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前編

 ティアネルは嘲笑し婚約者を取られた無様な私を見下し嗤う。

 しかしそれは彼女だけでは無かった。

 ティアネルの背後に付いて後ろ盾になっている母もまた同じ。

 正確には母方の人間だが、たびたびティアネルから向けられる視線の先、そこには母たちの姿があった。


 母は大いに喜んでいた。

 親としてこの姉妹の争いを止めることはない。

 姉の婚約者が妹と結ばれたとしても関係ない。

 私よりもティアネルに期待し、自らが望んでいた結果通りに事が動いて彼らは満足そうにしていた。


「——お母様…………」


 瞳に映った母親の姿に、私はいたたまれない気持ちになる。

 あの人たちはもう私に期待など微塵もしていない。

 私の身体にある傷を有してから態度は一変した。


 ——アリサはもう使い物にならんな! 傷物の女など嫁がせることもできん!


 かつての母と祖母の会話。

 失意というよりは怒気を孕んでいた。思惑が外れ役に立たなくなった私に対しての憤りからの一言だった。

 そして彼らにとっては念願だったのだろう。

 私ではなくティアネルが日の目を見始めたのだから。


「そういうことだ! 残念だったなぁアリサ! お前は罪人でもあるのだ! 実の妹のティアネルに対し、お前は毎日のように肉体的にも精神的にも苦痛を与えていた!」


「——そ、そんなわけ……!」


 落胆の色を隠せずにいた私に対して、ビルケスは息巻いた。

 ティアネルもそれに乗っかり同調を繰り返す。

 喧嘩両成敗と行かずとも、この醜い争いを止めることのない母親。

 家族という概念が形骸化しているに過ぎない。

 イリーシュ家はもうすでに終わっていたのだ。


 私たち姉妹が対立しているのと同じように、それは両親もだった。

 権力闘争——互いの主義主張が合致せず、やがて両者は相容れない存在同士になっていた。


 私たち姉妹は両親に利用されているに過ぎない。

 どちらが婚約者を手にするか、というあまりに身勝手な話でね。

 ティアネルも恐らくは感じ取っているはず、だけど彼女は違う。

 本気で私を追い落とそうと躍起に見える。

 母から何を吹き込まれたのかは知らないけど、ティアネルの目は他を追い落としてでも這い上がる本気の目をしていた。


「——お父様……やはり、私は利用されていただけなのですね…………」


 母は手負いの私ではなく将来性のある妹、貧乏くじを引かされた父はなし崩し的に私を選ばざるを得なかったのだろう。

 だから父は私になんか一切期待していない。

 私ならティアネルに勝てると、本気で思っていたかというと恐らく否だろう。

 父はすでにこうなることを予期していたのか、権力闘争に使えないと判断し私を見捨てて会場には来ていなかった。



 あ、アリサ様——と同期や後輩の中には私への心配や同情の声、横暴であると嘆く者もいた。

 式典の参加者には申し訳ない気持ちで胸が痛む。

 彼らにとっても同じく祝いの席、ビルケスたちの勝手な都合で台無しにされてしまったのだから。


「ビルケス様! 此度の一件まことでございますか?」


「なんだ? セバス騒々しいぞ」


 会場の端で控えていた白髪の男が前へと出てくる。

 名はセバスチャン。

 長年ドルッティ家に仕える執事であり、優秀な懐刀であると聞いている。


「なんだ、ではございません。アリサ様との婚約を破棄されるというのは本気でございますか?」


「本気も本気、ちょー本気だ! 私が愛するのはアリサではなく、ティアネルしかあり得ない」


 固い意思の元、ビルケスは力強く断言した。

 作用にございますか、ポツリとそう一言呟くセバスチャン殿。

 しばらく会場内が静寂に包まれる。

 彼は何か考えるような仕草を見せ、一つ息を吐いてから結論を告げた。


「それではイリーシュ家との婚約そのものも無かったことに致しましょう」


「「「は、はぁっ!?」」」


 私及び、ティアネルやビルケスも想定外の事態に声を荒げていた。

 会場の遠くの方からも聞き覚えのある、悲鳴に近い驚嘆の声が聞こえて来た。

 恐らく母も私たちと同じように驚いていたのだろう。


「旦那様からのお話ではアリサ様と破談となれば、イリーシュ家との婚約そのものは無かったことにするとおっしゃられておりましたので」


「ど、どういうことだセバス! イリーシュ家との縁談が進めば何も問題無かろう!」


「私にも真意は分かりかねますが、旦那様が事の顛末を知ればさぞお嘆きになられるでしょうね」


「ふざけるなっ! そんな話聞いていない!」


 ビルケスは声を荒げた。

 彼の乱心に場内もざわつき始めていたが、それらに反し思わぬ状況に呆然とする者も——ティアネルだった。


「アリサであれば縁談自体は何も問題なく円滑に進む。ティアネルには気の毒だけれど良かったわねアリサ」


 ドルッティ殿も物好きねと、いつの間にか母はティアネルを見捨てて私に乗り換えようとしていた。

 物好きなのには同意だけど、私の肩を叩いて期待を寄せる母の性根の腐り具合には虫唾が走る。


「セバスの言う通りだ。アリサとの結婚が叶わぬのならこの話は無しだ」


 そう告げたのはドルッティ家の現当主——ビルケスやグレイスの父上でありこの学院の長。

 今まで姿が見えなかったけど、どこかでこの状況を静観していたようだ。

 そして何故かその隣には私の父も一緒にいた。

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