である。

 おそらく目印だろう。


 私は緊張しながら倉庫の入り口をノックする。

 現れたのは眼帯を着けた中年の男だった。

 軍服を着崩したその男は、無気力な表情で私を見てくる。

 私が自前の黒いドッグタグを見せると、彼は気だるげに口を開いた。


「スゥレイだ。階級は聞くな。ここでは何の意味もない」


「ライダン・クエルです」


「知ってる。魔術の英雄様だろ……元を付けた方がいいか」


「ご自由にどうぞ」


 痛烈な皮肉に私は苦々しく応じる。

 ここまで真正面から言われるのは初めてだった。

 男——スゥレイの表情を見るに悪気はないようだが、その言葉は胸に重く圧し掛かる。


 スゥレイは私を倉庫内に招いた。

 狭い廊下を歩きながら彼は私に確認する。


「セカンドライフについてどこまで聞いてる?」


「いえ、何も。行けば分かると言われました」


「そうかそうか。じゃあ案内ついでに説明してやるよ」


 スゥレイは片手に酒瓶を持っていた。

 中身を軽く呷ると、彼は楽しそうに喋り出す。


「この部隊がセカンドライフって呼ばれる由来は何だと思う?」


「分かりません」


「戦えない負傷兵に第二の命を与えるからだ。噂で聞いたことないか?」


「最新の魔術兵器で戦う特殊部隊がいるという話は……」


「おっ、それだそれ。セカンドライフは魔術兵器を扱う部隊なんだ」


 しまった、と私は思った。

 魔術兵器とは機械に埋め込んだ術式を己の魔力で起動する兵器のことである。

 つまり使用者の魔力に依存しており、傷のせいで魔力を生み出せない私には無縁と言える。

 そのことを伝えようとした時、スゥレイが廊下の先の扉を開ける。


 扉の先には広々とした空間が広がっていた。

 床一面に並べられているのは例の魔術兵器だろうか。

 金属の大きな球体に手足が付いた代物である。

 球体の大半は蓋が開いており、中に設置された椅子が見えていた。

 人間が乗り込むための兵器のようだ。


 気になるのは、どの兵器も血で汚れている点である。

 目立つ破損も多く、新品は一つもなさそうだった。

 中には正常に動くか怪しいほど壊れている物も放置されていた。


 スゥレイは球体の兵器を指し示して説明する。


「上層部は鎮魂歌レクイエムと呼んでいる。とてつもない力を持つが、使うと必ず死ぬ魔術兵器だ」


「必ず死ぬ……?」


「構造的な欠陥でな。人間が耐えられる設計じゃねえんだ」


 スゥレイが眼帯の上から目を擦る。

 彼は欠伸をしながら近くの兵器——レクイエムに歩み寄った。


「まずレクイエムと魂を繋げる。すると、燃料タンクから管を通じて魔獣の血が注入される。魔獣の血の作用により、パイロットは爆発的な力を得る」


 球体の内側からは無数の管が生えていた。

 それらをパイロットに繋げるのだろう。


「魂を繋げたことで、レクイエムは本当の肉体のように操縦できる。単純な出力で言えば、健康な頃のお前さんも凌駕するぜ」


「ただし魔獣の血を取り込んだ反動で命を落とすのですね」


「まっ、そういうことだ。技術者は魂への過負荷だとか言ってたな。自分の持つ魔力と反発するらしい」


 一連の説明を聞いた私はレクイエムの製作意図に気付く。

 すぐさまそれを指摘した。


「負傷兵を合理的に消費する実験部隊。それがセカンドライフの正体ですか」


「大正解。生還者はゼロだが、お偉いさんは満足らしい。戦闘データを収集して、リスクのない改良型レクイエムを造るのが目標だそうだ。"動く棺桶"に熱中しすぎと思わないかい?」


 冷めた目で笑うスゥレイに、私は何も答えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