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白の皇帝

 ――(しろ)皇帝(こうてい)


 その名がどのようにして誕生したのかは、もう定かではない。

 諸説はあるが、ハイエルフ族が最初に一族の長を迎えたとき、「初代」が最初からそう自らを名乗ったので、以降は一族の長であり、世界最高峰の位を冠する存在を「白の皇帝」と呼ぶようになったという。

 白、というのはハイエルフ族特有の肌の白さや、彼らの持つ気配があまりにも清涼で静寂を好むから、それらが総じて白のように見えるので、そうと。

 皇帝、はまさに世界のすべてを統治する存在にふさわしい位であるというので、そうと。

 そう言われている。

 けれどもそれは、あくまでも名称であって、彼らはヒトとは異なり、基本的に立場や地位、序列などに重きを置かない。

 その存在はどこまでも自然の静寂さが具現化したように優美で、自然とはつねに一体化であると考えているので、もっとも敬愛すべきものは自然。この世界のすべてに恵みを与えくださる自然を何よりも尊び、つねに感謝の念を抱いている。

 自然とは、この世界を創世し、自分たちハイエルフ族にとっては久遠の《祖》である竜族のことで、竜族は「神」という存在。


 ――その自然と同義語、あるいは同一視なのが、彼らの長・白の皇帝。


 それほどハイエルフ族たちにとって自然は尊崇の対象で、白の皇帝も同等の存在なのであった。


 ――そして、その名を冠する者は世襲ではない。


 ハイエルフ族の誕生は、例外なくいくつかの自然の融和によって生まれ、最初、その姿は光の珠をしている。

 融和にもいくつかの種類があって、「森と風」「水と豊穣」いった何かしらの属性を持ち、それらはすべて竜族が世界の自然エネルギーに配した、《空》、《水》、《風》、《火》、《地》、この五つの元素が基盤となっている。

 そのなかでも白の皇帝となる存在には条件があり、その名にふさわしき融和を持ち、初代の白の皇帝が誕生したと言われているホーデン湖から誕生することだと言われている。

 誕生というからには、ひとりで永久に玉座となるわけではなく、あまりにも長き寿命も尽きて、自身が持つもっとも近しい自然へと返り、つぎに玉座にふさわしい光の珠が誕生しなければ空位となる。


 ――いま。


 爺やを探して城内を軽やかに走る水色の髪の少年が、生まれながらにして白の皇帝を冠するまで、空位は長くつづいた。


 ――それもあって、ハイエルフ族たちはようやく誕生したあの少年が愛しくてたまらない。


 とくに彼は、「光と水に祝福されし、至高の存在」として誕生した。

 ホーデン湖の湖畔で、永くつぎなる白の皇帝の誕生を願って歌を歌いつづけていた声にようやく応じた光の珠。それが湖面に浮かんだ瞬間、世界のすべてが待ち望んでいたぞと言わんばかりの歓喜に震え、大気も大地もすべてが祝福に鳴動した。


 ――そして。


 ハイエルフ族ではない「何か」……あまりにも荘厳で慈愛に満ち溢れた「何か」が湖から現れ、


「……この子を、頼む」


 そう言って、両の手で大切に光の珠を包み、最愛の子どもを育ててほしいといったようすで微笑み、ハイエルフ族に託したのだ。

 一見は自分たちと似たような姿形だったが、耳は尖っていたが短く、背丈は遥かに大きかった。髪は長く美しい湖水の色、容姿は……。

 もしかすると、あれが竜族――「神」なのだろうか。

 尊き存在から直截賜った、一族の長。

 そのような誕生の儀は、誰も見たことも聞いたこともなかっただけに、いまの白の皇帝は何もかもが特別で、何よりも尊かった。


――それだけの生まれがあるにもかかわらず、本人にその自覚はない。


 少年はつい先ごろまで光の珠の姿で大人たちに育てられ、ようやく人化を成して、まだ間もない。

 光の珠のころは、ヒトでいうと赤ん坊のような感覚なので、そのころの記憶はまったくない。

 それだけに、目に映るものは何にでも興味が湧き、すべてが楽しくてならなかった。

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