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88.噂の真偽はいつも

 街を見たあとは、その足で自慢の温室へと向かった。



温室で働いている人達は、ハンゼン様以外の貴族が数名。全員、次男三男あたりで薬師に興味ある方で集まった、他の領の人たち。あとは、この村にいた人でそういうのに興味のある庶民の10歳から年齢は限界もなくが数名。



 そんな場所だから、お姉様の反応が少し気になったが、思っていた以上に気に入った様子だった。民間の薬師希望の子どもから大人たちを相手に、むしろ関心を覚えている。そんな様子を見ていると、エミリアお姉様は思っていた以上にこの伯爵領を気にかけていたのかもしれない。



 さらに驚いたことは、ハンゼン様とお姉様が仲良く話していることだろう。お姉様とハンゼン様が何を話しをしていたかは分からないけれど、意外にもふたりは話が盛り上がっている。お姉様はハンゼン様の言葉遣いで敬遠するかと思ったが、思っていた以上に打ち解け話してるのに私も驚いた。



「なにかしら。もしかして、私がハンゼン様とお話してるのがそんなに不思議かしら」



 いつの間にか名前で呼びあってるし。最初は貴族らしい呼び方してたけれど、気が合うのか気がつけば名前呼びとなっていた。年齢も近いと聞くので、おそらく話しやすいのだろう。少しだけ羨ましいなと思うけど、私自身は精神年齢でその差を補っているのだから当たり前だ。



「お姉様は――」


「え、なに、エミリア嬢はリアラにお姉様呼びさせてんの?!」


「宜しいではありませんか、私も年頃なのですよ。この年でおば様呼びは少しきついですもの」


「あー、まあ、分かる」


「…………」



 私が入る隙がない。


 私に話を振ったというのに、話が飛躍して、今度は温室にある植物を紹介して欲しいということでふたりが研究室を出ていった。私も誘ってくれたが、さすがに少し歩き疲れたので、ハンゼン様が個人で導入したハンモックに横にならせてもらう。



 研究室の端、日当たりのいい場所に、柱と柱で繋いでいるハンモックは、研究室の休憩場所としてもあり、研究疲れの時にここで横になると気持ちがいいと言っていた。確かに、このぽかぽか陽気を直で浴びると痛くて寝れなさそうだが、レースカーテンが上手くそれを中和してくれてる。窓を開けると風も冷たくて心地がいい。ハンモックの中にあるブランケットを広げて被ればちょうどいい温かさ。少し落ち着いた日差しにこの陽気。ぽかぽかと優しさに包まれている様で、幼い私の体は素直に眠気を誘ってくる。



――これは……、眠くなる



 エミリアお姉様が来ると聞いた時から気を張っていた。現実は違っていたが、あの第一印象から抜けないあの苛烈な人が私をなじりに来るのだと思っていたのだから、尚更。だからなのか、このぽかぽかとした陽気に意識を持ってかれる。人間の重みで沈むハンモックが、体にピッタリとフィットして、抱きしめられた感覚がまた落ち着く。



 そうしてこってりと意識が飛んだ。そもそもが5歳児で、お昼寝が当たり前なお年頃なのだ。こんなにぽかぽかとした陽気に当てられてしまえば寝ないはずがないのだ。



「珍しい」



 眠りこくった私を覗きながらハンゼン様がこぼしているのを、私は知らない。





「こう見ると年相応の子どもだよね。普段はあんなに大人顔負けなのに」



 ハンモックで静かに寝息を立てているリアラの頬っぺたをつつきながら、ハンゼンは静かに笑った。



「やはり、ハンゼン様もそう思われてるのですか?」


「そりゃぁね、子どもであんなにぽんぽんと頭が回るのなんていないよ。秀才・天才と言われても、何かしら子どもらしさは残るのにこの子はそんなモノないんだから……」



 ハンゼンはリアラの髪に指を絡ませると、その細くて綺麗な金糸をゆっくりと撫でた。



「それでもあたしは、リアラ嬢がいてくれてよかったと思っている。それは少なくともここで働いている人間全員が思っているよ。もしかしたら、この領全体もそうかもね。街を歩いていてもよくわかる」


「それは、少しわかりますわ」



 ハンゼンの言葉に、エミリアは頷いた。お人形のように整った顔をした姪を見つめて何かを思うようにぽつりと言葉を零した。その様子にどう思っているのかは分からない表情でハンゼンはエミリアを見つめていた。エミリアは、その視線に気が付いているが、なおもリアラの横顔を眺める。



 アルデンリヒトでのことや、性格や今までの素行や学園などの噂は引きこもりのハンゼンにもしっかりと耳に入っている。それを聞いた時は貴族らしい令嬢だと思った。だが、実際に会話して思うのは、噂だけは当てにならないということだろう。それは、この領のこともそうだ。不正があり、領主が断罪された。そして、それからここはあまり人気のある土地ではなかった。貴族は、忌避して近寄ろうともしなかった。



 そう噂をされていたというのに、ハンゼンはこの領に来ていろいろと新しいものが増えた。環境、人間関係。それらを含めても今ハンモックの中で揺られて、気持ちよさそうに眠っている少女がもたらしたのだと思うと、少しだけ不思議な感覚はする。最初は、こんな小さい子が治める領地だと言われて、随分と不安を覚えたものだが、今となってはそんな不安も心配も不要だったと素直に思える。ここに来てから、元婚約者のハイネともよく話すようになった。まだ、お互いぶっきらぼうで素直に全てを話は出来ていないが、ハンゼンの気持ちは毎日届けられているので心配もない。今は未だ、ただ単純にお互いがやりたいこをしている。



 それでいい。それがいい。そうやって、気が付いたらまた一緒に歩められるように環境をお互い整えているのだ。



 それはきっとエミリアも一緒なのだろう。今はまだ、失恋はつらく、時折自分を見失うだろうが、それでも決まっている相手と共に手を取って歩けるように、環境を整えている。そして、それは、この小さな存在が自ずと示してくれるのだ。そう期待している。



「私、王都の噂でハンゼン様はもっと危ない人だと思っていたわ。だって、毒を作ったり、人に毒を投げたり、危ない薬品で脅したりしたって聞いたもの」


「ふ、はははは……それはそれは、強ち間違っていないんじゃないかな~」


「そうなのですね。私、噂は自分で見聞きするまで信じないたちなのでけれど、強ち噂は信じるべきなのですね」


そう言って上品に、そのお嬢様は笑った。

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