第2話
私の傷を見た軍医は、開口一番に結論を述べた。
「魂が破損していますね。これでは魔力を生み出せません」
予想外の宣告に私は固まる。
なんとか我に返ると、恐る恐る詳細を尋ねた。
「あの、それは一体……」
「魂が魔力の発生源であることはご存じで?」
「ええ、もちろん。魔術師として最初に学ぶことですから」
「では言っていることは理解できますね。今のあなたは魔力を分泌できない身体です。魔術師として致命的な障害を負いました」
淡々とした説明が私を押し潰そうとしてくる。
膨らむ絶望を辛うじて耐え、私は縋るように質問をした。
「あの、どうにか治せませんか」
「無理ですね。前例のない状態です。狙撃に使われた弾が特殊だったのでしょう」
「そんな……」
「二週間前、運ばれてきたあなたは瀕死でした。生きているだけでも幸運と思ってください」
励まされても元気は出ない。
優れた魔力量は私の長所であり、兵士としてこの上ない才能だった。
常人とは比較にならない魔力があったからこそ、国内有数の魔術師になることができたのだ。
数々の戦いにおいて勝利をもたらし、英雄と呼ばれるに至ったのである。
私は椅子から転がり落ちながらも軍医に懇願した。
「お願いです、私は国のために戦いたいのです」
「頼まれて治せる傷ではないんですよ。落ち着いてください」
軍医に掴まれて椅子に座らされる。
全身から力が抜けてずり落ちそうだった。
「ライダン・クエル少佐。あなたのような英雄を失うのはとても辛い。でもこれは紛れもない現実だ。受け止めてくれ」
「……無理ですよ。私は帝国を根絶やしにしなければなりません」
「あなたの足掻きで帝国軍は後退した。猶予は延びたんだ。それで十分じゃないか」
「違う。私は死ぬまで兵士だ! こんな所で立ち止まるわけにはいかない!」
私は立ち上がって叫ぶ。
何度か瞬きした後、軍医は冷静に提案した。
「歩兵としてやり直せばいいのでは?」
「私は魔術師として訓練を受けてきた。今になって転向しても、何もできず戦死するでしょう」
「では爆弾を括り付けて突撃するのは」
「他に策が無ければ実行します」
私は淀みなく断言する。
軍医は暫し黙り込んでこちらを観察する。
やがて私が本気だと悟ったのか、大きくため息を吐いた。
彼は意味深な目で懐を探る。
「あなたにちょうどいい部隊があります。そこに移籍すれば、名誉ある死を迎えられるでしょう」
差し出されたのは黒いドッグタグだった。
それを私に押し付けた軍医は、表面に刻まれた部隊名を読む。
「——第002特戦部隊。通称セカンドライフです」