爺やを探そう
「――爺や、爺やっ!」
それまで幻想的に美しく静寂だった城内に、高く澄んだ子どもの……ハイエルフ族の少年の声が響きはじめた。
「爺や、どこ?」
城内はすでに夜の色に染まっていたが、灯りは最低限で充分だったし、軽やかな足取りの素足には光の精霊たちが遊ぶようについてきているので、少年は灯りを伴って走っているようにも見受けられた。
切りそろえていない髪はまばらだが、腰まで隠れる長いそれは空の色とも湖水の色ともとれる水色で、大きな瞳もおなじ色をしていた。ほっそりとした痩身で、丈の短い衣装から伸びる手足はしなやか。
容姿も美貌に優れた一族のなかでも群を抜き、外見の年は一三か、そこら。
精彩も年ごろらしく富んだものがあり、
「爺や、どこにいるのっ?」
静寂な城内で声を上げていても、物静かが本性の一族のなかにあって異質には感じられない。
城内には多くはないが、すくなくもない大人たちの姿もあって、誰かを走りながら探しているようすの少年を見て、愛らしいと微笑んでいる。
少年は、たとえ全力で走ろうと、その美しさから軽やかに舞っているようにしか感じられない。
「ねぇ、爺やを見なかった?」
少年はときおり、すれちがう大人たちに声をかけるが、大人たちはみな、
「さぁ、どこでしょうねぇ」
「あの方はよく、ハープを奏でておりますから」
などと言って、少年が探す相手がどこにいるのか知らないようすで答える。
問うても答えられない大人たちに、
「えぇ~」
と、少年は少々不満げな声を漏らすが、ほんとうにそう思っているわけではない。ありがとう、と言って手を振りながら、少年は光の精霊たちを自由に纏わせながら、またどこかへと駆っていく。その足取りは、ほんとうに軽やかだった。
大人たちは遠ざかる少年の後ろ姿を見ながら、くすくすと笑ってしまう。
「――ほんとうに、白の皇帝ときたら。何て愛らしいのでしょう」
「これまで長く光の珠でいらっしゃったから、人化に変ずることができて、何もかもが興味に溢れておいでなのでしょうね」
本音を言えば、大人たちは少年が探している相手がどこにいるのかを知っている。
知っているのだから、そこにいる、と教えてあげるのがいちばんの解決策だ。
――けれども、すぐに教えてしまうと、少年が「つまらない」というのだ。
すぐに相手が見つかっては、探す楽しみがなくなってしまう。
城内をこんなふうに歩く――正確には舞うように駆っているが――ことができないのはつまらないから、知っていても教えないで。
少年は前にそんなことを言って、探すのも遊びのうちだと言ったので、大人たちは知っていても教えることがない。
少年はこの世界において他に並びのない尊き存在であるのだが、誰もが彼の誕生から知っているため、自然と自分たちの子どものように接してしまうのだ。
しかしながら、彼に対しての最敬愛は誰ひとり忘れてはいない。
「爺やもわかっていて、あえて見つけにくいところに行くんですから」
「意地悪なのか、探してもらうのが嬉しくてたまらないのか」
「そのどちらもでしょうね。あの方が白の皇帝をお育てになられたのですから」
口々に言って、大人たちは姿の見えなくなった少年――白の皇帝に向かって深く一礼する。