92.離れ難いのは親か子か:sideリドクリフ
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リアラの広いベッドで一緒に横になりながら、寝顔を見つめては、年相応に大泣きしたのを思い出した。まだ幼さの残る丸い頬に泣き跡を残して、大きくぱっちりとした目が溶けてしまうかと言わんばかりに滝を流す。そんな年相応のことをした彼女を可愛い以外に出なかった。不謹慎にも、腕の中で大泣きし、自分の服を汚しているというのに、嬉しさで頬が緩んでしまうほどだ。
普段彼女は我慢強く、寂しさを巧妙に隠すのが上手い。手紙にもそのような節を微塵にも感じさせない。むしろ私がいつも寂しくなってしまうほどだ。
しかし、最後に貰った手紙に寂しさを滲ませていたのを思い出す。早く春になって欲しいのは寒さからの一言ではないだろう。そういうニュアンスで手紙は記載されていたが、恐らく、最後の一文に加わった言葉は彼女の本音で、彼女の唯一の寂しいだった。
私がここへ帰ろうと決心したのはこの手紙がきっかけだった。帰ると決心すれば早い。スティルスが若干引いた顔をしながらも、彼も王都よりもエステマリア領の方がのんびりしていて帰りたいとぼやいていたので、私のエステマリア領への帰領の手伝いをしてくれた。ルドガー殿と手を組んで、宮廷の仕事を割り振ってくれ、エステマリア領へと持っていけるように手配をしてくれた。元々王都に戻ったのは、社交がメインだったので、宮廷での仕事を持ち帰れるのはあっさりと許可が得られた。元々、春から夏は基本そのように対応していたので難しくもない。
そして一番骨が折れたのは兄上の説得だ。リアラでさえあまり泣かないと言うのに、大人な兄上が泣きじゃくったのだ。それに、リアラでさえいやいや言わないというのに、2歳児の反抗期のごとくいやいや期が発生。なまじ実権と立場のある男がするので質が悪い。彼が許可を出さない限り立ち去れないという。困った兄を持った。結果、説得にとても時間がかかった。しかも、時間をかけていた間にエミリア嬢からの手紙が届いた。
アルテンリヒト夫妻を連れて帰領しなくてはならず、その際にリアラが屋敷に1人になることを危惧した内容。更に、隠しているが寂しそうにしているという内容。それらを読んだらもう私の感情が溢れてダメだった。私だって寂しかったしいち早く帰りたかったのだ。最後、エミリア嬢の手紙を持って兄の元に乗り込むと、再び泣き出した兄に心を鬼にして無理やり説得。最後は、義姉様によって無理やり丸め込まれてくれたので、私はそれに感謝して馬に乗ってこちらへと来た。馬車だと7日間かかる道のりを4日かけてくる。道中の宿ではそわそわと落ち着かず、夜の帳が落ちたと同時に眠り、空が白んだと同時に起きては出発を繰り返すくらいには急いだ。
最初に決めた取り決めではこのようになるつもりはなかったが、彼女と過ごす内にいつかはこうなると思っていた。どうやら私は思っていたより堪え性ではなかったようだ。
馬車ではなく馬に乗って単騎飛び出した私の背中へ文句を垂れていたスティルスは、馬車で後ろから着いてきていた。途中から随分と離したので、もう数日したら追いかけてきたスティルスは伯爵邸に到着するだろう。
なんだかんだ文句をたれていたとしても彼も帰りたがっていたし、スティルスは何かと私の我儘に幼い頃から付き合ってくれた。その存在へ存分に甘え感謝しながら私はエステマリア領へと帰ってきた。そして、そのままたまらなく娘を抱き上げた。小さな温もりに、優しい香りが漂う。幼い彼女からも私と同じ柔らかい花の香りがしたのが嬉しくて心が躍ったことは内緒である。
そうしてアルテンリヒトの人々を見送った現在、柔らかなハニーブロンドを私に撫でられ、ぷうぷうと寝息を立てるリアラのその姿は年齢相当に幼い。ベッドに下して離れようとしても服を掴まれて離れられなかった。何だったら、胸元しっかり掴まれてしまったので、一緒に横になる術以外なかった。これは、不可抗力であると言いわけしながら、この小さな温もりを手放すのが今は少しもどかしかったのは事実だ。下心3割、真心7割として手を打たせてもらいたい。決して頬が緩んでいたわけではない。
ふっくらとした頬に手を伸ばすと、己の手のひらより小さい。胸を掴んでる手もまだまだ幼く、どうして彼女はひとりでも平気だと思えたのか不思議になるほどだ。
まだ、彼女がこの邸に来てまもなくに出会った、彼女の兄の存在。それを見た時でさえ、声を殺して泣いていたのを思い出す。あの頃は、まだどこか周りの顔を伺っている様子から、随分と大人しかった。更には、声を上げて泣くことすらなかった。
ギターを購入してからは何やら吹っ切れたように明るくなった。そこからか、いつも彼女はくるくると表情が変わったように思える。その時くらいから、リアラは私に心を許したようにさえ思えた。そこからの記憶が多かったからか、すっかり忘れていた。
私が離れて寂しがるほどでは無いと思っていたし、むしろ寂しがって欲しいとも思っていた。だからこそ、今回、彼女が私を見て大泣きするくらいには、寂しさのピークが来ていたことがこんなにも嬉しいと思ってしまうのは仕方ないだろう。
極たまにだが、娘を持つ貴族が娘の可愛さでデレるところを見たことがあったが、きっとこういうことなのだろうか。彼女は契約ではあるが婚約者で、娘ではないのだが。なんだかんだと、私が王都へ戻るまではほとんど一緒にいた。執務中でも時折お茶を運んできてくれたり、共に散歩したり、演奏会をしてたり、毎日食事は一緒だったし、お茶会だって時折していた。思えば、あの半年間気がつけばふっと傍にリアラがいたように思える。
「これじゃぁ、どっちが離れ難いのか」
静かに零した言葉はリアラの寝息とともに溶けていった。
どうでもいいひとこと:
昔、3か月のNZ研修に出ていた時に、他の人はホームシックで枕を濡らしていて私はそんなことなかったので平気だなと思っていたんですが。帰国後、親の顔を見たとたんに泣き出しました。そしてやっと「あ、私ホームシックだったんだ」って自覚しました。リアラもそういう感じです。リドクリフの顔を見てまだいけるし、一人でも大丈夫が瓦解した感じです。その時の感情を思い出しながらリドクリフ帰領までのリアラを書いてました。次からはのんびりした話を書こうと思ってます。100話までのカウントダウンもあと少しです。まだまだお付き合いください。




