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85.気恥ずかしい照れと柑橘の香り


 突然に振られた謝罪の言葉に、幼い私は何を返そうかとも思えなかった。先ほど、叔母様も言ってくれたように、それを受け取るかは私次第で、許すも許さないも私が決めていいのだ。謝りたいのは彼女で、それを受けとって仲良くした以下はまた別の話だから。



「あの……」



 何を言葉にしたらいいのだろうか。どう返事したらいいのだろうか。私は、落ち着きなく指遊びをする。



緊張しているからか、無意識下でしている手遊びを、叔母様は指摘することもなく私の次の言葉をじっと待ってくれていた。



最初の印象が強烈だったから、それがずっと頭から離れることがなく、彼女の勝手な印象を持っていたことは確かによろしくなかった。ルドガー伯父様やハルシュタイン氏の言っていたことは本当だったことに未だに頭は追い付かないが、彼女の落ち着き払ったその姿を最初に見せられればあの苛烈な彼女の姿の方が嘘だと思うだろう。



「私も……、私も叔母様の最初の印象から苛烈な方だと思い込んでいました。ごめんなさい」



 改めて、叔母と向き合って頭を下げるとお揃いの瞳が丸くなっている。私からの謝罪はそれほどに意外だったらしい、エミリア叔母様もどう返事したらいいか分からないように固まってしまっていた。



「あ、そう、ね。第一印象があれだったのだもの。そう思われても仕方ないわ」



 そうして、数秒後。調子を取り戻した叔母様はふんわりと柔らかい笑みを浮かべた。気にしていないから謝らなくていいと言われて私は体制を起こす。



「ここではなんですから、屋根のある所に移りましょう。あちらに東屋があるので」



 いつも走っている楕円型の道の外れ。庭の少し奥の位置にある東屋を指さすと、流石に庭に長い時間立ち話をしていたことに自覚のある叔母様は素直に頷いた。



 私は叔母様の隣を歩きながら、ルーナにお茶を準備してもらうために席を外してもらう。



「綺麗に手入れされている庭ね。貴方の領はハーブティーが特産になりつつあると聞いていたから、もっと薬草が植えられていると思ったわ」


「毎日庭師が丁寧に手入れをしてくれるので。お陰様で素敵な庭で維持できておりますわ。薬草は、基本温室の方で育てていますから、あまりこういう場所へは植えていません。最近では、領で一番大きな温室を作成いたしました。研究所と併設していますので、ハンゼン様含めた薬師は今そちらで作業しております」


「そうだったの?もしかして、この邸に来る前、東の方に見えていたガラス張りの大きな建物かしら」


「それですね。あそこを中心に更に街の外へと土地を広げて植物園なんかにしようとも考えております」


「あら、素敵ね。出来たら是非にうかがわせていただきたいわ」


「……温室、気になりますか?」



 東屋に着くと、供えられている椅子にそれぞれが腰を掛ける。丸いふたり用のテーブルを挟んで向かい合った形。思っていたよりも会話はスムーズで、思っていたよりも会話が弾む。



この人、リドクリフ様を挟んだら、暴走系になるけれど挟まないとまとも以上に利発的な人だ。周りをよく見て理解しているし、アンテナもしっかりと立っている。



学院ではかなり優秀だとも聞くので、恐らく計算も速いのだろう。そういう印象を持ちながら、ルーナが持ってきてくれたハーブティーに口をつける。柑橘系の香る爽やかなそれは口当たりもさっぱりとして飲みやすい。



「ええ、気になるわ。それも気になるのだけれど、何よりも、明日は街を歩いてみたいわ。ブーゲンビリアの街を……ライラックはとても賑やかなのは変わりないのだろうけれど、ブーゲンビリアの街を馬車で走らせて気が付いたの。とっても活気がある街だって。


まだ、フィリップお兄様もアリステア義姉様もご健在だった時に一度来たことがあったのだけれど、随分と人の活気がない印象がとても強くて。遠くに海の見える綺麗な街だというのに、どこか住んでいる人たちは元気がなくて、建物も空き家が多くて廃れ始めていた。


……それが、今日改めて馬車で来て驚いたわ。待ちゆく人たちはとても明るくて、あの時みた街には人が溢れていて。とても、びっくりしたの。確かに大人の助けがないと出来ないことが多いところはあるだろうけれど、5歳児の貴女が考えたと思うとすごい感慨深かったわ。5歳のころの私はきっと無理だったもの」



 叔母様の方に注がれたハーブティーに口をつける姿を眺めながら、彼女の言葉を噛みしめながら少しだけ照れくさくて、身じろぎする。



 普段、一緒にいるような身内の人たちはよく私を褒めてくれるから、実感はしなかったが、こうやって完全に外部から来ている人に褒められると嬉しいものだった。



「このハーブティーも美味しいわ」



 ほっと落ち着いたような笑みを浮かべるエミリア叔母様を見ると、年相応の女の子に見えてくる。



「あの、私は生まれた時にはすでにお父様もお母さまもいなくて、育ててもらった父さんと母さんはいて、ここに来るまではただの平民として過ごしておりました。だから、街の雰囲気が変わったのは市井に暮らしていた私もすごく実感していて……だから、その。外から来てくださったエミリア叔母様からそういってもらえて素直に嬉しいです」



 ハーブティーを飲んだからか、体中の体温が上がる。同時に頬もほんのりと熱いのは、きっと照れからではないだろう。



 そんな私を見た叔母はどこか嬉しそうに口許を緩めていた。



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