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86.拝啓から始まる

少し短めです


 ご飯はアルテンリヒト家の人たちも揃って食事をした。



 いつもよりも多い人数での食事は、賑やかでそして楽しかった。それでも、やはりいないリドクリフ様に寂しさを覚えながらも、最初に抱いたエミリア叔母様に対する認識も随分と変わったからか、感じていたアウェイ感は消えていた。



 出された食べ物は、地元でとれる海の幸がメインだった。どれも美味しくてすっかりとお腹を膨らませてしまう。そうして、子どもは寝る時間になるので、大人たちを食堂に置いて早めに部屋へと退散した。



 そのあとは、いつも通りメイドたちによってお風呂へと入れられ、丁寧に磨かれれば、あとは寝るまでゆっくりとする時間だ。



 湯上りに磨かれながら軽くストレッチを済ませて、いつもなら次の日の授業の予習をしているのだが、今日はそんな気にもなれずにルーナに淹れてもらったハーブティーで一息をつけていた。それと同時に、持ってきてもらった便箋と羽ペンをもって改めてリドクリフ様へと手紙を綴る。



 まだ、前回送った手紙から返事はもらっていないが、今日は叔母様も来たということで報告に近い手紙の内容だ。きっと、こちらからあちらに送っている間にあちらからの返事の手紙が届くのだろう。行き違いとなってしまうので、定型文の後に今回の手紙に、この手紙に対する返事は次回で問題ない旨を忘れずに書かねばならないだろう。



 いつもと変わらない書き出しから始まって、今日見たハンネ先生の内容もちょっとした世間話に入れる。たった1日の話を書くだけだというのに、膨れ上がる便箋の数に、今日は本当はとても不安だったんだと自分でもわかってしまった。



 苦手意識をしている人が自分のテリトリーに入ってくれば、意識してしまうのも、それに引っ張られてセンチメンタルになっていったのも今になっては納得する。



お爺様もお婆様もとてもいい人たちだから、もっと頼って欲しいと言ってくれるだろうけれど、どうしても赤の他人に近くて。親身になってくれたりし、紛うことなく遺伝子は受け継がれているのが分かるが、それでもどこか遠い。きっと、私がただの5歳児であれば今以上の愛情があったかも少しだけ分からない。



 私の父であるフィリップをとても大切に育てていたからこそ、私を気にかけてはくれるだろうが、それと同時に母のアリステアに対しての感情で抑制されていそうだ。



 私の造形は母に似ていると聞いている。色合いは父だから、パッと見ただけだと父親似だと言われるが、よくよく見るとお母さまの見た目にアルテンリヒト家の色をまとっているというとても分かりやすい足して2で割っている状態なのだ。だから、愛したいけど愛しづらいだろう。



 そうして、虐待まではいかないが、愛情をもって接することを難しく感じて、距離を取り、接触が減ることによって身内から受ける愛情というものが足りないまま育っていただろう。きっと、ネグレクトに近い環境下で、本当に血の繋がりのある人たちからは腫れ物の様に接されたら、幼いリアラ・エステマリアはひねくれるか、暴れるか、心を閉ざしてしまうかしてたのだろう。



「あ……」



 そんなたらればの妄想をしていれば、いつの間にか手が止まり、手紙には小さな黒い水たまりを作ってしまっていた。



「あーあ……」



 これはもうだめだなと思えば、一度書いていた手紙を横に置いて新しい便箋を引っ張り出した。



「お嬢様が書き損じるのはめずらしいですね」



 ルーナがお代わりのハーブティーを淹れてくれる。それに口をつけると安心してほっと息を吐く。結局はそうならなかった。



 お爺様もお婆様も、伯父様たちも伯母様、叔母様達も驚く程に私に優しい。今こうやって、素直に幸せだとお茶を口にして感じるのは、一重に周りにいる人たちの優しさから成り立つ。やりたいことをやらせてもらい、意見したものを聞いてもらい、実際に目の前に贈られると、実感するのだ。随分と甘やかせらているのだと。



 私は比較的自由だ。子どもだからあまり単独行動は出来なくとも、領内のあちこちを動き回ることは許されている。ライラックではあまり私が時期領主だと言うのを振れてないから、私はただのリアであるが、ブーゲンビリアはしっかりと私が時期領主であることが知れ渡っている。



 主に、リドクリフ様が主体となって動いてくれたリゾート開拓案件のものが原因だ。更には、工場やら研究所兼用の温室作成など、街の人と顔を合わせなくてはならないのだ。嫌でも覚えられてしまった。それはいいことなのだと思ってる。領主であっても、王都にある邸にいて実際は代官が治めてるところも多く、領主の顔を領民が分からないことの方も多いからだ。



 まだまだ幼くて、女であるということは会う人それぞれに難色を示すことも多く、リドクリフ様とお爺様のお陰で話が進めることが出来ることの方が多い。知識はなく、思いつきがほとんどだし、わかる人を上手く采配してくれるおふたりにはいつも助けられる。



 そんなセンチメンタルな感情を露わにするのも、きっと理想の親子を目の前で見てしまったからだろう。



 きっとこれはどこかに吐露しなくては、数日は引き摺ってしまうだろう。本日の手紙には、進捗以外にも、今日感じた素直な心も綴っていいだろう。私が甘えられる唯一の存在は、お父さんで、お兄さんで、婚約者な彼しかいないのだから。まだまだ5歳児なのだから、それくらいは受け止めてくれるはず。



 私はハーブティーで心を落ち着かせて、再び筆をとる。文末には、――早く、春になって欲しい……、と寂しいを隠して。



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