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爺や

 爺や、と呼ばれているが、彼の外見はそれほど年を召したものは感じられない。

 背丈はハイエルフ族の成人として平均的で、容姿は秀麗。黙ってハープを奏でていれば、その姿はまさに幻の種族としての美を存分に体現している。

 しかしながら、つり気味の眉に、普段から「裏」を感じさせるような細い糸目が何かしらの策謀を抱いているようにも感じられ、初見にはどこか意地の悪そうな人物だろうかと怪訝がられる雰囲気がある。

 長い髪はまばらに長く、後ろでふたつに分けて無造作に結わえているだけ。

 身だしなみにそれほど興味がないのか、くすんだ空の色のような髪には艶やかさがない。

 大人たちは総じて肌を露出しない長衣を着ていて、その渋色が彼にあまりにも落ち着いた雰囲気を与えているような気もするが、ヒトの感覚でいえばまだ二〇代の後半くらいだろうと思われる。

 だが――事実として彼にはどこか老熟さがあり、周囲の大人たちよりも永い時間を過ごしている。


 ――そう。


 ハイエルフ族の見た目は、まったくとして実年齢に比例していないのだ。

 彼が「爺や」と呼ばれるのは、いま、彼のとなりに座る少年……白の皇帝の世話をしながら作法や遊び、歌や楽器を学ばせ、世界の統治とは、と教えを与え、導く教育係のような立ち位置にあるのが所以だ。

 もともと彼には彼固有の名前もあったが、それで呼ばれていた記憶はとうの彼方。彼は先代の白の皇帝時代の末世には、すでにこの城への登城を許されていた。


「ねぇ、爺や。竜の神さまの始まりのお話をして?」


 白の皇帝は、何となく爺やが手にしていたハープの絃を指先で弾いていたのを止め、顔を上げる。

 細い糸目が特徴の爺やと比べ、何もかも興味が湧いて尽きない白の皇帝の少年特有の大きな瞳はさらに大きく見えて、湖水の水面が煌めいているようだった。


「――竜の神さま……、ああ、(りゅう)五神(ごしん)の話でいいのかな?」


 爺やに問われると、白の皇帝は何度も大きくうなずく。


「うん! 竜の五神! どうやってお生まれになられて、どうやって俺たちの世界をお創りになられたのか。俺、その話を聞いて、今日は寝たいの」

「おやおや、聞かなければ寝ないつもりでいたのかい?」

「ちがうよ、最初からお話を聞きながら寝ようって決めていたんだから」


 白の皇帝はくすくすと笑う。

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