第1話
帝国軍が迫る。
彼らは無数の結界を盾に着々と前進してくる。
手にはライフル銃か魔術の杖を携えていた。
一部、剣や斧を担ぐ者は、身体強化に自信がある兵士だろう。
接近戦における最たる脅威はそういった原始的な戦法を好む人種なのだ。
一方、我らが王国軍は疲弊し、向こうの半分ほどの数しかいない。
幾度もの衝突で夥しい数の戦死者が出たせいだ。
途中までは死霊術で兵士の数を誤魔化していたが、術者が撃ち殺されたことで差が余計に広がってしまった。
指揮官クラスのほとんどが殺されたので士気も落ち切っている。
総じて劣勢……否、全滅の危機に陥っていた。
次の交戦で何らかの手を打てなければ今度こそ終わりだろう。
私は味方の王国兵を見やる。
誰もが絶望し、思考を停止させていた。
圧倒的な戦力差を前に奮い立つこともできず、ただ死を待つだけとなっている。
(私がやるしかない)
本来は撤退用だったが、ここまで温存してきた魔力を使うしかない。
逃げたところで帝国軍は追ってくるのだ。
ここで少しでも叩いておくべきだろう。
私は最前線へ飛び出すと、空中を蹴って上昇する。
帝国軍を一望できる位置に移動し、彼らを魔術の射程に捉えた。
そして術式を組み上げる。
「弾け飛べ」
純粋な魔力の衝撃波を飛ばす。
大地を抉る威力が帝国軍に襲いかかった。
射程内にいた帝国兵は鎧ごと潰されて無惨に即死する。
迸る鮮血が大地を赤黒く染めた。
生き残った者は大騒ぎだった。
私を指差し、大急ぎで反撃を行おうとしている。
それを防ぐため、私は新たな術を解き放つ。
「沈み腐れ」
帝国軍の足元が沼に変化した。
彼らは動きを封じられて混乱し、或いは転倒する。
ほどなくして、沼に込めた呪力が彼らを蝕んで昏倒させていった。
意識を失った者は生きたまま肉体が腐って絶命する。
帝国軍の反撃を挫いたところで、私は仕上げの魔術に取り掛かる。
「燃え朽ちろ」
手から紅蓮の炎を放とうとしたその時、一発の銃声が鳴り響く。
私は目を見開いて止まった。
胸に、穴が開いている。
そこから血が溢れ出した。
狙撃だ。
上空からの魔術攻撃に晒される中、冷静に私を撃ち抜いてきた者がいるのだ。
私はあえなく墜落する。
あと一歩のところでしくじった。
その事実を深く後悔しながら意識を失った。