2仕事目 神授業
メイド「起きてください。ご主人様。起きなかったらこのまま襲い…」
ベッドに入り込んで這い寄ってくるメイドを布団と一緒に蹴飛ばす。
前世じゃ出来なかったことだが、この天界では序列?がステータスになるとの事。
私は最下位神のはずなのに、ステータスが飛び抜けて高かった。なんなら父?より高かった。何故だ。
まぁそんなどうでもいい事柄はどうでもいい。この力は大して使う場面などないのだから。もう使ってる?そこ、シャラップ。
天界にきて、もう2週間くらいはたった気がする。
いや、ここにそんな概念は無いのだが。
ベッドも執務室も、星と私の認識によって形作られている。
星を操り認識通りに家具などを生成する。
この間仕事をした時の書類も、私が分かりやすいよう星で生成された書類を使っていた。
星には情報を記録することも出来れば、情報を具現化することも出来る。まぁ、使い勝手のいい、USBデータってことだ。
うん?万能材料かな。大体この星で出来ないことはないってことだ。魔法世界で言うところのマナ?に当たるのかもしれない
ご主人様「そろそろほかの仕事も欲しいかな。手持ち無沙汰。」
ゲームは前世で飽きた。楽しいと思えないものをやり続けても虚無感が募るだけだったし、同じことの繰り返しは飽きる。
やりこむほどの根気はないが、放置ゲーで最高効率を出そうと躍起になることはあった。
ただ、一つだけやる理由があるとすれば、それは人を知れる時だ。つまりは、仕事!
前世では仕事好きだった。仕事好きで人間好き。
一見社会不適合者にはならない組み合わせだが、「人間関係」は耐えられぬほど嫌いなため、ドン底まで落ちていった。
そもそもだ。モルモットやネズミといった生物は管理下に置かれた上で反応などを観察している。
ケージから出した上で噛まれ致命傷を負うリスクがある上で観察しようなんて人の方がおかしいのである。
つまりは。私のIQは。周りの人より20低いか高いのである。
まぁそんな相互理解力がないことに言い訳をつける作業は置いて置いて。
仕事だ。
多くの場合、人と連携をとって密接によいものを作るというのが現代社会として成り立っている。
だが、メイドが持ってくる仕事はほとんどが「情報」がまとめられ、これとこれとこれに判断材料があると提示してくれる。
私に調査の心得はない。じっくり見る私はちゃっかり見る探偵とは合わないのだ。
仕事として私の自己判断を信じないなんて選択肢は無いのだろうか。横暴な態度を取り、勝手に消して、私は恨まれてはいないのだろうか。それとも、私は誰かを消す立場になり、漸く私なりに正しい道を歩めるのだと、その下に積み重なる死体を踏みつけるのだろうか。
あぁ、よくない。
メイド「…では、却下した神との面談などがございますが。」
ご主人様「……クソザコメンタルの私に殺されにいけと?」
メイド「ご主人様の仕事に『反射神経に頼った仕事を行う者の始末』は含まれておりません」
ご主人様「…感情的に行動した時点で神失格ってこと?」
メイド「えぇ、どこかで現人神でもやってるかと。」
ご主人様「うーん、神視点で感情的ってどこら辺が感情的に含まれるの?」
メイド「…そうですね。仕事の前に授業をしておいた方がいいかもしれません。」
そう言うと、ホワイトボードと座椅子、何故か金平糖を渡され、授業の体制が整った。
メイド「まず神としての常識と呼ばれるところから。」
ご主人様「はい、まず神とは何ですか。」
メイド「概ね人間の空想の具現化と相違ありませんが、地球に人間がいない時代にも、世界が作られる前からも既に神は存在していました。
種族としては各世界を創り、管理し、世界残量を増やし、また、必要に応じて…要は社長や課長などの管理職です。」
ご主人様「なるほど。
