プロローグ
プロローグ+前・中・後編の4話構成。
王立魔導学院卒業の日。
めでたい晴れ舞台。
我が子の晴れ姿をこの目に焼き付けようと多数の保護者が足を運び、最後の余興を各々楽しんでいる最中。
名門と呼ばれるこの学院は、名家の出身が多くそのほとんどが貴族だ。
上流階級の者が多く集う卒業パーティーにおいて、周囲を騒然とさせる出来事が突如降って湧いた。
「アリサ、お前との関係も今日で最後だ。お前とは婚約しない。破棄させてもらう!」
壇上へとあがり、挨拶もそこそこに彼は宣言した。
血相を変え私は急いで彼の元へと駆け寄る。
「ビルケス様! り、理由を! お聞かせ頂いても——」
「理由など! 言わずもがなであろう?」
語気を強め、言葉を全て発する前に遮られてしまった。
婚約者であるビルケス・ドルッティは胸の内を打ち明け、清々したとばかりに満足げな面持ちで余韻浸っている。
伯爵の地位を有するドルッティ家の次期当主でありご子息様。
子爵令嬢である私に対して軽蔑の眼差しを送り、公の場で主導権を握るこの状況に楽しみ悦に浸っていた。
本来、婚約破棄は裏で内密に行うもの。
理由は至って簡単だ。双方の家の名に傷がつく恐れがあるから。
だからビルケスの行動は、あまりに身勝手なもの他ならない。
現にこの場にいる人たちは、突然の出来事に動揺していた。
彼のお仲間である一部の連中を除いて。
余興のつもりなのか、ビルケスと同じくヘラヘラと笑みを浮かべている。
「お前のような傷に塗れた女は要らない。私はティアネル選ぶぞ!」
「あ、兄上! 正気ですか! それはいくら何でも横暴すぎやしませんか!」
心配そうな面持ちでグレイスが前へと出た。
歳の離れたビルケスの弟のあたる存在だ。まだ幼い印象は拭えない。
普段からあまり前に出る性格ではないと思っていたのだが。
彼も大事になりつつあるこの状況に危機感を覚えていたのだろう。
「心配するなグレイス。私に全て任せておれば良い!」
グレイスの不安を一蹴し、ビルケスは一人の女性を壇上へと呼び寄せる。
その相手は私にも見覚えのある人物だった。
「紹介しよう! 彼女が私の新たな婚約者——イリーシュ家令嬢ティアネルだ!」
ビルケスに手を引かれ、ティアネルは壇上へと上がった。
「——ティアネル……」
「フフッ、お姉様! ——ビルケス様は私が貰いますねッ!」
勝ち誇った顔をする妹の姿がそこにはあった。