私に神の廃棄の仕事が回ってきてるのはなんで?」
メイド「ご主人様が不機嫌になることなのでお答えできません。」
ご主人様「上が品格がー!とかそういうものか。」
メイド「そういうものです。」
ご主人様「でも、確かに善良、不幸だという人間の尺度を「優遇」「可哀想」って神が見下すのは間違ってるよね。」
いえ、正確には上は下の神がつけ上がらないよう保守にまわってるだけです。
とりあえず仕事への不満は無い、な。
ご主人様「次の質問。現実で人間が神と呼んでたものはなんなの?」
メイド「精霊神…あるいは、単なる偶像ですね。
八百万の神や天照大御神は精霊神に当たります。個々がやりたい事をやって、それを纏める係の神もいます。まぁ、纏めるというより相談役みたいなものですが。」
ご主人様「じゃあ空想で作り出された神も精霊神に部類されるの?」
メイド「はい。ただ、精霊神の数が増える分にはいいのですが、なにぶん『自分勝手』なため、世界の管理を任せるとなると…」
ご主人様「人間と意気投合したような世界になりそうだね。」
メイド「世界自体が増えることも問題です。
人間一人に宇宙が1個ついてくる、みたいなものです。」
うん、そりゃやばい。鼠算的に作った世界から世界が増えることもありそうだ。
メイド「なので、前回の仕事は承認廃棄自体の判断に大きな意味は持ちません。減らせればよかったので。」
ご主人様「人間に悪影響を及ぼしそうなの、って選んじゃったけど…大丈夫?」
メイド「私たちは信仰心で成り立ってる訳では無いので大丈夫です。」
ご主人様「はい!はい!ここの神と人間の関係は。」
メイド「あの親バカ除き、特に関係はありません。偶然を作り出して、そこに勝手に居着いた生物ですね。」
ご主人様「あの神は何の神なの?」
メイド「…あの方は創造神から創造されたものの統合や乖離を司る…まぁ、結び神とでも言っておきましょう。ある意味、価値と価値を組み合わせ、新たな価値を創造する人間と一番近い神ですね。」
ご主人様「確かにそれは凄い神だ。前世の記憶での創造神の傲慢さが消えた。」
その神を創ったのも創造神であることには変わりはありませんが。創造神の物の管理をあの神に押し付けた…任せたに過ぎない。
ご主人様「ここにいる神は何柱いるの?」
メイド「創造神が思い着き次第、何柱にも増えますが、貴方様が来る前でしたら、
創造神、結び神、世界神、法則神。上位神四柱に、その眷属がいますね。創造神が最上位神になります。
そして、貴方様は創造神の眷属になりますね。」
嘘ですが。
ご主人様「…前の仕事って私の仕事だったの?」
メイド「あれは世界神から奪…貰ってきた仕事です。」
ご主人様「今奪うって言いかけてなかった?」
メイド「聞き間違いでしょう。」
ご主人様「そっかぁ!」
ご主人様「とりあえず聞きたいことは聞けた。授業再開しよう。」
始まってもないが
メイド「転生後、神の採用基準としては、
1、上位神四柱の赦しを利用し世界の為に奮う以外に利用したことがないこと。
2、最後まで人間として人間の探求を続けること。
3、2によって惑いがあったとしても人間の可能性を信じ守り続けること。
4、人間を諦めること。つまりは自殺です。」
正直、驚いた。
3と4は同時には無理なはずだ。
自殺は何らかで、人が絶望した時にやる行為で、3をやり続ける限り、4は選べない。
なら私は、どうして神として働いているのだろう。
ご主人様「私が採用された理由は?」
メイド「条件を全てクリアなされた方ですから。」
ご主人様「いや、3と4は同時クリア無理じゃない?」
メイド「自殺に含まれた意味などありませんよ。
あなたは、ビルの上から飛び降り意識が無くなる瀬戸際まで欠けることなく人を信じ続けておりましたから。」
ご主人様「……ただ、無かったから無に還っただけだよ。」
メイド「それが理由ですよ。」
ご主人様「…はいはい、じゃあ次。」
メイド「次は神の生態構造を解説します。
神におよそ肉体と呼ばれるものは存在しません。仕事に対し情動と呼ばれるものもありません。目的自体を情動とすることは多くありますが。」
ご主人様「上司が怒るのを教育だって言うような?」
メイド「いえ、私事をゴールにして仕事をするような。」
ご主人様「……でも例外もいるでしょ?」
メイド「即刻廃棄です。」
ご主人様「人間じゃ絶対できない所業…」
メイド「死はこの天界ではご褒美ですよ。」
ご主人様「たしかに野放しにされるという過程を踏まない分屈辱感は減るかもね。
…無能な神はいるの?」
メイド「いますよ。流石に上位神にはいませんが、眷属や精霊神には多数。この間廃棄してもらった神の中にもいますよ。」
ご主人様「えっ、それ大丈夫?私恨まれたりしない?」
メイド「没案にして私たちに媚びるような世界を作るのと、そのまま潔く死に向かうのとで言えば、
後者の方が楽で、精神的自由も守られますよ。実際、創作者にとって言えば、ポンポンと精霊神を生み出すようなものですから、何のデメリットもありません。」
前世の私もそんな思考をしていた。
現代の平和な世界より、戦前の世界の方が「優しかった」とは思う。
物理はどんなしがらみからも切れるものだ。
死は生前にやり残したことは沢山あっても、希望を持てた。他者を無理やり従わさせることなんて造作もない。
けれど、恐怖の隙間もなく精神を汚染され、従わせる方法もない。それのなんと惨いことか。
どちらも不正解。
であるなら、創るしかない。
「この間の廃棄にチェックした神達ってまだ廃棄されてない?」
メイド「残念ながらもう既に廃棄済みです。」
「じゃあチェックした資料もう一度見直させて。」
メイド「…わかりました。」
人を甘やかす。それは人が行っていいことであって、神としての線引きは必要だ。
いつだって世界は生命、植物、全てに無関心だからこそ、あんなにも創作に溢れた世界になった。
平等に離れさせた。共感なんてできない世界にした。
好きに考え、好きに楽しみ、好きに悲しみ。好きに選んだ道。
「助ける」だなど烏滸がましい。
「…はい、提案書。確認してからいいなら、転生部門の神に出してきて。」
メイド「…そこは自ら行かないのですね。」
ご主人様「1つ、私の手柄という名誉は要らない。
2つ、直接行かなくても私に逐一確認して代理で出せばいい。
3つ、あの結び神が怖い。」
メイド「…承知いたしました。」
そう言い部屋を去る。
こんな提案書なくともご主人様は無意識に全てを変えてしまう。
ご主人様の頭脳の中に全ての矛盾も個体差も、何もかもがあり、「嫌い」と言い、「消したい」と願えば誰も認知出来ないまま消え去る。
ただ、今回は、「他の神の協力が必要だ」と認識したからこそ提案書を作れた。そして、新しく「転生神」を作った。
転生神がどんな性格をしているかも調査しないといけなくなった…
いつになったら、ご主人様は「創造神」と自覚するのだろう。
まぁ、自覚しない方がいいでしょう。認識が狂い出したら後が大変だ。
結び神を作り出すほどに、あのお方は「減る」ことを恐れる。変えるとは、「跡形もなく消し、新しいものを生み出す」こと。
認識外のことが起こらない。そんな都合のいいことに「変えて」いることを絶対に許したくないのだ。
創造と破壊は表裏一体。
無限に近しい有限の世界を創り出した代償を未だ知らない。
ただ、いまは、目を瞑るのみ。
令和(新人)と平成と昭和の声優でやりたいけど、昭和は結構きついかもなぁ…
主人公は令和で決定。メイドさんは当てたい人がいるし、結び神は…くぎゅの怖いところが見てみたいっ
あと、制作はシャフトさんに任せたいな